『温病縦横』の記述に基づき、温病学の視点から「伏暑(ふくしょ)」について解説する。
1. 伏暑の概念と位置づけ
発症の時期と病因
伏暑は、秋から冬にかけて発生する温病である。夏の間に感受した「暑湿邪気」が発病せずに体内に潜伏(伏邪)し、秋冬の季節になって自ら内から外へ発するか、あるいはその時期の気候(時令の邪気)に誘発されて発症すると考えられている。
分類上の位置づけ
感冒してすぐに発症する「新感温病」とは異なり、潜伏した邪気が後になって発症する「伏邪」の性質を持つ。病変の性質としては、基本的には臨床表現が暑湿病と同じであるため「湿熱病」のカテゴリーに属するが、病態によっては「温熱病」に属するタイプも存在する。
2. 発病の特徴
伏暑の最大の特徴は、「初期から里熱証が現れること」である。
邪気を受けた夏の間は正気(身体の防衛力)が充実しているため発病しないが、邪気(暑熱積滞の邪)は内に伏蔵する。そして秋冷以降に条件が揃った時に発症するため、「伏暑晩発」とも呼ばれる。新感温病のように明確な表証(衛分証)の段階を経ることなく、初めから内側の熱(里熱)を中心とした重い症状が現れるのが特徴である。
3. 弁証と治療法
伏暑には大きく分けて「湿熱病タイプ」と「温熱病タイプ」の2種類があり、証候が異なるため治法も異なる。また、食滞などを挟むことも多くみられる。
① 湿熱病に属するタイプ(湿熱弥漫)
- 病態: 伏した暑湿の邪気が、上・中・下の三焦すべてに蔓延した状態(三焦均受)である。舌苔が灰白、胸やみぞおちの痞悶、潮熱、嘔吐、煩渇して下痢をする、汗が出て尿が少ないなどの症状が現れる。
- 適応方剤: 杏仁滑石湯
- 治法: 杏仁、滑石、黄芩、黄連などで三焦に混在する湿熱をそれぞれ分消(分けて排泄)させる。
② 温熱病に属するタイプ(暑熱の偏盛)
- 病態: 暑湿のうち「熱」の性質が極めて強く、陽明の気分に熱が熾盛になっている状態である。激しい口渇、大汗、脈が洪大などの症状が現れる。
- 適応方剤: 白虎湯 または 白虎加人参湯
- 治法: 激しい熱象には白虎湯法を用い、熱によって気津が大きく損傷して脈が虚大・芤(中空)を呈する場合は、人参を加えて益気生津を図る白虎加人参湯法を用いる。
③ 食滞などを挟むタイプ(挟滞・挟食)
- 病態: 伏暑は「暑熱積滞の邪」が伏蔵したものであるため、暑湿蘊熱に飲食の停滞(食滞)などを挟むことがよくある。
- 治法: 治療の基本は、藿香や佩蘭などを用いた「芳香宣化・祛除暑湿(芳香薬で湿を化し暑邪を取り除く)」であるが、食滞や寒湿が絡んでいる場合は、その時の脈や舌、症状に合わせて柔軟に消食導滞の薬などを組み合わせて治療する。


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