『経方方証縦横』における「桂枝加大黄湯」の「注家方論」と「医案」の内容は以下の通りである。但し前回も紹介したとおり、桂枝加大黄湯とは桂枝加芍薬大黄湯のことである。
注家方論(歴代の注釈家による考察)
歴代の医家たちは、なぜこの状況で大黄を加えるのか、虚実の鑑別や表裏の同時治療(双解)の観点から考察している。
- 許宏(『金鏡内台方議』):表邪がまだ去っていないのに下剤を使ってしまうと、中焦が虚して邪気が裏に入り込むと説明している。その際、脈が虚弱で腹部が時々痛むのは「脾虚」であるため桂枝加芍薬湯を用いるが、脈が沈実で激しく痛み(大実痛)、手で押さえることを拒む場合は「脾実」であると指摘している。そのため、桂枝湯で表を和しつつ、芍薬と大黄を加えて裏を攻める桂枝加大黄湯を用いるのだと解説している。また、白芍薬は「脾を補って痛みを止める(虚邪を治す)」のに対し、赤芍薬は「脾を瀉して痛みを止める(実邪を治す)」という違いも述べている。
- 王子接(『絳雪園古方選注』):桂枝湯に大黄を入れるのは、陰を傷つけることなく「脾の実」を破るためであると分析している。これは太陰が陽明に転属して陽道が実した状態であり、姜・桂で太陰に入って陽分を昇らせ、大黄が脾に入って理陰の功(調胃承気湯のような働き)を成す「双解法(表と裏を同時に解する治法)」であると評価している。
- 陳修園(『長沙方歌括』):桂枝と生姜で邪を昇らせ、倍量にした芍薬で太陰に導いて陥った邪を鼓舞し、大黄を加えて中枢を巡らせて実満を取り除く構成であるとまとめている。
医案選録(名医の臨床カルテ)
太陽の表証と、陽明・太陰の裏実(便秘やしぶり腹)が併存するケースに対する3つの成功例が紹介されている。
- 曹穎甫の医案(暴感風寒による便秘・頭痛): 突然風寒に感受し、大便が出ず頭頂部が痛む患者(太陽陽明同病)。自ら薬を飲んで大便は通じたものの頭痛が少し残っており、表証も裏証も尽きていない状態であった。脈が浮緩で常に汗をかいていることから本方を投与し、治療した。
- 劉渡舟の医案(慢性赤痢・しぶり腹): 36歳男性。赤白の粘液便、しぶり腹、1日に3〜4回の激しい腹痛を伴う下痢が1年以上治らない患者。脈が弦、舌苔が黄で質が絳(深紅)であったことから、「脾胃の気が不和で、かつ凝滞した邪が内部に挟まっている」と弁証された。「通因通用(通じているものを下剤でさらに通じさせる)」の原則に従い、腸内の腐敗した穢れを一掃するために本方(大黄6gを含む)を投与した。服用後すぐに臭くて粘り気のある汚物が大便として排出され、その後下痢が軽快し治癒に至った。
- 『湖南省老中医医案』の医案(腹部の張りと便秘を伴う感冒): 10歳の女児。2日前から微汗が出て悪風寒があり、激しい頭痛はないものの、臍や腹部が痛んで押されるのを拒み、大便が3日間出ない状態であった。顔には青筋が浮き出て苦しそうに呻いており、「太陽表証がまだ終わらず、裏実を兼ねている」と診断された。和表通裏(表を和らげ裏を通じる)を目的として、本方に鬱金を加えた処方を3剤投与したところ、食欲も増し、諸症状がすべて解消した。


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