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経方方証縦横に学ぶ麻黄杏仁甘草石膏湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

『経方方証縦横』の記載に基づき、「麻黄杏仁甘草石膏湯(麻杏甘石湯)」の弁証要点、仲景方論、注家方論、および医案についてまとめる。

弁証要点

本方の臨床応用における要点は、以下の通りである。

  • 適応と基本効能:本方は、発汗や瀉下(下剤の使用)の後に邪熱が肺に壅滞(うったい)して生じる喘(呼吸困難・ぜんそく様症状)を治療するものであり、清熱・宣肺・平喘の働きを持つ。

  • 臨床での使用目標:発熱、咳喘、鼻煽(小鼻のぴくつき)、口の乾きや渇き、煩躁、便秘、色の濃い尿(赤尿)、舌質が紅い、黄苔、脈数(脈が速い)などの症状が見られる場合に適応となる。

  • 他疾患への応用:肺と大腸は表裏の関係にあるため、邪熱が肺に壅滞して大腸の伝導機能に影響を及ぼした結果生じる腸疾患や痔瘡(痔)などにおいて、肺熱を伴う場合にも応用が可能である。

  • 用量の調整:使用にあたっては石膏と麻黄の用量比の把握が重要である。原方では2:1であるが、肺熱が重い場合は5:1〜10:1に増やしたり、表証が未解で汗が出ない場合は1:2〜1:3に減らしたりするなど、病態や体質に応じた調整が必要となる。

仲景方論

張仲景の『傷寒論』からは、以下の2つの条文が引用されている。

『傷寒論』第63条

「発汗後、不可更行桂枝湯。汗出而喘、無大熱者、可与麻黄杏仁甘草石膏湯」

(発汗後、更に桂枝湯を行[や]るべからず。汗出でて喘し、大熱なき者は、麻黄杏仁甘草石膏湯を与うべし)

『傷寒論』第162条

「下後、不可更行桂枝湯。若汗出而喘、無大熱者、可与麻黄杏仁甘草石膏湯」

(下[くだ]して後、更に桂枝湯を行うべからず。若し汗出でて喘し、大熱なき者は、麻黄杏仁甘草石膏湯を与うべし)

注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、麻黄湯の桂枝を石膏に置き換える意義やそのメカニズムについて、それぞれ以下のように考察している。

医家 出典 考察の概要
成無己 『注解傷寒論』 『黄帝内経』の「肝は急を苦しむ。急ぎ甘を食して以てこれを緩めよ」を引用し、風邪が外で盛んであるため、純甘の剤でこれを発するのだと説明している。
方有執 『傷寒論条弁』 傷寒で発汗すべきときに桂枝を用いてはならず、桂枝で衛を固めると寒が抜けずに気が上逆し、喘がさらに悪化すると指摘する。大熱がないのは熱が内部に潜伏して見えないためであり、石膏の徹熱の効が下喘を助けることから、桂枝を石膏に代えて麻黄湯の変制としたと解説している。
喻嘉言 『尚論後篇』 太陽の邪が汗から解けても、肺に入った熱邪は解けないため、熱は少し治まっても喘は止まらないという病理を述べる。麻黄で肺邪を発し、杏仁で肺気を下し、甘草で肺急を緩め、石膏で肺熱を清する構成であり、足太陽膀胱経の薬で手太陰肺経を治す「天造地設の良法」であると絶賛している。
尤在涇 『傷寒貫珠集』 麻黄・杏仁の辛味で肺に入り、肺気をめぐらせて邪気を散らし、甘草の甘平、石膏の甘辛寒で肺気を補い熱気を除くと解説している。肺中の邪は麻黄・杏仁でなければ発せず、寒郁の熱は石膏でなければ除けないとし、甘草には石膏の激しさ(悍さ)を緩める役割もあると述べている。
王子接 『絳雪園古方選注』 桂枝加厚朴杏子湯が「寒喘」を治すのに対し、本方は「熱喘」を治すと比較する。麻黄で毛竅を開き、杏仁で裏気を下し、甘草で石膏の辛寒の性を載せて肺から発泄させ、陽邪を分頭解散させると分析している。熱を清して喘が定まれば、汗も止まり陽気も亡びないと解説している。

医案選録(名医の臨床カルテ)

邪熱壅肺による激しい症状に対し、本方を用いて著効を得た2つの臨床例が紹介されている。

1. 曹穎甫の医案(痰熱による喘咳)

傷寒から7日経過し、発熱・無汗・微悪寒・全身疼痛があり、黄色く粘り気のある痰が出にくい状態であった。肺気閉塞により内部で化熱していると診断し、麻黄杏仁甘草石膏湯に浮萍や青黛などを加えて投与した。服薬後に発汗して熱が少し下がり、さらに服薬を継続することで完治に至った。

2. 俞長栄の医案(高熱と喘促を伴う肺炎)

肺炎を患い、40℃の高熱が下がらず、頻繁な咳嗽、呼吸促迫、胸膈疼痛、褐色の血痰、譫語(うわごと)などの重篤な症状を呈していた。脈が洪大であり白虎湯の適応にも見えたが、激しい咳や喘息、血痰などの所見から「内熱壅盛、肺気閉塞」が主病態であると診断した。白虎湯では平喘止咳の効が不十分であると判断し、本方(石膏72g、麻黄9gなど)を1時間おきに頻回投与したところ、1剤で症状が7〜8割減少し、その後は別の処方で体調を整えて全快を果たした。

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