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経方方証縦横に学ぶ芍薬甘草湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

『経方方証縦横』の芍薬甘草湯について、「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

方剤組成と服用方法

 

  • 生薬構成:白芍 四両(12g)、炙甘草 四両(12g)。

 

  • 服用方法:上の2味を水三升で煮て一升五合を取り、滓を取り除いて二回に分けて温服する。

 

  1. 弁証要点(証の要点)

 

  • 基本病機と治則:陰血が不足し、筋脈が濡養(栄養と潤い)を失って引きつれや急痛を起こした病態(陰血不足、筋脈失養)を治療する。治則は「養陰舒筋、柔筋緩急止痛」(陰血を養って筋を伸ばし、筋を和らげて急痛を和らげる)である。

 

  • 配合の意義(酸甘化陰の骨格):

 

 

  • 白芍:補血養陰して柔筋・和営にはたらく。

 

  • 炙甘草:補益緩急にはたらき、中気を補いながら痛みを緩和する。

 

  • 酸甘化陰:芍薬の「酸味」と甘草の「甘味」が合わさることで陰血を強力に生み出し(酸甘化陰)、筋脈に豊かな滋養を与えて激しい痙攣や引きつれを一気に弛緩させる。

 

  • 生薬の使い分け(白芍・赤芍/生甘草・炙甘草):
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    • 白芍・炙甘草:腹部の痙攣痛で押しても激痛がない(不拒按)もの、および脚のひきつれで赤腫を伴わないものに適する。

 

  • 赤芍・生甘草:腹満時痛で押すと激しく痛む(拒按・実痛)もの、および腿脚の痛みが赤く腫れ上がっている(紅腫熱痛)ものに適する。

 

  • ※熱を挟む場合は「黄芩」、寒を挟む場合は「干姜」を加味する。

 

  • 決定的な審証目標:
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    • 「陰血不足・筋脈失濡」による諸痛・痙攣。

 

  • 脚攣急・腓返り(小腿部が引きつれて猛烈に痛む)。

 

  • 脘腹急痛・腹痛(胃や腸がキュッと引きつれて痛む)。

 

  • 四肢の抽搐・拘急、顔面神経痛(三叉神経痛)、胃痙攣など広く応用される。

 

  1. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』において、本方の主治を示す主要な条文は以下の通りである。

 

  • 『傷寒論』第29条:「傷寒...作甘草干姜湯与之、以復其陽;若厥愈足温者、更作芍薬甘草湯与之、其脚即伸…」

 

 

  • (※誤治によって手足が冷え(厥)、脚がひきつれた際、甘草干姜湯で中陽が回復して足が温まった後、なお脚の引きつれが残る者に芍薬甘草湯を重与すれば「その脚直ちに伸びる(其脚即伸)」)。

 

  • 『傷寒論』第30条:「...更飲甘草干姜湯、夜半陽気還、両足当熱、脛尚微拘急、重与芍薬甘草湯、爾乃脛伸…」

 

 

  • (※夜半に陽気が戻って両足が熱くなったものの、すね(脛)にわずかな引きつれが残る場合、重ねて芍薬甘草湯を与えれば足が綺麗に伸びる)。

 

  1. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、桂枝湯から表薬(姜・桂)を除いて白芍・甘草を等分とし、純粋な陰血補益・柔筋剤へと変化させた配伍を以下のように解釈している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』): 芍薬の酸で収め、甘草の甘で緩める。「酸甘相合」して陰血を補養・増輸し、筋脈の引きつれを和らげると説明している。

 

  • 王子接(『絳雪園古方選注』): 本方は桂枝湯の変方であり、純粋に営分へ入る不雑の剤である。生姜(散表)や大枣(泄営)を除き、白芍で営血を補い、甘草と配伍して酸甘化陰させることで、中焦の不和と陰気の失調を根本から修復すると位置づけている。

 

