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経方方証縦横に学ぶ大陥胸湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

 

『経方方証縦横』の記載に基づき大陥胸湯の「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」を説明する。

  1. 大陥胸湯の弁証要点

 

  • 基本病機と適応:邪熱(熱邪)と水飲が、胸膈・心下から腹部にかけて強力に結びつき、頑固な実熱の結胸を形成している病態(水熱互結、実熱結胸)を治療する。治則は「瀉熱、逐水、破結」(熱を清め、水を追い出し、結びを破る)である。

 

  • 臨床での使用目標:以下の症状を決定的な審証(弁証)の要点とする。

  • 心下硬満、甚則従心下少なくとも腹硬満而痛不可近:みぞおちが硬く張り、ひどいとみぞおちから下腹部にかけてお腹全体がガチガチに硬くなり、激しく痛んで手で触ることもできない(按ずると石のように硬い)。

 

  • 短気躁煩(呼吸が苦しくイライラして落ち着かない)、頭汗出(頭にだけ汗をかく)、大便秘結、日晡所小有潮熱(夕方に微熱が出る)、口渇不多飲(のどは渇くが水はあまり飲めない)、舌苔黄膩または黄厚而燥、脈沈緊で按ずると有力。

 

  • 他証との重要な臨床鑑別:

  • 「十棗湯」との鑑別:どちらも水飲を攻めるが、十棗湯は「懸飲(胸水など)」が主で、水が胸脇に偏っているため「咳をすると胸脇が引きつれて痛む、息苦しくて平臥できない」のが特徴である。これに対し、大陥胸湯は邪熱と水飲が強力に融合しており、「みぞおちからお腹全体がガチガチに硬くなって激痛を伴う(痛不可近)」という違いがある。

 

  • 「大承気湯」との鑑別:大承気湯は邪熱が「腸の糟粕(乾燥した便)」と結ばれたもので、主に臍の周りに病変がある。大陥胸湯は邪熱が「有形の水飲(痰水・水食)」と結ばれたもので、病変は胸脇からみぞおち、腹部全体に及ぶ。そのため、大承気湯は気を通じる「枳実・厚朴」を用い、大陥胸湯は水を破る「甘遂」を用いる。

 

  • 生薬の構成と服法の工夫:
    • 甘遂の調服(最重要):甘遂(1.5g)は水に溶けない有効成分が多いため、一緒に煮出すのではなく、「粉末(末)のまま、大黄・芒硝の煮汁に混ぜて(調して)服用」する。

 

  • 煎じ方(煮法)の順序:大承気湯は枳実・厚朴を先煮するが、大陥胸湯は「大黄を先に煮て芒硝を入れ、最後に甘遂末を調じる」という順をとる。これは、上焦(みぞおち・胸)に留まってじっくりと水熱を破るためである(治上者制宜緩)。

 

  1. 仲景方論

 

張仲景の『傷寒論』において、本方が主治となる大結胸証の条文は以下の通りである。

 

  • 第134条:太陽病を誤って早く下した(下之太早)ために陽気が内陥し、心下が硬くなる「結胸」には大陥胸湯が主る(不結胸で頭にのみ汗が出て小便不利のものは身が黄色くなる)。

 

  • 第135条:「傷寒六七日、結胸熱実、脈沈而緊、心下痛、按之石硬者、大陥胸湯主之」。

 

  • 第136条:傷寒十余日で、熱結が体内にあり往来寒熱があれば大柴胡湯を。ただし「無大熱で胸脇に水が結ぼれた結胸(但結胸、無大熱、此為水結在胸脇也)」および「頭にのみ微汗が出るもの(但頭微汗出者)」には大陥胸湯が主る。

 

  • 第137条:太陽病に重ねて汗をかかせ、さらに下した後に、5〜6日大便が出ず、舌が乾燥してのどが渇き、夕方に少し熱が出て(日晡所小有潮熱)、みぞおちから下腹部まで硬く満ちて痛くて近寄ることもできない(痛不可近)ものには大陥胸湯が主る。

 

  • 第149条:誤下した後に、みぞおちが張って硬く痛む「結胸」には大陥胸湯が主る(但満而不痛の「痞」には半夏瀉心湯)。

 

  1. 注家方論(歴代注釈家による考察)

 

歴代の医家たちは、この大黄・芒硝・甘遂の組み合わせが発揮する「霹靂(稲妻)の如き」強力な駆水作用と、その調剤の深遠な理を解説している。

 

  • 尤在涇(『傷寒貫珠集』): 大陥胸湯(胃・胃口を治す)と大承気湯(大小腸を治す)の病変の違いを鋭く突いている。胃は食べ物や水分が混ざり合う都会であるため、邪気が入ると痰や水分と絡み合って結胸となる。ゆえに水を破る「甘遂」が必要である。大小腸は糟粕(便)のみを蔵するため、邪が入ると燥便と結ばれる。ゆえにこれを推し進める「枳実・厚朴」を必要とする。大承気湯は早く走らせるために大黄を最後に生入れするが(治下者制宜急)、大陥胸湯は大黄を先に煮て作用をマイルドにし、胃口に留めて水食を攻めさせる。

