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経方医学における「似痰非痰」と「宿食」の整理

漢方医学

  湿熱症の三焦弁証の一部において、似痰非痰の生成や、それにより引き起こされる症状は、特に藿香正気散証に見る病期の進行に関連しているのではないか。さらに正気散加減などの鑑別には、宿食の有無の診断が不可欠である。ここでは経方医学における似痰非痰と宿食について改めて整理する。

1. 似痰非痰の生成過程と病機

「似痰非痰」とは、小腸内に存在する、痰の性状に近いドロドロとした粘膩(ねんじ)な病理産物を指す。

  • 前提状態: 胃熱が加わる前に、小腸(第1小腸)に清濁が分別される前の飲食物(内容物)が多く存在していることが前提となる。患者が「能食(食事が摂れる)」状態であるため、内容物が多量に供給され続ける。
  • 熱による変質: ここに胃熱(裏熱)や津液の不足が加わると、小腸内の内容物が熱によって煮詰められ、性状が変化して分別に値しない粘膩なものに変質する。これが似痰非痰である。

2. 似痰非痰の関連方剤と方意

似痰非痰をターゲットとする代表的な方剤には調胃承気湯や大陥胸湯がある。

  • ① 調胃承気湯
    • 適応病態: 燥屎(石のように硬い便)はなく、小腸に似痰非痰が多量に存在する状態。生体はこれを排出しようとして「下利」や「大便反溏(軟便)」を起こすが、粘膩であるため自然には除ききれず、胸中の痛みや鬱々とした煩わしさを伴う。
    • 方意: 似痰非痰は粘膩であるため、枳実や厚朴などの気剤では動かせない。そこで大量の芒硝を用いて似痰非痰を溶かし、大黄の蕩滌作用によって一気に体外へ排出(頓服)させる。
  • ② 大陥胸湯
    • 適応病態: 度重なる誤治によって胃津を消耗し、胸・心下に「痰熱」が形成されると同時に、小腸の内容物が「似痰非痰」に変化した重篤な状態(結胸証)。心下から少腹にかけて硬満し、激しい痛みを伴う。
    • 方意: 胸・心下の「痰熱」と小腸の「似痰非痰」に対し、甘遂と芒硝でこれらを溶かし、大黄・芒硝・甘遂によって強力に下降させ、大便として取り去る。

3. 宿食の生成過程と病機

「宿食」とは、内容物が強い胃熱によって急速かつ強力に煮詰められ、変質して生じた病理産物である。

  • 発生部位: 主に小腸内であるが、胃(上脘)に発生することもある。
  • 似痰非痰との鑑別: 宿食は加わる胃熱がより強いため、水分量が少なく、さらに粘り気が強い。また、患者が「不能食(食事が摂れない)」状態となるため、新たな供給がなく、似痰非痰に比べて量は少なくなる。
  • 燥屎との違い: 大腸で形成される固形物の「燥屎」に対し、宿食は小腸に存在し、ドロドロとした物質である。自然に排出しようとして下利を起こすが、自力では除ききれない。

4. 宿食の関連方剤と方意

宿食は、存在する部位や重症度によって以下のように使い分ける。

  • ① 大承気湯
    • 適応病態: 小腸に重症の宿食が存在し、下利不欲食、あるいは脈が滑・緊などの症状が見られる状態。
    • 方意: きわめて粘り気が強いため、大黄と芒硝の組み合わせで溶かして洗い流す。1回では出しきれないため、2回に分けて投与(分再服)するのが特徴である。
  • ② 瓜蒂散
    • 適応病態: 宿食が胃(上脘)に存在する場合。
    • 方意: 下剤で降ろすのではなく、吐法を用いて体外に排出させる。
  • ③ 枳実梔子豉湯加大黄
    • 適応病態: 労復(病後の無理)などにより、熱が小腸に伝わって生じた、粘り気が少なく量も少ない「軽症の宿食」。
    • 方意: 胸中の熱を清しつつ、少量の大黄を加えることで蕩滌する。芒硝で溶かす必要はない。

5. 似痰非痰と宿食の比較まとめ

両者は近い病態であるが、胃熱の強さと水分量、および食欲の有無で見極める。

  • 宿食: 強い胃熱で煮詰められ、水分が少なく粘膩度が高い。患者は「不能食」。
  • 似痰非痰: 胃熱が宿食より弱いため水分を含み、「能食」であるため量は多量となる。

以上の病理を前提として、再び藿香正気散、正気散加減、三焦弁証を精査していきたい。今夏に間に合えば良いな。

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