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経方方証縦横に学ぶ小陥胸湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

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経方方証縦横に基づき、小陥胸湯の「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」についてまとめる。

 

  1. 小陥胸湯の弁証要点

 

  • 基本病機と適応:****痰熱(熱を帯びた痰)と水飲が胸脘(胸からみぞおち)に結びつき、気機の巡りを遮断している病態(痰熱与水飲結于胸脘)を治療する。

 

  • 方剤組成:黄連 一両(3g)、半夏 半升(12g)、栝楼実(大者) 一枚(30g)。

  • 黄連(苦寒):胃の中の邪熱を清瀉し、みぞおちのつかえ(痞満)を直接除く。

 

  • 半夏(辛温):湿を乾燥させて胃の働きを和らげ、痰を強力に化す。

 

  • 栝楼実(甘寒):熱を清めて痰を滌い流し、痰熱がスムーズに下へと流れるのを助ける。これにより黄連の清熱と半夏の開結作用を同時にサポートする。

 

  • 煎じ方(服用法)の特徴: 先に大きな栝楼実だけを水六升でじっくり煮出し、三升まで減らして滓を去ってから、黄連と半夏を入れてさらに三升になるまで煮て、三回に分けて温服する(先煮栝楼)。栝楼を先に煎じることで、その薬性をマイルドかつ醇和にし、栝楼の持つ脂っこさ(膩性)を避けて、治療効果を最大限に引き出すための素晴らしい工夫である。

 

  • 臨床での使用目標:以下の症状を決定的な審証(弁証)の要点とする。

  • 正在心下、按之則痛(つかえや不快感がまさにみぞおち(心下)の狭い部分にあり、指で押すと激しく痛む)。

 

  • 脈浮滑(脈が浮いていて、コロコロと滑らかに滑る)。

 

  • 舌苔は黄略膩(黄色でややねっとりしている)。

 

  • 大陥胸湯との明快な鑑別:

  • 大陥胸湯(大結胸):邪熱と「有形の水(蓄水)」が結ばれ、病変が胸から下腹部全体に及んで、「触ることもできないほどの石のような硬さと激痛(痛不可近)」を呈する。

 

  • 小陥胸湯(小結胸):邪熱と「粘り気のある痰(熱痰)」が結ばれ、病変はみぞおち(心下)だけに限局し、「普段は何ともないが、手で押した時だけ痛む(按之則痛)」という、より軽くて安全な状態である。

 

  1. 仲景方論

 

張仲景の『傷寒論』第138条に、本方の主治が極めて鮮やかに定義されている。

 

  • 『傷寒論』第138条:「小結胸病、正在心下、按之則痛、脈浮滑者、小陥胸湯これが主る」。

 

  1. 注家方論(歴代注釈家による考察)

 

歴代の医家たちは、黄連・半夏・栝楼の三味が一体となって発揮する驚くべき調和の力や、排泄される物の薬理的な違いを以下のように深く分析している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』): 「苦は以て泄し、辛は以て散ず」という原則の通り、黄連と栝楼実の苦寒な性質によって体内の熱を清瀉し、半夏の辛温な性質によって結ぼれた痰を散じ、みぞおちをスッキリと通暢させる構成であると説明している。

 

  • 張錫純(『医学衷中参西録』): この証は、心火(心臓の熱)が盛んになり、みぞおち(心下)の水分をドロドロに焼き焦がして「熱痰」へと変えてしまい、そこへ表の陽気が内陥して膠着したものである。脈が「滑(滑脈)」なのは熱痰が存在する最大の証拠である。黄連で心火を静めて熱の結びを和らげ、半夏で痰を開いて気を降ろし、栝楼で痰を滌いで熱を清める。薬力は大陥胸湯に及ばないが、この小陥胸湯の調和の力があれば、みぞおちの頑固なつかえを解消(分消)するのには十二分に勝任できる。ただし、本方を用いる際は「栝楼の果肉だけでなく、中の種(仁)まで細かくすり潰して(切砕)一緒に煎じる」ことによってのみ、その素晴らしい薬力がすべて引き出されるのだと臨床的なアドバイスを遺している。

 

  • 徐大椿(『傷寒論類方』): 仲景の下す(排泄させる)薬の違いを、極めて見事に整理している。「大承気湯が下すものは、腸の中の乾いた便(燥屎)である。大陥胸湯が下すものは、胸やお腹に溜まった蓄水である。そして、この小陥胸湯が下すものは、黄色いドロドロとした粘り気のあるヨダレや痰(黄涎)である」とし、涎(よだれ・痰)は蓄水よりも軽くて、まだサラサラした水に成っていない粘稠なものであると位置づけている。

 

  1. 医案選録(名医の臨床カルテ)

 