 

  • 張錫純(『医学衷中参西録』): 結胸の病態は、外感の風熱が体内に内陥し、胸に元々あった水飲とガチガチに膠着したものである。ここには気を通じる枳実や厚朴などの軽い薬は何一つ要らない。大黄・芒硝で熱を去って痰を軟らかくし、さらに極めて攻下作用の速い「甘遂」を少佐とし、「霹靂手段(稲妻のような強力で果断な手段)」をもってこの空曠の府(胸腹)をきれいに清掃する。これこそが本方の素晴らしさである。

 

  • 陳修園(『长沙方歌括』): 大黄・芒硝という苦咸の薬に「甘遂の毒」を借りることで、単に胃腸の便を流すだけでなく、胸膈にこもった強固な水飲(飲邪)へとダイレクトに突き抜けて解決する。丸剤(大陥胸丸)は下に早く落ちるのを防ぐために蜜を合わせるが、湯剤(大陥胸湯)は「一気に蕩滌(洗い流)し尽くす」ために、留まることなく一撃で攻め下す設計になっているのだと述べている。

 

  1. 医案選録(名医の臨床カルテ)

 

本方は、誤治療によってこじれた少年の急病から、大便秘結を伴う重篤な結胸、さらには現代でいう重度の胸水(胸腔積液)まで、水熱が絡んだ実熱の重証に驚くべき効果を上げている。

 

  • 曹穎甫の医案(太陽の湿が内陥して陽明の熱と結んだ、14歳男児の結胸と足の引きつれ):

14歳の男児。高熱、激しい口渇、自汗があり、なぜか右足が引きつれて伸縮できなくなっていた。口は渇くものの水は飲みたがらず、胸部が詰まり(胸部如塞)、押すと痛がったが、お腹はまだ硬くなっていなかった。大便が5日も便秘していた。

曹穎甫はこれを「太陽の湿痰が胸膈に入り込み、陽明の熱と合わさって結胸を形成し、津液が巡らないために筋が引きつれている病態」と診断した。

そこで大陥胸湯(甘遂4.5g(一銭五分)、大黄9g、芒硝6g)を投与したところ、大便が速やかに通じ、乾燥した便(燥屎)とともに粘り気のある大量の痰(痰涎)がどっさりと排泄された。これと同時に、あれほど苦しんだ胸の詰まりも、右足の引きつれも、すべての症状が嘘のようにきれいに消え去って全快した。

 

  • 鍾純泮の医案(前医の誤治でこじれた、6日便秘の重篤な大結胸証):

鄔某という28歳の男性農民。発熱やだるさに対し、前医たちが風邪薬(表解)を飲ませても汗が出ず、さらに下痢をさせる潤下薬を用いても便が出ず、症状が日増しに重くなって受診した。

受診時は発病から6日が経過しており、頭痛、首の強ばり、高熱、喘鳴があり、みぞおちからお腹にかけてパンパンに張って痛くて触れず(脘腹痞満而痛)、脈は寸部が浮で関部が沈、舌苔は黄色く乾燥してザラザラ(黄糙)していた。

これは典型的な「傷寒大結胸証」であり、速やかに下すべきである。そこで、大陥胸湯(生大黄18g、元明粉(芒硝)12g、甘遂9gに粳米一撮を加えたもの)を調製して与えた。

薬を服用してから約4時間後、お腹の底が抜けたように積糞が大量に排泄され、これによって呼吸も熱も劇的に落ち着いた。二番煎じも服用させたところ、翌々日にはすっかり体力が回復し、自分で元気に歩いて起き上がれるほどに回復した。

 

  • 邢錫波の医案(小陥胸湯が無効だった胸水・胸膜滲出液を伴う大結胸証):

52歳の男性。発熱、悪寒、頭痛から始まり、風邪薬(発汗剤)を飲んでも汗が出ず、こじれてしまった。発病から5日後、胸やみぞおちがパンパンに硬く張って激しく痛み、手で触られるのを非常に嫌がり(不任重按)、自汗が流れていた。

前医が軽い結胸を治す「小陥胸湯」を2剤投与したが全く効果がなく、胸がさらにカチカチに張って、冷えと熱が半分ずつ現れ、呼吸が苦しくなっていた。病院で胸部レントゲン(透視)を行ったところ、「胸腔積液(胸水・胸膜滲出液)」が溜まっていることが判明した。

これは水と熱が胸でガチガチに結びついた典型的な大結胸証である。そこで、大陥胸湯に、胸の気の滞りを開く「栝楼仁」や「郁金」を加えた加味方(栝楼仁24g、郁金9g、大黄9g、芒硝9gに、甘遂末1.5gを調服)を、朝の空腹時に服用させた。

服用後、激しい下痢(水泄)が7回も起こり、これによって胸の圧迫感や痛みがみるみる和らぎ、呼吸が非常にスムーズになった。その後、中気(脾胃)を守る和胃薬を挟みながら、この大陥胸湯加味方を計3回(3サイクル)服用させたところ、胸の硬さや痛みは完全に消失。再度のレントゲン検査でも、溜まっていた胸水は一滴残らずきれいに消え去り、完治した。

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