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経方方証縦横に学ぶ烏梅丸の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

 

『経方方証縦横』における烏梅丸について、「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

方剤組成・製法・服用方法・治則方解

  • 生薬構成:烏梅 三百枚(480g)、細辛 六両(180g)、干姜 十両(300g)、黄連 十六両(480g)、当帰 四両(120g)、附子(炮、去皮)六両(180g)、蜀椒(出汗)四両(120g)、桂枝(去皮)六両(180g)、人参 六両(180g)、黄柏 六両(180g)。

 

  • 製法・服法:生薬をそれぞれ粉末とし、烏梅を苦酒(米酢)に一晩浸して核(種)を取り除き、五斗の米の下で蒸して熟搗し泥状にする。これに生薬末と蜂蜜を合わせ、臼の中で二千下搗いて梧桐子大の丸薬とする。食前に白湯で10丸から服用し、少しずつ20丸まで増量する(生冷・滑物・臭食等を禁ずる)。

 

  • 治則と方解:治則は「清上温下、安蛔止痛(寒温並用、攻補兼施)」である。

  • 烏梅(君)・苦酒:酸味によって肝木を平定し、蛔虫を安んじる(安蛔止痛)。

 

  • 辛熱・温性生薬(蜀椒・桂枝・干姜・附子・細辛):大辛大熱の力で腸寒(下寒)を温め、陽気を昇達させて寒を散じ、蛔虫を伏させる。

 

  • 苦寒生薬(黄連・黄柏):苦寒の力で胃熱・心火(上熱)を清め、蛔虫の躁動を抑える。

 

  • 人参・当帰(佐使):気血を補益し、中焦の正気を養って辛熱・苦寒生薬による攻伐から体を保護する。

 

  • 全方の特徴:酸・苦・辛を兼ね備え、寒・温を並用し、攻・補を兼施した厥陰病の基本骨格処方である。

 

1. 弁証要点(証の要点)

  • 基本病機:胃に熱があり腸に寒が存在する「上熱下寒(寒熱錯雑)」の病態、および蛔虫が上逆して肝胆・胃を乱した病態(厥陰寒熱錯雑、蛔虫内擾)。

 

  • 決定的な審証目標:

  • 蛔厥・蛔虫証:吐蛔(嘔吐とともに蛔虫が出る)、静而復時煩(静まった後に時々胸腹部が酷く痛んで煩躁する)、得食而嘔(食べ物を見ると嘔吐し、再び煩躁する)。

 

  • 久利・寒熱錯雑:長引く慢性下痢・慢性痢疾・結腸炎などで、口渇・胸の熱感(上熱)と腹の冷え・下痢(下寒)が混在するもの。

 

  • 胆道蛔虫症、腸道蛔虫症、蛔虫性腸閉塞などの消化管寄生虫症から、崩漏・帯下・更年期障害などの婦人科疾患(寒熱錯雑証)まで幅広く応用される。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』第338条に、本方の主治および臓厥と蛔厥の鑑別が明確に提示されている。

 

『傷寒論』第338条

 

「傷寒脈微而厥、至七八日膚冷、其人躁無暫安時者、此為臓厥、非蛔厥也。蛔厥者、其人当吐蛔。今病者静而復時煩者、此為臓寒。蛔上入其膈、故煩、須臾復止、得食而嘔、又煩者、蛔聞食臭出、其人常自吐蛔。蛔厥者、烏梅丸主之。又主久利。」

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、虫の習性(甘で動き、苦で安んじ、酸で静まり、辛で伏す)に応じた生薬配伍や、厥陰の陰陽錯乱を整える本方の妙理を以下のように解説している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』):烏梅の酸で肺気を収め、人参の甘で脾気を緩め、当帰・桂・椒・細辛の辛で内寒を潤し、姜・附の辛熱で内寒に勝ち、黄連・黄柏の苦で蛔を安んじる。「虫は甘を得れば動き、苦を得れば安んず」の理に基づくと説明している。

 

  • 許宏(『金鏡内台方議』):烏梅(君)の酸で勝蛔し、川椒・細辛(臣)の辛で殺虫し、干姜・桂枝・附子(佐)の辛熱で寒に勝ち、黄連・黄柏(使)の苦で安蛔し、人参・当帰で中焦を補う。

 

