経方方証縦横に学ぶ「柴胡加竜骨牡蛎湯」の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案についてまとめる。
1. 弁証要点
本方の基本的な病態、注意点、および類似処方との鑑別点は以下の通りである。
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基本病機と適応少陽(しょうよう)が不和となり、肝胆の気が調わなくなった(肝胆之気不調)証を主治する。臨床では、胸満(むねのつかえ)、煩驚(もやもやして驚きやすい)、譫語(うわごと)、小便不利などを主な審証(弁証)の要点とする。
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使用上の重要注意構成薬である「鉛丹」は有毒であるため、臨床での使用は極めて慎重にする必要がある。少量かつ一時的な服用にとどめるか、生鉄落や磁石で代用することが推奨される。また、本方から「甘草」を去っているのは、その甘緩(緩める)の性質が邪熱を駆逐するのを妨げないようにするためである。
「救逆湯」との鑑別
本方と「桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨救逆湯」は、どちらも誤治の後に生じる「驚(驚き・恐怖や狂躁)」を治療するが、病態が全く異なる。
| 処方名 | 病態のメカニズム | 治療方針 |
| 柴胡加竜骨牡蛎湯 | 少陽の胆熱が内部に鬱滞し、**邪熱が心神をかき乱す(熱擾心神)**ことで「驚」が生じる。 | 清胆熱・瀉心熱・安神定驚 |
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桂枝去芍薬加蜀漆牡蛎竜骨
救逆湯
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少陰の心陽が虚弱になり、**心神を繋ぎ止めることができずに浮越する(心陽虚脱)**ことで驚狂が生じる。 | 心陽の温補 |
2. 仲景方論
張仲景の『傷寒論』からは、本方が主治となる以下の1つの条文が挙げられている。
『傷寒論』第107条:「傷寒八九日、これを下し、胸満し、煩驚し、小便不利、譫語し、一身尽く重く、転側すべからざる者は、柴胡加竜骨牡蛎湯がこれを主る(傷寒八九日、下之、胸満煩驚、小便不利、譫語、一身尽重、不可転側者、柴胡加竜骨牡蛎湯主之)」。
3. 注家方論(歴代注釈家による考察)
歴代の著名な医家たちは、この複雑な構成がどのようにして精神の錯乱や驚きを鎮めるのかを深く論じている。
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方有執(『傷寒論条弁』)心が虚すると「驚」が起きるため、人参・茯苓の甘淡で心に入り虚を補い、竜骨・牡蛎・鉛丹の重渋なる性質で心を鎮めて収斂する。半夏の辛温で胸膈の「満」を開き、柴胡の苦寒で鬱熱の「煩」を除く。さらに大黄で膈中の結びを蕩滌し、桂枝で全身の重さを和らげる、三陽(太陽・陽明・少陽)を総合して和解する処方である。
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呉謙(『医宗金鑑』)本証は「陰陽錯雑の邪」であり、本方は「攻補錯雑の薬」であると表現している。柴胡・桂枝で未解の表邪を解し、大黄で内に陥った里熱を攻め、人参・生姜・大棗で中を補って胃を調和させ、茯苓・半夏で利水・降逆をはかる。さらに竜骨・牡蛎・鉛丹という重鎮の薬を配することで、錯雑する複雑な病態をすべて解決していると評価している。
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張璐(『傷寒缵論』)少陽の経邪が裏(本)に入り込んだ証を治療するため、小柴胡湯からあえて「甘草」と「黄芩」という行陽(表を走る)の薬を去り、代わりに「大黄」を加えて行陰(裏を攻める)として下下(便通をつける)をはかっている。さらに茯苓で小便を利し、竜牡・鉛丹で肝胆の怯えを鎮め、桂枝で血脈の滞りを通じる絶妙な構成であると解説している。
