輔行訣方剤シリーズ最後の方剤である大螣蛇湯(だいとうだとう)を挙げる。
大螣蛇湯
治天行熱病、邪熱不除、大腑閟結、腹中大満実、腹満而喘、時神昏不識人、宜此方急下之。
枳定三両厚朴甘草大黄葶藶大棗、芒硝各二両、待熔已、温服二升、日再服。
意訳を書く。
治天行熱病
外感病で体感は熱い病。
邪熱不除
熱邪が取り除かれず。
大腑閟結
大腸は詰まってしまっている。
腹中大満実腹満而喘
腹は大きく固く、腹満し喘がある。
時神昏不識人
意識障害も出現する。
宜此方急下之
この方剤を使って急いで下せば良い。
方剤の構造をみてみると、葶藶子、大棗で葶藶大棗瀉肺湯。残りの枳実厚朴大黄甘草芒消は先の小螣蛇湯加大黄。つまり、小螣蛇湯合葶藶大棗瀉肺湯加大黄ということになる。
葶藶大棗瀉肺湯については金匱要略の肺痿肺癰咳嗽上気病の11、15、27条である。
(11)肺癰,喘不得臥,葶藶大棗瀉肺湯主之。
葶藶大棗瀉肺湯方
葶藶熬令黃色(搗丸如彈子大) 大棗十二枚
右二味,以水三升,先煮大棗取二升,去棗,納葶藶,煮取一升,去滓,頓服。
(15)肺癰胸満脹,一身面目浮腫,鼻塞清涕出,不聞香臭酸辛,咳逆上気,喘鳴迫塞,葶藶大棗瀉肺湯主之。(方見上,三日一剤,可至三四剤,此先服小青竜湯一剤乃進。小青竜湯方,見咳嗽門中。)
(27)支飲不得息,葶藶大棗瀉肺湯主之。(方見肺癰中。)
経方医学6p104に、解説がある。
経方医学では肺癰は肺に邪が入り化熱、熱が血脈を損傷し、血敗・化膿する。それを「濁沫」、「蓄結癰膿、吐如米粥」となるはずが、その記載がない、だから癰膿になる前の飲である、と判断されている。
経方薬論p81に葶藶子に粛降肺気、粛降心下、利水作用。本経や別録どちらも下薬。本経は破堅逐邪。甘草、大棗で守胃すべきだ。
では本剤が想定する病機を経方医学で察する。
興味深いのは意識障害は言及しているものの、肺癰症状の記述が本剤にはない、ということだ。邪が胃に及び、胃気が鼓舞され肌熱が上がる。それかしばらく邪熱が取り除かれない状態にある。小螣蛇湯より経過が長いと愚考する。そして心下膈胸肺そして心心包まで及ぶ。これにより時に意識障害が出現する。
小螣蛇湯と同様、本剤も似痰非痰が存在し、それに加えて大腸に詰まった便まである(大腑閟結)。だから小螣蛇湯だけではなく大黄も必要である。粛降障害があるので喘もやはり出現する。
治方は、胃気を甘草と大棗で守胃して肌気から枳実にて還流。葶藶子、厚朴で肺気、胃気を下に降ろす。芒消にて似痰非痰を去り大腸の便を去るため大黄を投入する。喘は消失する。鼓舞された胃気が収まり心心包への胃の衛気が戻り意識障害も軽快する。
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