『経方方証縦横』における調胃承気湯の「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。
方剤組成と煎じ方・服法
- 生薬構成:大黄(去皮、清酒洗)四両(12g)、芒硝 半升(12g)、甘草(炙)二両(6g)。
- 煎じ方・服法の工夫:水三升で大黄と炙甘草をまず煮て一升を取り、滓を取り除いた後、煎じ汁に芒硝を入れて再び微火にかけて一・二沸(ひと煮立ち)させる。
- ※甘草・大黄を芒硝と長煎すると有効成分が沈殿して効果が落ちるため、芒硝は後から溶かし込んで煮立てる。
- 二通りの服用方法:
- 少少温服之(第29条):少量ずつ温服し、薬力を胃中に留め置いて胃気を濡潤・調和させる。
- 温頓服之(第70条):一気に服用し、薬力を集中させて熱結を速やかに瀉す。
1. 弁証要点(証の要点)
基本病機と治則
- 病機:燥熱結実、胃気不和(邪熱と燥屎が胃腸で結ぼれているが、固い大積滞には至っておらず、胃気が不和となった病態)。
- 治則:「瀉熱和胃、暢達気機」(熱を瀉して胃を和らげ、気機を暢達させる)。
配合の意義(方解)
- 大黄(苦寒):邪熱を清めて実を去り、推陳致新(古い蓄積を排して新しくする)にはたらく。
- 芒硝(咸寒):熱を瀉して便を通じさせ、燥を潤して硬さを和らげる(潤燥軟堅)。
- 炙甘草(甘平):中気を益し、大黄・芒硝と配伍することで急速な下瀉を緩め、正気(胃気)を傷つけるのを防ぎつつ諸薬を調和させる。
臨床での審証の要点
- 蒸蒸発熱(蒸し熱いような高熱)。
- 腹満不大便(お腹が張って大便が出ない)。
- 心煩・谵語(もやもやした焦燥感・うわ言)などの陽明腑実軽証(緩証)。
- 正気虚衰・脾胃虚寒の者や妊婦には忌用・慎用とする。
承気三方(大承気湯・小承気湯・調胃承気湯)の明確な鑑別
- 大承気湯:熱結重証。「痞・満・燥・実・堅」の全症状を備え、枳実・厚朴・大黄・芒硝の4味で峻下熱結する。
- 小承気湯:熱結軽証。痞満が主で燥実が従であり、芒硝を去って大黄・厚朴・枳実を三味同煎し、胃気を和らげる。
- 調胃承気湯:熱結緩証。燥熱結実が主で痞満が顕著でないため、枳実・厚朴の辛燥薬を除き、大黄・芒硝・甘草で緩やかに和胃瀉熱する。
2. 仲景方論
張仲景の『傷寒論』において、本方の適応を示す主要な条文は以下の通りである。
- 第29条:「…若し胃気不和、谵語する者は、少しく調胃承気湯を与えよ…」
- 第70条:「発汗後、悪寒する者は虚なるが故なり。悪寒せず、但熱する者は実なるなり。当に胃気を和すべし、調胃承気湯を与えよ。」
- 第94条:「太陽病未だ解せず…但だ陰脈微なる者は下せば解す。若し下さんと欲せば、調胃承気湯宜し。」
- 第105条:「傷寒十三日解せず、過経して谵語する者は、熱有るを以てなり、当に湯を以て下すべし…此れ内実となす、調胃承気湯これをつかさどる。」
- 第123条:「太陽病、過経十余日…先ず此の時自ら極吐下せし者には、調胃承気湯を与える…」
- 第207条:「陽明病、吐せず下さず、心煩する者は、調胃承気湯を与える可し。」
- 第248条:「太陽病三日、発汗して解せず、蒸蒸として発熱する者は、胃に属するなり、調胃承気湯これをつかさどる。」
- 第249条:「傷寒吐の後、腹脹満する者は、調胃承気湯を与える。」
3. 注家方論(歴代注釈家による考察)
歴代の医家たちは、理気薬(枳実・厚朴)を用いずに甘草を配し、胃気を和らげながら下す本方の薬理を以下のように解説している。

- 成無己(『注解傷寒論』):
『内経』の「熱淫于内、治以咸寒、佐以甘苦」に基づく。芒硝の咸寒で熱を除き、大黄の苦寒で実を蕩除し、甘草の甘平で二物の推陳を助けつつ中焦を和緩させると説明している。
