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経方方証縦横に学ぶ大黄黄連瀉心湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

今回から瀉心湯類に移る。

経方方証縦横における大黄黄連瀉心湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案を説明する。

1. 証の要点(証要点)

基本病機と適応: 無形の邪熱が中焦・心下(みぞおち)にこもり、気機の昇降(めぐり)を妨げている病態(無形邪熱壅于心下)を治療する。また、鬱熱が心神を乱すことによる精神失常(狂躁・癲癇)や、上部の血管を侵すことによる吐血・鼻血(衄血)、さらには熱による咳や月経血の上逆などにも広く用いられる。

臨床での使用目標: 心下痞(みぞおちが塞がって詰まる感じがする)、按之濡(みぞおちを指で押しても硬くなく、柔らかいこと)、舌紅、苔黄、脈関上浮(関脈が浮いている)などを弁証の決定的な要点とする。

煎じ方の特異性と意義(麻沸湯漬): 本方は煮出す(煎じる)のではなく、沸騰したお湯(麻沸湯)に生薬をしばらく浸し(漬)、絞り出して汁を飲むという極めて特異な服用方法をとる。これは、「その気(軽い作用)を取り、その味(重い瀉下作用)を薄くする(取其気、薄其味)」ための深遠な工夫である。これにより、胃腸を下して下痢を起こすことなく、上焦・中焦にこもった無形の熱邪だけを軽やかに清泄・発散させることができる。

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』に記載されている以下の条文が、本方の主治となる。

第154条:「心下痞、按之濡、其の脈関上浮する者は、大黄黄連瀉心湯これが主る」。 第164条:「傷寒大下(大いに下した)の後、復た発汗し、心下痞し、悪寒する者は、表未だ解せざるなり。攻痞(痞を攻めること)すべからず、当に先ず表を解すべし。表解すれば乃ち攻痞すべし。表を解するは桂枝湯に宜しく、痞を攻めるは大黄黄連瀉心湯に宜し」。 (※誤治療によってみぞおちのつかえ(痞)が生じても、もし悪寒などの表証(太陽病)が残っている場合は、まず桂枝湯で表を解し、その後に本方でみぞおちの熱を攻めるべきであるという治療の優先順位を説いている。)

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、有形の便を攻める下剤(承気湯など)との違いや、「煮ずに浸す」という極めて奇妙な煎じ方の薬理作用を絶賛している。

  • 成無己(『注解傷寒論』): 『内経』の「苦は心に入り、寒は熱を除く」を引用し、大黄・黄連の強烈な苦寒によって、心下の「虚熱」を下に引き下げて導き瀉す構成であると解説している。また、麻沸湯で浸すのは「作用を軽やかにして(気薄)、虚熱をサラリと泄らす」ためである。
  • 王子接(『絳雪園古方選注』): みぞおちのつかえ(痞)は、心火(君火)が強すぎて下方の陰分と交わることができずに生じる。触診して柔らかい(濡)のは、食べ物の詰まり(有形の実邪)がない証拠であり、ただ苦寒の薬で熱を瀉すだけで解決する。大黄が営分(血)の熱を清め、黄連が気分の熱を清める。お湯で浸すのは「気を取り、味を損なわない」ためであり、中焦の正気を傷つけずに虚痞を治す神妙な法である。
  • 陳修園(『長沙方歌括』): 心下の痞えが、触っても硬くないのは、内陥した熱邪が無形の気と絡み合っているためである。脈が関上で浮なのは、熱が上部で荒れ狂い、下に降りて陰と交われないことを示す。これを苦寒の薬で一気に引き下げて陰陽を交通させる(否を転じて泰と成す)。煮ずに浸すだけの煎じ方は、薬の「味(重濁で下す作用)」を重くせず、無形の「気(軽やかで清熱する作用)」だけを得るためで、瞬時に昇降を調和させる「聖にして知るべからざる(神技)」であると表現している。
  • 徐大椿(『傷寒論類方』): 「煎じる(煮る)のではなく、泡(お湯に浸す)だけにする」というのは、仲景の処方(経方)の中でも最も奇妙で素晴らしい方法であると述べている。その薬性を極めて軽揚清淡(軽やかで清らか)に保つことで、上焦の邪熱だけを綺麗に洗い流すことができるのである。
  • 梅国強(『傷寒論講義』): 大黄・黄連・黄芩は本来、苦寒で気味ともに極めて重厚な生薬であり、普通に煎じると必ず腸を攻めて下痢を誘発する。しかし、お湯に数分浸すだけに留めることで、その重濁な「味」を避け、軽やかに上へと向かう「気」の力だけを抽出している。これによって、上部の無形の熱を清める目的だけを達成し、胃腸を瀉下(下痢)させない工夫がなされているのである。

