『経方方証縦横』における、「五苓散」の「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」についてまとめる。
弁証要点
五苓散の臨床応用における要点として、以下の内容が記載されている。
- 適応と病機: 本方は水湿が内に停滞した諸証に適応する。臨床応用においては「膀胱の気化不利、水湿内停」という病機の特長を把握すれば、本方を加減して用いることができる。
- その他の効能: 本方には「健脾化湿」の働きもあり、中焦に湿が盛んで昇降が失調し、それが下焦に波及したものにも使用できる。
- 猪苓湯との鑑別: 五苓散と猪苓湯はどちらも脈浮、発熱して口渇し、小便不利となる証を治すが、五苓散は白朮・桂枝で腎を暖めて行水し(病位が太陽にあり、通陽化気・行水が主)、猪苓湯は滑石・阿膠で陰を滋養して行水する(病位が陽明にあり、育陰・利水が主)という違いがある。
仲景方論
張仲景の『傷寒論』からの引用として、本方が主治となる以下の8つの条文が挙げられている。
- 第71条: 脈浮、小便不利、微熱消渇
- 第72条: 発汗後、脈浮数、煩渇
- 第73条: 汗が出て渇く
- 第74条: 渇して水を飲みたがり、水が入ると吐く(水逆)
- 第141条: 水を飲みたいが渇かない者の代替、または白散等の後
- 第156条: 心下痞で、口燥煩し、小便不利
- 第244条: 熱が潮熱でなく、渇して水を飲みたがる
- 第386条: 霍乱で頭痛発熱などがあり、熱が多く水を飲みたがる
注家方論(歴代の注釈家による考察)
6名の医家が、本方の生薬の配合と水湿を散らすメカニズムについて考察している。
- 成無己(『傷寒明理論』): 茯苓を君薬、猪苓を臣薬として甘淡で水飲を滲泄し、白朮(佐薬)で脾の湿に打ち勝ち、桂枝(使薬)の辛で腎の燥を潤すと説明している。暖水を多く飲んで汗をかかせるのは、辛味で水気を外泄させるためだと述べている。
- 許宏(『金鏡内台方議』): 汗後の解表薬であるとし、内熱による煩渇と余表の未解に対し、五苓散中の桂枝で微汗を取って両解するのだと解説している。
- 呉謙(『医宗金鑑』): 澤瀉の咸寒で熱邪に打ち勝ち、二苓の淡滲で水道を通調して膀胱へ送り、白朮の燥湿で脾を健やかにして堤防を作り、桂枝の辛温で陽気を通して三焦を蒸化させると分析している。
- 王子接(『絳雪園古方選注』): 膀胱の気が鈍って水が蓄積し、脾が津液を巡らせず飲が聚まる状態に対し、白朮・甘草で脾を和して津液を運び、茯苓・桂枝で膀胱を利して気化を布くと解説している。
- 柯韻伯(『傷寒来蘇集』): 各生薬が五臓の水気とどのように関わるかを論じ、表裏の邪は暖水を多く服して水精を四布させ、汗をかかせることで表裏の煩熱を両除すると説明している。
- 呉貞(『傷寒指掌』): 暖水を多く飲んで汗を取るのは、営衛に散達させ、表裏をともに解するためであると述べている。
医案選録(名医の臨床カルテ)
この項目では、口渇を伴う多様な水湿・気化不利の症状に対して五苓散を用いた5つの臨床例が紹介されている。
- 兪長栄の医案(高熱と口渇・譫語): 高熱、口渇、不眠、譫語があり、脈が浮洪大の患者。白虎湯を用いたが口渇がさらに悪化し、よく観察すると熱い飲み物を好むことと舌が紅で無苔滑であったことから「無根の火が上浮した膀胱蓄水証」と診断した。五苓散の桂枝を肉桂に変えて引火帰元を図ったところ、熱が下がり小便が通じて治癒した。
- 江応宿の医案(水逆証): 19歳の患者で、傷寒発熱のあと冷水を飲みたがるが、飲むとすぐ吐いてしまう状態。典型的な「水逆証」であり、五苓散を投与して治癒した。
- 劉渡舟の医案(茶癖による湿痰の咳嘔): 日頃からお茶を飲む癖があり、それが湿痰に変化して咳や嘔吐が続き、二陳湯などでも完治しない患者。「陽を通じ小便を利すことで痰の根を絶つ」として、五苓散に化痰薬を加えたところ速やかに治癒した。
- 李克紹の医案(湿疹): 64歳の男性で、2年間にわたり上肢と頸部に湿疹があり、滲出液が多く垂れ流れる状態。微悪寒、多汗、口渇、小便がやや黄という症状から「陽虚のため気化利水できず、湿邪が肌表に鬱滞し津液の通調が滞っている」と弁証した。五苓散(猪苓を薏苡仁に代用)を投与したところ、1剤で滲出液と汗が減り、治癒に向かった。
- 李克紹の医案(尿崩症): 多飲多尿で尿崩症と診断された7歳の男児。舌が淡で糊のような白滑苔があることから「水飲が内結して津液の輸布を妨げているため渇くのであり、多尿は多飲による誘導的なもの」と判断した。五苓散を与えて完治した。


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