- 許宏(『金鏡内台方議』):
- 本方は大実大満の証ではなく、虚結が散ぜずに中に凝った病態に適する。大黄(君)で中結を通じ、芒硝(臣)で燥を潤し、甘草(佐使)で緩やかに中焦を調和させる。他方と異なり甘草を用いるのは、速如星火の急下ではなく「和調胃気」を主とするためである。
- 王子接(『降雪園古方選注』):
甘草で大黄・芒硝を和らげて留中瀉熱するため「調胃」と名付けられた。甘草が芒硝を制し、芒硝が大黄を制する。枳実・厚朴を除いたのは、辛燥の性質が熱結によって損なわれた胃津(水分)をさらに酷く乾かしてしまう(重劫)のを恐れるためである。
- 呉謙(『医宗金鑑』):
- 大黄の苦寒と芒硝の咸寒を並挙して攻熱瀉火の力を備えつつ、速やかに下りすぎるのを恐れて甘草の和緩な性質を佐薬として和調させていると論じている。
- 柯琴(柯韻伯・『傷寒附翼』):
気薬(枳朴)を用いずに「承気」と称するのは、「調胃即ち承気なり」の理に基づく。硝・黄で胃家の糟粕を濡潤し、甘草で胃家の津液を生じさせる。「少少温服之」の服法の妙によって薬味を胃中に留め置き、胃府をしっかりと濡潤させるのだと称賛している。
4. 医案選録(名医の臨床カルテ)
本方は、前医の誤治による激しい不眠・大熱から、重度の便秘を伴う実熱、さらには小児の蛔虫性腸閉塞まで、胃気を損なわずに熱結を攻め下して快癒させている。
- 羅謙甫の医案(陰証と誤診され附子理中丸を乱用された大熱・便秘の救治例):
19歳の男性。傷寒9日目、前医が陰証と誤診して附子理中丸を連用したため急激に悪化した。脈は沈数(1分間に6〜7至)、夜間に叫び続けて全く眠れず(夜叫呼不絶)、冷水を激しく飲みたがり、大便は3日不通であった。羅謙甫は「純然たる陽証実熱である」と断定し、調胃承気湯(酒煨大黄18g、炙甘草6g、芒硝15g)を投与した。一服で燥糞20余塊が下り、全身から汗が出て見事に完治した。
- 張錫純の医案(外感実熱16〜17日不大便・心煩熱・腹中脹満の和下例):
普段から便秘傾向の患者。外感実熱で16〜17日大便が通じず、心中煩熱し腹部が脹満していた。前医は脈が弱いことから下剤を躊躇していた。張錫純は「脈は弱いが火は極めて実である」と見抜き、調胃承気湯に野台参12g、生赭石・天門冬各24gを加えた処方を煎じ、3回に分けて徐々に温服させた。2回服用したところで腹中が鳴り、3回目で大便が通じて内熱が消え去り、見事に全快した。
- 郭雍の医案(過食兼感冒による初病身涼自利・冷汗から大煩躁・谵語・斑出へ移行した重証):
盛年男性。冷酒と肉の過食に風邪が加わり、初めは体が冷えて水様下痢を起こし手足が冷え切っていた(身涼自利、四肢厥逆)。四逆湯などで陽気が戻ったものの、2〜3日後に突如として大煩躁・谵語(うわ言)・皮膚に斑点が出現する激しい高熱へ移行した。調胃承気湯(酒洗大黄9g、芒硝9g、炙甘草6g)を投与したところ、便が通じて大汗とともに完治した。
- 姚興華の医案(73歳老婦の下痢後の腹脹・二便不通・嘔吐[蛔虫性腸閉塞]の微和例):
73歳の女性。下痢が治まった後に激しい腹脹・二便不通・汗出煩躁・黄色い稀水の嘔吐(蛔虫4条を吐出)を起こした。西医で蛔虫性腸閉塞と診断されたが体力衰弱のため手術不能であった。病態は陽明実熱(蛔厥)であるものの体虚ゆえに峻下を避け、調胃承気湯(生大黄9g、元明粉9g、生甘草3g)で優しく和らげた。服薬後に大便が4回通って蛔虫7条が排出され、腹脹・嘔吐が消えて完全に生還した。


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