  • 柯韻伯(『傷寒附翼』): 脾(太陰)は胃(陽明)のために津液を行らせて四肢を潤す官である。甘草で陽明の津液を生じさせ、芍薬で太陰の液を調和させることで、四肢の拘急が直ちに伸びるのだと「用陰和陽」の法として絶賛している。

 

  • 陳修園(『長沙方歌括』): 芍薬の苦味と甘草の甘味が合わさることで「人参の気味」に酷似した補益の力を生み出す。陰血を大補して筋脈を滋養するため百病の痛みに効くが、素体脾虚で下痢しやすい者には慎用すべきであると述べている。

 

  1. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、酷い歩行痛と足のひきつれから、鼠径部の硬い包塊を伴う脚の拘急、さらには20年来の潰瘍性胃痛や顔面の激しい三叉神経痛まで、劇的な即効性を上げている。

 

  • 曹穎甫の医案(両足の紫腫・寒冷に耐えねばならない激しい足のひきつれ痛の即効例): 四嫂という女性。歩きすぎると両足が紫色に腫れて痛み、天寒でも火に当たると激痛が奔るため冷たさに耐えねばならなかった。夜寝ると清晨には腫れ痛みが治まるものの、夜になると再び酷く痛んで足の筋肉が引きつった(筋攣)。 曹穎甫は「関節の歴節病と異なり、筋攣が主である」と見抜き、芍薬甘草湯(赤芍・白芍各30g、生甘草24g)を投薬したところ、わずか2剤で完治した。

 

  • 劉渡舟の医案(右鼠径部の卵大包塊・小腿の激しい抽筋・歩行不能の救治例): 25歳の男性。右の股の付け根(鼠径部)に鶏卵大の硬い包塊ができ、右脚が引きつれて直立できず、かかと(足跟)が地面につかなかった。夜間になるとふくらはぎが抽筋(引きつれ)を起こして猛烈に痛み、脈弦細数・舌紅少苔を呈していた。 病態は「陰血不濡・筋脈失養による拘急」と診断し、芍薬甘草湯(白芍24g、炙甘草12g)を投与した。 1剤で夜間の抽筋が消えて安眠でき、2剤で鼠径部の包塊が消退し、3剤で足跟が地面について歩けるようになり、4剤で全快した。

 

  • 『北京市老中医経験選編』の医案(12指腸球部潰瘍・20年の慢性胃脘痛・両脇痛に対する全快例): 37歳の女性。20年前から胃脘痛が両脇へ放散し、空腹時や感情の揺れで激化していた(バリウム検査で十二指腸球部龕影を確認)。 加味芍薬甘草湯(杭白芍15g、甘草30g、香附15g=「潰瘍合剤」)を投与したところ、3剤で痛みが激減し、蘇梗・沈香などを加えて21日間服用させた結果、諸症状が消退し、再度のバリウム検査で龕影が消失して完治した。

 

  • 陳漢雄の医案(64歳老婦の14日以上続く三叉神経痛・失音・食飲皆廃の治癒例): 64歳女性。左顔面(三叉神経領域)に陣発性の激痛が2週間続き、喋ることや食べ物を呑み込むことで誘発され、目をつむり涙を流して歯を食いしばる痛みを繰り返していた。前医の四物湯加減が無効。 芍薬甘草湯(酒炒芍薬30g、蜜炙甘草12g)を投与したところ、2剤で激痛が綺麗に消え去り、計4剤で完治した。

 

  • 劉持年の医案(17歳少年の急性胃痙攣・抽掣様腹痛の即効例): 17歳男性。胃脘部が陣発的に引きつるような劇痛(抽掣様発作)を起こし、夜間に悪化、押さえると和らぎ(喜按)、脈弦略数を呈していた。 芍薬甘草湯(白芍15g、甘草9g)を処方し、1煎目を服薬させたところ3時間で痛みが消退し、2煎目の服薬で完治した。

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