本方は、西洋医学で「がん」と疑われた深刻な胃痛から、お酒好きの胃炎、さらには胸から離れた乳腺の急性炎症にまで、目覚ましい効果を発揮する。

 

  • 劉渡舟の医案(西医に「胃がん」を疑われた、コブを伴う激しい胃痛からの生還): 54歳の女性(孫某)。みぞおちの激しい痛みが1ヶ月以上続いており、よく診ると胃のあたりが少しポコッと隆起(微高起)しており、手で押すと飛び上がるほど痛がった(按之則痛)。病院で「胃がん(胃癌)」の疑いを持たれ、バリウム検査(胃透視)を勧められていたが、その検査を受ける前に突然痛みが激化して受診した。脈を診ると弦にして滑(弦滑)、舌苔は黄色でややねっとり(黄略膩)、食欲はまあまああるものの、大便はすっきり出ず、心の中がイライラして焦燥感を伴っていた。劉渡舟は、「弦滑脈は体内に痰飲がある証拠であり、黄苔は痰と熱が結びついている証拠、そして胃の隆起が押して痛むのは、熱痰がみぞおちの経絡を完全に塞いでいる『小結胸証』そのものである」と診断した。そこで、小陥胸湯に、気の巡りを良くして痛みを止める枳実、郁金を加えた処方(全栝楼1枚(先煎)、黄連9g、半夏15g、枳実9g、郁金9g)を投与した。すると、わずか1剤を服用しただけで胃痛は半分以上に激減した。そして驚くべきことに、2剤目を服用したところ、「大便から黄色いドロドロとした多量の粘液(黄涎)がどっさりと排泄」され、それと同時にあれほど病院で恐れられ、苦しんだみぞおちの隆起も、激しい胃痛も一瞬にしてピタリと完全に消失した。

 

  • 岳美中の医案(酒飲みの軍人が患った、夜中に激痛で目覚める胃竇炎): ある男性軍人の患者。平素から大のお酒好きで、2ヶ月前からお酒を飲んだ後に胃が脹痛するようになり、最近ではお粥を食べただけでも胃が詰まって激しく痛み、毎晩夜中にその痛みと張りのために目が覚めてしまう(夜眠常因痛脹而醒)ほど悪化し、胃前庭部炎(胃竇炎)と診断されていた。大便は羊の糞のようにコロコロと乾いて5〜6日も便秘しており、みぞおち(脘部)は触られるのを嫌がり(拒按)、脈は浮緩にして虚を呈していた。岳美中はこれを熱痰が結ぼれた小結胸と判断し、小陥胸湯に枳実を加えた処方(黄連6g、半夏9g、全栝楼9g、枳実6g)を投与した。3剤服用したところ、夜中の激しい胃痛や食後の張りは見事に和らいだ。しかし、患者はまだ少し寒がり、右の脈は滑大にして緩、便はなお少し乾燥していた。これは痰熱の結びが和らいだことで、隠れていた「脾胃の虚寒(もともとお腹が冷えて弱い)」が表面化してきた状態である。そこで、温める薬と冷やす薬を交互に配してお腹を調和させる甘草瀉心湯(前述の「辛開苦降」の和解方)に呉茱萸、柴胡、芍薬、竜骨、牡蛎などを加えた処方へと転じて服用させたところ、すべての胃痛や冷え、便秘が根底からすっかり消失し、お酒や辛いものを食べても一切痛まない健康な胃腸を取り戻して全快した。

 

  • 『古方新用』の医案(産後2ヶ月の、飛び上がるほど痛む急性乳腺炎の完治例): 32歳の女性(楊某)。初めての出産から2ヶ月ほど経った頃、突然、右の乳房がカチカチに腫れ上がって激しく赤みを帯び(局部紅腫発硬)、衣服が擦れるだけでも飛び上がるほど激痛が走り(疼痛難忍)、熱を伴う急性乳腺炎を発症した。西医の治療をあれこれ試みたが、全く効果がなく受診した。医師は「乳房は足の陽明胃経(胃の経絡)が走る領域であり、産後の気の滞り(鬱)に胃の熱痰が結びついてカチカチに硬くなって痛むのは、病位こそ胸から乳房へとズレているが、病態はまさに小結胸そのものである」と看破した。そこで、ダイレクトに乳房の熱痰の結びを突き破って消散させるため、小陥胸湯(全栝楼9g、半夏6g、黄連3g)を煎じて3剤処方した。これを服用させたところ、あれほど石のように硬く赤く腫れ上がっていた乳房が、たちまちみるみる軟らかくなって消散し始め、痛みも劇的に軽減した。さらに続けて3剤服用させたところ、腫れも赤みも痛みも一滴残らずきれいに消え去り、手術することなく完全に完治した。

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