『温病縦横』において、温熱病の直接的な原因(病因)はあくまで「外感(外からの邪気)」であると定義されている。しかし同時に、その発症や病態の進行には、もともとの体質の虚弱(内傷)が強く関与していると想定されている。
同書に掲載されている臨床例をみると、患者の体型(痩せているか)、顔色、舌象(乾燥や裂紋の有無)、過去の病歴(結核を患っていた等)といった診察所見から、もともと「陰虚(津液の不足)」などの内傷があるかどうかを丁寧に把握していることがわかる。
具体的には、以下の3つのポイントで「内傷」の関与が説かれている。
1. 発病の根本条件としての「正気の虚(内傷)」
『温病縦横』では、温病は外感性疾患であるとしながらも、発病するかどうかは人体の「正気(防衛機能)」が正常かどうかにかかっているとしている。
つまり、「正気が不足している(内傷がある)」状態のときに、外からの致病要因が人体の防衛能力を超えて侵入することで発症する(「邪の湊まる所、その気必ず虚す」)と説明されている。
2. 「陰虚感温」という具体的な証候の想定
同書には「陰虚感温」という項目が独立して設けられている。これは、もともと「陰虚(津液の不足という内傷)」がある人が、温熱邪気を外感して発症するケースである。
この場合、外邪による発熱や頭痛に加えて、口渇や咽の乾燥、尿が少ないなど、もともとの内傷である津液の枯渇症状が突出して現れる。そのため、治療には単なる解表薬ではなく、「滋陰解表(陰を潤しながら表邪を解す)」の作用を持つ加減葳蕤湯(かげんいずいとう)などが用いられる。
3. 重症化(逆伝心包)の要因としての「陰虚内熱」
温病初期に、浅い層(肺衛)から一気に深い層(心包)へと急速に重症化する「逆伝」のメカニズムについても、内傷の関与が挙げられている。心包逆伝については後述する。
もともと「心陰不足(陰虚によって内に熱を生じている状態)」がある人は、通常は病気として現れていなくても、外から温熱邪気を受けた途端にその内熱と結びつく。これが、邪気が急速に心包へと逆伝(内陥)してしまう内的根拠になると説明されている。
まとめ
『温病縦横』では、温熱病を引き起こす「直接の引き金」は外邪に限定しているが、それが発症し、どのように進行するか(特に津液の枯渇や重症化)というプロセスにおいては、「正気の虚」や「陰虚」といった内傷の存在が非常に重要な前提条件として想定されている。


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