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経方方証縦横に学ぶ当帰四逆湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

経方方証縦横の当帰四逆湯について、「弁証要点(証の要点)」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

 

方剤組成と服用方法

構成:当帰 三両(9g)、桂枝(去皮) 三両(9g)、芍薬 三両(9g)、細辛 三両(9g)、甘草(炙) 二両(6g)、通草 二両(6g)、大棗(擘) 二十五枚。

服用方法:水八升で煮て三升を取り、滓を取り除いて三回に分けて温服(一升)する。

 

1. 弁証要点(証の要点)

基本病機と治則:肝血・営血の不足(血虚)があるところへ寒邪が侵入し、経絡や脈道に凝滞して血行が不暢となった病態(寒凝血脈、血行不暢)を治療する。治則は「養血散寒、温通血脈」(血を養い、冷えを散じ、血脈を温めて通じさせる)である。

 

配合の意義(温通血脈の工夫):

 

  • 当帰・芍薬:当帰は甘温にして血を養い補血し、芍薬は酸寒にして養血和営(陰血を和らげる)に働き、肝血・営血をたっぷり充填する。

 

  • 桂枝・細辛:桂枝は温経通陽・散寒し、細辛は極辛の性質で三陰の深部にまで届いて温経散寒・止痛する。

 

  • 通草:性質が滑利通利であり、血脈を通じさせて関節の動きを良くし(内は通竅、外は通営)、薬力を末梢へと届かせる。

 

  • 甘草・大棗(二十五枚):大棗を大量(二十五枚)に重用し、中気を補益して脾胃を建て、後天の血の源を培う(建中加飴の法)。

 

臨床での決定的な審証(要点):

手足厥寒、脈細欲絶(手足が冷え、脈が非常に細く今にも絶えそうになる)。

 

寒凝血虚の多様な部位の症状:

 

  • 経絡・関節:四肢関節の痛む冷え、身体痛、腰痛、手足や耳の辺りが青紫になる(しもやけ・雷諾現象など)。

 

  • 胞宮(子宮):月経の遅れ、経量が少なくて色が暗い、激しい生理痛(痛経)。

 

  • 腹部:みぞおちや下腹部の冷え痛(脘腹冷痛)。

 

四逆湯(姜・附を用いる方剤)との明快な鑑別:

 

  • 四逆湯など:主として「脾腎の陽虚・陽気衰微(陽虚陰盛)」を治すため、干姜・附子などの大辛大熱で燥烈な生薬を用いる。

 

  • 当帰四逆湯:主として「肝血不足・陰血の欠乏」に冷えが加わった病態を治すため、あえて干姜・附子を用いない。姜・附の強い燥性でかえって陰血を傷つける(劫陰)のを防ぎ、当帰を君薬として和緩に血脈を温めて繋ぎ直す。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』第351条に、本方の主治が鮮やかに示されている。

 

『傷寒論』第351条:「手足厥寒、脈細欲絶者、当帰四逆湯主之。」

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、姜・附を用いずに当帰・桂枝・通草・細辛の組み合わせで細脈と四肢の冷えを治す本方の深遠な薬理を以下のように解説している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』):「脈は血の府なり」に基づく。血脈を通じさせるには必ず心血を補わねばならない。当帰の苦甘で心血を助け、芍薬の酸味で心気を収め、大棗・甘草・通草の甘味で肝の急を和らげて陰血を養うと説明している。

 

  • 許宏(『金鏡内台方議』):陰血が内虚すれば脈を巡れず、陽気が外虚すれば手足を温められない。四逆湯に姜・附を用いるのは「陽虚陰盛」のためであるが、当帰四逆湯は「陰血虚甚」ゆえに当帰を主とし、姜・附を用いないのだと明確に区別している。

 

  • 王子接(『降雪園古方選注』):姜・附を用いないのは、陰血が虚微なため強烈に乾かしてしまう(重劫)のを恐れるからである。四肢の冷えも不快な冷たさ(冷)にまでは至らない。酸甘の甘草・大棗・芍薬で中焦を和らげて太陰に至らせて脈を生じさせ、辛甘の桂枝・細辛・当帰で表を温めて手足を温め、通草で厥陰の絡脈を開く見事な処方である。

 

  • 呉謙(『医宗金鑑』):厥陰は肝・血室を主どる。桂枝湯の骨格に当帰を君薬として配し、細辛の極辛で三陰に通達して外は経・内は臓を温め、通草で関節を滑利させて内外の営血を通じさせ、大棗を倍用して建中の法とする。生姜を除いたのは、辛散が過ぎるのを防ぐためであると分析している。

 

  • 唐宗海(『傷寒論浅注補正』):脈が細いことから「寒が気分(陽)ではなく、血分(陰)に存在する」ことを知る。ゆえに姜・附を用いず、当帰・桂枝・細辛によってダイレクトに血分を温めるのだと解釈している。

 

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、清熱散風薬が無効であった長年の頑固な頭痛から、重度のしもやけ(凍瘡)、難治性の痛経(生理痛)まで、血虚寒凝の病態を温通することで素晴らしい効果を上げている。

 

  • 李克紹の医案(清熱散風薬が無効であった1年続く原因不明の頭痛と両足の冷えの完治例):

中年男性。1年近く「頭や目が何かで覆われたようにスッキリしない頭痛」に悩まされ、菊花・天麻・黄芩などの清熱散風薬を大量に服薬しても全く無効であった。舌質は赤く苔は少ない状態であった。

李克紹が詳しく診察したところ、「夏場であるにもかかわらず両足が人一倍冷たく、脈が極めて細い(肢冷脈細)」ことを見逃さず、「脈細と足冷は陽虚血少の当帰四逆湯証である」と見抜いた。当帰四逆湯原方を3剤投薬したところ、1年苦しんだ頭痛が劇的に解消し、さらに3剤で完治した。

 

  • 陳瑞春の医案(毎年発作する手足の激しいしもやけ(凍瘡)・手足麻痺・痛経の完治例):

女性教師。毎年冬になると酷い「しもやけ(凍瘡)」を発症し、手足が麻痺して冷え、生理が遅れて小腹痛(痛経)を伴っていた。血虚経寒・寒凝血滞と診断し、当帰四逆湯に柴胡・郁金などを加味した処方を投与したところ、わずか2剤で冷えが治まり、しもやけや生理痛が見事に完治した。

 

  • 朱春廬の医案(他医に「結核性脳膜炎」と誤診された、頭頂部の陣発性激痛と四肢氷冷の救治例):

32歳男性。3ヶ月間にわたり頭頂部に陣発性の激しい刺すような痛みが走り、四肢は氷冷(四肢厥冷)、脈は糸のように細く(脈細如糸)、舌質は淡白であった。他医が結核性脳膜炎と誤診して抗生剤を使用しても全く無効であった。これは血虚寒凝による頭痛と診断し、当帰四逆湯(熟棗仁など加減)を10余剤投与したところ、頭痛が日増しに軽くなり完治した。

 

  • 『仲景方臨床用薬指導』の医案(初潮以来続く小腹冷痛・手足不温・経量少の痛経の完治例):

18歳の女子学生。13歳の初潮以来、毎回の月経時に下腹部が冷えて激しく痛み(小腹冷痛、喜温怕冷)、手足が温まらず、顔色がさえない(面色不栄)状態が続いていた。寒凝血虚と診断し、当帰四逆湯に烏薬・小茴香を加味した処方を投与したところ、1剤で痛みが劇的に和らぎ、5剤で手足も温まって完治した。

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