  • 王子接(『降雪園古方選注』):烏梅・苦酒の酸で急に厥陰を瀉し、辛熱剤(桂・椒・辛・附・姜)で諸陽を昇達させ、連・柏で心清腎滋を図る。丸剤とすることで薬性を胃中に留め、酸縮・辛伏・苦安の三法で蛔厥や臓厥を治すと評価している。

 

  • 張璐(『傷寒缵論』):酸苦辛温を互用して陰陽錯乱の邪を治し、胃中の寒熱が和らぐことで蛔が自然と落ち着く。久利で便膿血を呈するものにも卓効を示す。

 

  • 尤在経(『傷寒貫珠集』):甘で動き苦で安んじ、酸で静まり辛で止まる虫の性に応じ、安蛔温臓・止厥を図る。人参を加えるのは、蛔が動いて中焦が虚しているためであり、正気を安んじて冷熱諸薬の悍性を和らげるためである。

 

  • 陳修園(『長沙方歌括』):烏梅丸は単なる安蛔剤ではなく「厥陰病の総方」である。『易』の震卦(一陽が二陰の下に居る)の病変に応じ、烏梅で作酸の本性を順し、辛温で下の奇一画(陽)を還し、苦寒で上の偶四画(陰)を還す。「厥陰不治、取之陽明」という補養中焦の至理が込められていると絶賛している。

 

4. 医案選録(名医の臨床記録)

本方は、胆道蛔虫症による激しい刀割様の腹痛・右脇痛から、消渇(糖尿病様症状)を伴う厥陰吐蛔、さらには長引く原因不明の頭頂部疼痛に至るまで、優れた効果を上げている。

 

  • 許叔微の医案(消渇・胸中熱痛・気上衝心・吐蛔を呈した厥陰病の全快例)

  • 口渇が激しく水も飲めず、胸中熱痛・気上衝心が8〜9日続く患者。他医が暑気あたりや奔豚病と誤診していた。許叔微は「以前に吐蛔した」という問診から厥陰病の蛔厥と見抜き、まず水飲に対して苓桂術甘湯を与え、続いて烏梅丸(烏梅肉15g、細辛3g、干姜6g、黄連9g、当帰6g、熟附片3g、蜀椒6g、桂枝6g、人参9g、黄柏6g)を投与して数日で全快させた。

 

  • 俞長栄の医案(7日続く腹痛・食後増悪・吐酸・吐蛔の治癒例)

  • 23歳女性。7日間腹痛が続き、食後に増悪。時折酸水を吐き、口渇があっても水を飲みたがらず、前夜に蛔虫を3条吐いた。烏梅丸の加減方(烏梅5枚、川椒6g、黄連6g、黄芩6g、呉茱萸9g、半夏9g、川芎9g、苦楝根皮30g、檳榔18g、蕪荑12g)を2剤投与したところ、蛔虫が2条排出されて諸症状が完全に消失した。

 

  • 呉佩衡の医案(胆道蛔虫症による激しい刀割様痛・吐緑水・吐蛔の救治例)

  • 36歳女性。夜間に突然右脇から腹部にかけて刀で削がれるような激痛が走り、右肩背部へ放散して冷汗・四肢の冷え・黄緑色の苦水を吐き、蛔虫を1条排出した。病態を「厥陰臓寒・肝胆気機鬱結による蛔厥」と診断し、烏梅丸原方(熟附片30g、干姜15g、肉桂9g、当帰15g、党参15g、黄連6g、黄柏9g、川椒5g、細辛5g、烏梅3枚)を投与。3剤で激痛と嘔吐が治まり手足が温まった。続いて川楝子・檳榔を加味して服用させたところ、蛔虫が20余条排泄されて治癒・退院に至った。

 

  • 『古方新用』の医案(半年続く頭頂部疼痛・慢性肝炎既往・手足心熱の治癒例)

  • 49歳男性。半年前から頭頂部が痛んで目がかすみ(視物模糊)、手足のひらが熱く(手足心熱)、焦燥感から怒りやすい状態が続いていた(脈弦細、舌質暗)。烏梅丸加減(烏梅15g、黄柏3g、黄連8g、干姜4.5g、党参3g、桂枝3g、川椒2g、細辛3g、附子3g、当帰2g)を9剤投与したところ、頭頂部の激痛も目のかすみも完全に消退し、治癒した。

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