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経方方証縦横に学ぶ抵当丸の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

『経方方証縦横』に基づき、「抵当丸」について解説する。

 

弁証要点(証の要点)

  • 基本病機と適応:表邪が経に随って府に入り、熱と血が下焦で結合して形成された「下焦蓄血の緩証」(病勢が比較的緩やかな蓄血証)を治療する。治則は「攻下瘀血、峻薬緩攻」(瘀血を攻め下しつつ、峻烈な生薬を緩やかに作用させる)である。

 

  • 処方構成:水蛭(炒)5g(二十個)、虻虫(去翅足、炒)5g(二十個)、桃仁5g(二十五个)、大黄(酒洗)9g(三両)。

 

  • 服法の工夫:四味を粉末にして4丸に分け、1丸を水1升で7合まで煮詰める。去滓を行わず、薬汁と薬渣を一緒に服用する(連滓服下)という特異な服用方法をとる。24時間(晬時)以内に下血させ、出なければ再度服用する。

 

  • 臨床での使用目標

  • 少腹満:下腹部が張って詰まるが、抵当湯証のように石のように硬く痛む「硬」までは至らない。

 

  • 有熱・心煩:熱が里に鬱して発熱やモヤモヤした煩躁があるが、抵当湯証のような激しい「発狂」までは至らない。

 

  • 小便自利:小便が正常に通じる。蓄水証ではなく純粋な血分の病変であることを示す。

 

  • 抵当湯との鑑別

  • 抵当湯:下焦蓄血の「急証・重証」。少腹は石のように「硬満」し、精神状態も「発狂」を呈する一撃離脱の峻下剤である。

 

  • 抵当丸:下焦蓄血の「緩証」。水蛭・虻虫の量を減らし、桃仁の割合を増やして丸剤(水丸)とし、分量も抵当湯の約1/4に設定されている。連滓服下することで効果をじわじわと持続させ、正気を傷つけずに蓄血を安全に消化させる。

 

仲景方論

張仲景の『傷寒論』第126条に、本方の主治が以下のように示されている。

 

『傷寒論』第126条:「傷寒有熱、少腹満、応小便不利、今反利者、為有血也、当下之、不可余薬、宜抵当丸。

(傷寒で発熱があり、下腹部が張って不快であり、水毒であれば本来小便不利になるはずが、逆に小便がスムーズに通じるのは「血(蓄血)」が存在する証拠である。これを攻め下すべきであり、他の無効な余薬を用いるべきではない。抵当丸が適している。)

 

注家方論

歴代の医家たちは、湯剤の力強さと丸剤の持続力をあわせ持つ本方の調剤の妙について、以下のように解説している。

 

  • 方有執(『傷寒論条辨』):名前に「丸」と付きながらも煮湯のように服用させる。本来「湯」は激しく蕩滌し、「丸」は和緩に効くものであるが、湯と丸を融合させることで「欲緩不緩、不蕩而蕩(緩やかにしたいが緩やかでなく、激しく流さずして滑蕩させる)」という絶妙な作用を生み出していると称賛している。

 

  • 尤在経(『傷寒貫珠集』):抵当丸の水蛭・虻虫の量は抵当湯の1/3に減らされ、服薬回数もマイルドになっている。これは「身体が黄色くならない」あるいは「脈が沈結にならない」など、血結を「攻めないわけにはいかないが、一気に激しく攻めることもできない」病勢に対する、きわめて周到な配慮であると説明している。

 

  • 張錫駒(『傷寒直解』):条文の「不可余薬」について、一般的な「他の薬を使ってはならない」という解釈のほかに、「3分の余ある湯薬を4丸に分けたように、薬の分量が非常に少ない(丸少于湯)ため、無駄な余薬(過剰な投与)をしてはならない」という意味が含まれていると述べている。

 

  • 陳修園(『長沙方歌括』):条文の「有熱」に着眼し、熱が里に鬱して表に蒸し、少腹満・小便自利を呈する病態に対し、急遽に下さず湯を丸に変えて気味を調和させ、病所へと緩やかに到達させる。「不可余薬」とは連滓服下して一滴も残さず飲むことであり、少量の薬で大きな病邪に打ち勝ち、下血させて病を去りながらも正気を傷つけない名法であると絶賛している。

 

  • 熊曼琪(『傷寒学』):水蛭・虻虫を減量して桃仁を増やし、湯剤を丸剤(水丸)へと変更することで、破血・駆瘀作用を和らげた「逐瘀瀉熱の和緩の剤」として位置づけている。

 

医案選録

本方は、傷寒のこじれによる発狂や頑固な経閉、さらには住血吸虫病による脾腫大などに対し、安全かつ劇的な効果を上げている。

 

  • 許叔微の医案(発狂・身黄・少腹脹満を伴う傷寒蓄血の救治):傷寒にかかって7〜8日、脈は微にして沈、全身が黄色くなり、激しく発狂し、下腹部がパンパンに張り、へその下が冷え、小便はスムーズに通じていた。前医たちが心経の熱毒と勘違いして安神清熱薬を与えても無効だったため、許叔微は下焦蓄血証と見抜き、抵当丸(水蛭1.5g、炙虻虫1.5g、大黄9g、桃仁9gを白蜜で丸とし、1回3gを白開水で服用)を与えたところ、黒い血が数升ドッと下り、発狂がピタリと止まって汗をかき全快した。

 

  • 陳葆厚の医案(9ヶ月の頑固な経閉と腹中の激痛の解消例):銭某の妻。生理が9ヶ月も止まり、お腹の中にコブのような塊があって激しく痛んでいた。前医の三稜・莪朮などの行気活血薬では全く効果がなかった。陳葆厚は「血結の初起なら三稜や莪朮で治るが、すでに固く結ばれたものには力が及ばない」とし、抵当丸3銭(約9g)を白開水で服用させた。服薬後の夜間、お腹が激しく痛んでベッドの上を這い回り(患者が医師を大罵するほどの激痛)、明け方になると大便とともに黄・白・赤が混ざり合った粘穢物が大量に排泄され、痛みが一瞬にしてスッキリと解消し、その後に加味四物湯で調理して全快した。

 

  • 劉雨農の医案(日本住血吸虫病による著しい脾腫大の完治例):45歳男性(気管支喘息と脾腫大がへそを越える重症)および29歳女性(肺結核と脾腫大が肋下4指の重症)の2例。大便の検査でいずれも住血吸虫の毛蚴が陽性と判定されていた。そこで、抵当丸10〜12g/日を、1日2回に分けて温水で18〜28日間連続服用させた。服薬期間中、激しい下血や下痢などの消化器症状・副作用は一切起こらず、かえって食欲が旺盛になり、20日後にはあれほど大きく腫れ上がっていた脾臓が著しく縮小し、大便の検査でも毛蚴が完全に陰性化して、元通り元気に労働へ復帰できた。

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