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、お酒による激しい吐血、鼻血を伴うつかえ、さらには熱による精神失常(狂躁)などに対し、劇的な効果を上げている。

  • 呉鞠通の医案(暴飲による盆に満ちるほどの大吐血と発狂): 50歳の男性。平素からお酒をこよなく愛する患者が、突然激しい吐血を起こし、お盆にいっぱいの血を吐き出した。さらに興奮して発狂(狂)し、顔は真っ赤、脈は洪数(大きく速い熱の脈)を呈していた。呉鞠通はこれを「三陽の実火(強烈な熱)」と診断し、大黄18g、黄連15g、黄芩15gによる「瀉心湯」を一帖処方したところ、吐血はピタリと止まった。さらに二帖服用させると脈もすっかり平穏になり、その後再発した際も一帖で完治した。
  • 劉渡舟の医案(鼻血・もやもやしたイライラ・みぞおちのつかえ): 60歳の男性。鼻血(鼻衄)が止まらず、心中がもやもやしてイライラし(心煩)、みぞおちが張って詰まり(心下痞満)、尿は濃い黄色、大便もすっきり出ない状態であった。舌苔は黄色く、脈は寸部と関部が特に速くなっていた(数)。劉渡舟はこれを「心胃の火が上部の血管(陽絡)を侵し、胃の熱が心下に滞って痞を成している」と弁証した。そこで、大黄9g、黄連6g、黄芩6gを沸騰したお湯に浸した薬液を処方し、茶碗1杯だけ飲ませたところ、鼻血もみぞおちのつかえも、一服でたちまち霧が晴れるように完治した。
  • 袁家現の医案(賁門裂傷による瀕死の大吐血、5000ml輸血でも止まらない出血からの生還): 25歳の男性。普段からお酒や辛いものを大食いする不摂生をしていたが、ある日突然狂暴な吐血と激しい下血に襲われ、ショック状態(休克)に陥った。病院で「食道と胃の接合部(賁門)の激しい裂傷による活動性出血」と診断され、止血や5000ml以上の大量の輸血が行われたが、出血の勢いは衰えず、一晩中血便が続き、尿は濃い茶色、脈は浮大で有力、舌尖は真っ赤に乾燥していた。手術を拒否して中医療法を求めた。これは「酒毒の辛熱が胃の血管を損傷し、熱が血を乱して上逆している」と診断された。ただちに大黄・黄連・黄芩を各12g用い、沸騰したお湯に15分間浸して濾過した上澄み液(瀉心湯)を用意し、これを生地や丹皮、側柏炭などの煎じ液と合わせ、十分に冷ましてから一晩かけて少しずつ服用させた。すると翌朝(二診)にはあれほど激しかった吐血が完全に止まり、黒い便の勢いも大幅に減少して脈も落ち着き始めた。さらに余熱を清め胃の津液(うるおい)を補う薬(甘露飲の加減)を数剤処方したところ、吐血・下血は完全に治まり、1ヶ月後には血紅素(ヘモグロビン)も正常値まで回復して元気に暮らせるようになった。

 

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