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経方方証縦横に学ぶ大柴胡湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

『経方方証縦横』のソースに基づき、「大柴胡湯」の「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」についてまとめる。

 

1. 弁証要点

  • 基本病機と主治: 本方は少陽(半表半裏)の和解と、陽明(里)の熱実を通下することを重視した処方である。往来寒熱、胸脇満痛、便秘、黄苔を弁証の要点とする。
  • 治療の原則: 腑気(胃腸の気)を滞りなく通じさせる「六腑は通ずるを以て用となす(六腑以通为用)」「通ぜざれば則ち痛み、通ずれば則ち痛まず(不通则痛, 通则不痛)」という中医理論を体現している。臨床上、胆胃の熱実、気機(気のめぐり)の阻害、疎泄不利により、病位が体の両側に偏る急性の痛みに対して幅広く加減応用できる。
  • 黄芩湯との鑑別(熱利について):

    • 黄芩湯が主治する下痢(下利)は、少陽の胆熱が下迫したもので、肛門の灼熱感や、下痢がすっきり出ないことを特徴とする。
    • 大柴胡湯が主治する下痢には2つの状況がある。1つは大腸の熱伝導機能失調による激しく非常に臭い下痢、もう1つは大腸の邪熱と燥屎(便)が結びついて便が通じず、邪熱が津液だけを押し出す下痢(熱結旁流:下痢は清水で糞便を交えない)である。

2. 仲景方論

『傷寒論』に記載されている以下の条文が主治として挙げられている。

 

  • 『傷寒論』第103条:「太陽病、過経十余日、反って二三度下し、後四五日、柴胡証仍在る者は、先に小柴胡湯を与える。嘔吐して止まず、心下急(みぞおちが急に張る)、鬱々として微煩するものは未だ解せざるとなす、大柴胡湯を与えこれを下せば則ち癒える」。
  • 『傷寒論』第136条:「傷寒十余日、熱結里に在り、復た往来寒熱する者は、大柴胡湯を与える」。
  • 『傷寒論』第165条:「傷寒発熱し、汗出づるも解せず、心中痞硬(みぞおちが硬く詰まる)、嘔吐して下利するものは、大柴胡湯がこれを主る」。

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、本方の表裏併治の構成や大黄の配合意義について深く考察している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』『傷寒明理論』): 柴胡と黄芩の苦味で内の熱をくじき(折熱)、枳実と芍薬の酸苦で湧泄して実を泄する。また、半夏の「辛」で逆気を散らし、姜・棗の「辛甘」で営衛を調和させる。大黄は「将軍」の号を持ち、古いものを蕩滌(洗い流す)する功があるため、攻下(下すこと)を達成するための使薬として重要である。
  • 尤在涇(『傷寒貫珠集』): 柴胡・生姜・半夏の「辛」で表を走らせ、黄芩・芍薬・枳実・大黄の「苦」で裏に入る、表裏併治(表と裏を同時に治療する)の処方である。
  • 許叔微(『新編張仲景注解傷寒発微論』): 大黄は蘊熱(蓄積した熱)を蕩滌し、推陳致新(古いものを出して新しいものをもたらす)を司る傷寒の要薬である。「大黄を加えなければ、大柴胡湯と名付けられない」と言われるように、大黄を酒で洗って生用するのが最も効果的である。
  • 柯韻伯(『傷寒来蘇集』): 本方は胃の中(胃中)の有形の実邪を治すものではなく、三焦の無形の熱邪を治すものである。往来寒熱があるのは邪が胃の中に結実していない証拠(結実していれば一日中蒸すような熱になり、寒を感じなくなる)である。そのため、生姜を倍にして表を和し、中焦を補う人参・甘草を除いて枳実・芍薬で内の結熱を破る。条文に「大便硬」の記載はなく、むしろ「下利」の症があるため、本来は大黄を用いないのが仲景の意図であると述べている
  • 陳修園(『長沙方歌括』): 小柴胡湯証が胸脇苦満を主とするのに対し、大柴胡湯証は心下(みぞおち)の急や痞硬、激しい嘔吐(嘔不止)を特徴とし、病勢がより深部にある。芍薬・黄芩・枳実・大黄の苦泄の薬で内の熱による「急(こわばり)」を解きつつ、少陽の「枢(めぐり)」の働きによって病邪を外へ引き出す(外達させる)処方である。

 

4. 医案選録

  • 王肯堂の医案(熱病による意識混濁と便秘):
  • 体格が頑丈な患者が熱病にかかり、手足をバタバタと悶えて人事不省となり、大便が7日間通じなかった。脈は微細欲絶であったが、これは「里の熱が極まって脈道が不利になっている(蓄熱内甚、脈道不利)」状態であると診断。大柴胡湯(大黄はわずか一銭)を投与したところ、大便が通じて脈が回復し完治した。
  • 許叔微の医案(自汗を伴う便秘):
  • 身熱、目痛、鼻の乾燥、不眠、数日間の便秘があり、さらに大汗が出た患者。他医は「大汗で津液が枯渇しているため下してはならない」と主張したが、許叔微は「里の実熱が極まっている」と判断して大柴胡湯を処方し、二服で完治させた。
  • 趙守真の医案(気滞瘀血を伴う吐血後の潮熱):
  • 激しい吐血(紫黒色の瘀血塊)の後に血は止まったものの、胸のつかえや不快な生臭さ、午後の潮熱、便秘、嘔意を訴える患者。趙守真は「治血必先調気(血を治すにはまず気を調える)」の原則に基づき、大柴胡湯に花蕊石(瘀血を散らす)と降香(気を調える)を加えて投与。黒い便(瘀血)を排泄させて潮熱を解し、完治させた。
  • 岳美中の医案(胆嚢炎による脇痛・嘔気):
  • 胆嚢炎による右季肋部の自発痛・圧痛、微熱、悪心、腹部膨満、食欲不振を訴える女性。大柴胡湯に麦門冬、金銭草、滑石、鶏内金を加味した処方を合計11剤与えたところ、食欲が回復して腹部膨満や脇痛が大幅に改善。のちに小柴胡湯の加減で完治した。
  • 『湖南省老中医医案』の医案(血室蓄熱による激しい頭痛と嘔吐・便秘):
  • 生理が10日間続き、頭痛(頭を壁にぶつけるほどの激痛)、便秘、言語恍惚、嘔吐、腹痛を発症し、病院で「ヒステリー」と診断された女性。熱邪が血室(子宮)に入り込み、さらに陽明(胃腸)に及んで上部に突き上げていると弁証し、大柴胡湯加減(大黄、芒硝、青皮など)を処方した。大便が通り5日ほどで諸症状がすべて消退し完治した。

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