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王子接(『絳雪園古方選注』)心が乱れて驚くのは、足の太陽・少陽から上ってくるため、やはり柴胡と桂枝を基礎とする。柴胡が陽薬を率いて上昇させ、大黄が陰薬を率いて下降させ、人参・甘草が胃を補って心を安定させる。さらに竜骨・牡蛎が陰に入って東方甲木(肝)の神魂を鎮め、重い鉛丹が痰気の固結を押し下げ、余熱を太陽経の枢転(少陽のめぐり)を介して体外へ排泄させる「安内攘外」の神方であると述べている。
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章楠(『傷寒論本旨』)誤下によって肝胆が傷ついて「胸満、煩驚、譫語」が生じ、脾胃が傷ついて「身重不可転側」となった「壊病」の救治処方であると位置づけている。小柴胡湯の補中作用と降濁升清の力をベースに、桂枝で経脈を通じ、竜牡で神魂を落ち着かせ、茯苓で三焦の水を利し、鉛丹で痰涎を払い、大黄を「一二沸」だけ煮てその「気(邪を清泄する軽い作用)」のみを取り入れる(長く煮て下剤として強く作用させない)という、極めて周到で細密な組み立てであると分析している。
4. 医案選録(名医の臨床カルテ)
本方はてんかんや重度の不眠、精神失常、小児の夜驚症、さらには四肢の不随意運動などに著効した臨床例が紹介されている。
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趙守真の医案(悲嘆による精神失常・狂躁)30歳の女性。夫と長男を相次いで亡くし、不作が重なったことで深い悲しみに沈み、不眠から神志失守(ある時は歌い、ある時は泣き、乱れて苦笑いするなど正常を失った状態)となった。脈は弦細、舌苔は黄膩、大便は数日一行。これを「肝鬱気滞、土木相乗、気血悖逆、神不守舎」と診断し、本方から人参・桂枝を去り、生地、石菖蒲、香附、郁金を加えた処方を投与したところ、4日で精神が安定し、のちに加味温胆湯などで調治して完治した。
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劉渡舟の医案①(ダンス病・不随意運動)12歳の男児。手足が勝手に動き(手舞足蹈)、跳躍して落ち着かない「ダンス病(舞蹈症)」に1年以上悩み、久治不効の患者。脈は弦滑、苔は白滑。これは「肝胆の火鬱が風を動かし、痰熱が心宮を乱している」と弁証し、本方に胆星、竹茹、天竺黄を加えて清熱熄風をはかったところ、10余剤で完全に手足の異常な動きが止まり完治した。
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劉渡舟の医案②(恐怖によるてんかん・譫語)34歳の男性。激しい驚きと恐怖をきっかけにてんかん(四肢抽搐、口吐白沫、絶叫)を発症。胸脇苦満、夜間のひどいうわごと(夜睡譫語)、便秘を伴い、舌紅、苔黄白相兼、脈沈弦。これは「肝胆の気鬱に陽明の腑熱が交じり、痰火が内動して心神をかき乱している」と弁証し、本方(大黄は後下、鉛丹は包煎)を処方したところ、わずか1剤で便が通って驚狂やうわごとが消失し、その後半夏や陳皮などを加えて完治させた。
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張意田の医案(外感熱病による譫語・驚・身重)発熱、胸悶、大便不通、小便不利、全身の重だるさ、心悸と驚きを訴え、さらに大声で叫びだす「譫語」の症状が出現した患者。脈は弦緩。これは外感の邪熱が少陽の三焦に入り込んで気機を閉塞させ、心神を犯したものであると診断。『傷寒論』第107条の条文通りに本方を投与したところ、すべての症状が速やかに解消された。
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陳華鷹の医案(小児の夜驚症・夢遊病)11歳の女児。夜間に突然悪夢を見て驚き叫び、起き出して歩き回る「夢遊・夜驚」が長年続いていた。夕方になると奇声(呀呀驚叫)をあげる状態であったが、本方の加減(柴胡、桂枝、竜胆草、黄芩、半夏、茯苓、竜骨、広丹(鉛丹)、大黄、牡蛎、生姜、大棗)を投与したところ、2剤で夜驚がピタリと止まり、合計10剤の服用で完全に根治した。


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