『経方方証縦横』の資料に基づき、麻黄升麻湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案
弁証要点
本方の臨床応用における要点は以下の通りである。
- 基本効能と特徴: 本方は上部を清熱し、下部を温める(清上温下)とともに、陰を益し毒を解し、鬱滞した陽の気を発越させる処方である。構成される薬味が多く、用量は少なく、寒熱の薬を併用し、攻める働きと補う働きを兼ね備えており、「鬱陽を宣発し、正気を助けて邪気を追い出す(扶正達邪)」ことに重きを置いている。
- 適応疾患: 外感温熱病の後期において、邪気が裏に陥り、陽の気が鬱滞して伸びず、上熱下寒や寒熱錯雑の状態を呈する証を治療するのに用いられる。
仲景方論
張仲景の『傷寒論』からの引用として、以下の1つの条文が記載されている。
『傷寒論』第357条:「傷寒六七日、大下して後、寸脈が沈にして遅、手足が厥逆し、下部の脈が至らず、喉咽が不利し、膿血を唾(は)き、泄利が止まらない者は、難治と為す。麻黄升麻湯がこれを主治する」。
注家方論(歴代の注釈家による考察)
歴代の医家たちが、本方の寒熱併用・攻補兼施の複雑なメカニズムについて以下のように考察している。
- 成無己(『注解傷寒論』): 大熱の気は寒薬で取り、甚熱の気は発汗させるという『玉函』の言葉を引き、麻黄と升麻の甘味で浮熱を発散させ、正気の虚は辛味で潤すとしている。当帰・桂枝・干姜の辛味で寒を散らし、黄芩・知母の苦味で上熱を泄し、茯苓・白朮の甘味で津液を生じさせ、芍薬の酸味で逆気を収め、萎蕤(いずい)・天門冬・石膏・甘草で肺を潤し熱を除くと説明している。
- 方有執(『傷寒論条弁』): 邪が深く入り陽が内陥したため寸脈が沈遅になるので、麻黄・升麻でこれを昇挙して発散させ、手足厥逆で下部脈が至らないため当帰・姜・桂で温潤して到達させると分析している。また、芍薬・甘草で咽喉を利し、萎蕤・天門冬・黄芩・知母で肺を潤し熱を除いて膿血を止め、白朮・茯苓で泄利を癒す構成であり、石膏の徹熱の功がこれら諸薬をうまく斡旋していると解説している。
- 張錫駒(『傷寒直解』): 麻黄・升麻で下にある陰を啓いて上の陽に通じさせ、当帰・芍薬・天冬・萎蕤で陰を治して膿血を止め、干姜・桂枝で陽を助けて泄利を止め、知母・黄芩で火熱を写して咽喉を利すると解説している。また、茯苓・白朮・甘草で中土を益して血気の根を培い、質が重い石膏が麻黄・升麻を裏の陰から肌表へと引き出すことで、陰陽が調和し汗が出て治癒するのだと述べている。
- 尤在涇(『傷寒貫珠集』): 麻黄・升麻で陽邪を発散させるが、当帰・知母・萎蕤・天冬の潤いによって肺気が守られ、発越の害を被らないと指摘している。また、桂枝・干姜で厥逆を通じさせるが、黄芩・石膏の寒性によって中気が調和し、熱性による乾燥の害を防いでいると分析している。芍薬・甘草・茯苓・白朮は泄利を止めるだけでなく、中焦を安んじて気を補い、上下を通じさせ陰陽を調和させる役割を果たすとまとめている。
- 呉謙(『医宗金鑑』): 升麻・萎蕤・黄芩・石膏・知母・天冬は上を走って熱を清する品で、下部の寒を避けつつ上部を滋養するとし、麻黄・桂枝・干姜・当帰・白芍・白朮・茯苓・甘草は外を走って温散する品で、上部の熱を遠ざけつつ内を和ませると解説している。温めて三回に分けて服用し、微汗をかかせて治癒させるのは、正気を傷つけずに邪気を徐々に取り除くためであると述べている。本証は純粋な陰寒の邪ではなく、大下の誤治によって生じた寒熱混淆・陰陽錯雑の病であるため、去邪を主とすることで正気が自ら安んじるのだと評価している。
医案選録(名医の臨床カルテ)
この項目では、寒熱錯雑や誤治による複雑な重症例に対し、本方を用いて救命した2つの臨床例が紹介されている。
- 張石頑の医案(寒熱錯雑による吐膿血・泄利):
- 20代の婦人。腊月(陰暦12月)に咳を患い、半月ほど経った正月に自汗、体倦、咽痛を発症した。元宵(正月十五日)に悪寒発熱し、翌日には腹痛と自利(下痢)、手足の逆冷、異常な咽痛が現れ、さらに3日後には咳とともに膿血を吐くようになった。脈は軽く取ると微数で、深く押さえると無く、寒熱の判別が難しい状態であったが、仲景の厥陰篇にある「麻黄升麻湯証」に似ていると見抜いた。もともと冬温の軽い症状だったところに、過労で脾肺の気を傷め、さらに寒邪を受けたために寒閉熱鬱となり、少陰・厥陰に邪が伝わって咽痛や膿血が生じたと弁証した。本方を与えたところ、1剤で微汗をかいて手足が温まり、下痢が止まった。その後、異功散と生脈散を併用して全快に至ったという症例である。
- 陳遜斎の医案(誤下による陽鬱・下痢・喉の白腐):
- 以前喉痰や下痢を患ったことがある患者。寒熱病が10余日退かず、脈を取る間にも2回下痢し、頭痛、腹痛、関節痛があり、喉が白く腐って膿のような血痰を吐く状態であった。脈は浮で、中按も重按も微緩、口渇や尿少も見られた。以前に瀉下薬(瀉塩)を3回飲んで水様便が頻発し、脈が陰に変わったという経緯を聞き、「麻黄升麻湯証」であると診断した。下虚上熱の体質に太陽傷寒が起こったところを誤下したため、表邪が退かずに外熱が内陥し、喉の旧痰を動かして白腐や膿血となり、大下によって水様便になったと病理を分析した。家族から麻・桂の温性を恐れて人参を加えるべきか問われたが、脈沈弱・肢冷は「陽鬱」であり「陽虚」ではないため、加えると消炎解毒の邪魔になると指示し、本方の原方そのままで服用させ、結果として治癒に至った。


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