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経方方証縦横に学ぶ桃核承気湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

経方方証縦横における「抵当湯類方」の桃核承気湯について、「弁証要点(証の要点)」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

 

  1. 弁証要点(証の要点)

 

  • 基本病機と適応

太陽病の邪熱が経に沿って体内に侵入して化熱し、瘀血(血の滞り)と下焦(膀胱・少腹・血室)で互いに結びついた「下焦蓄血証」を治療する。治則は「活血化瘀、通下瘀熱」(血の滞りを散らし、瘀熱を下から排泄させる)である。

 

  • 方剤構成と配合の意義

  • 構成:桃仁 8.5g(五十個)、大黄 12g(四両)、桂枝 6g(二両)、炙甘草 6g(二両)、芒硝 6g(二両)。

 

  • 本方は、瀉下熱結の基本方である「調胃承気湯(大黄・芒硝・炙甘草)」に「桃仁」と「桂枝」を加えた構成である。

 

  • 桃仁:活血化瘀・破血に働き、下焦にこびりついた血結を和らげ散じる。

 

  • 桂枝:温陽活血・辛温行気のはたらきを持ち、「気行けば則ち血行く(気が巡れば血も巡る)」の理によって気を通じさせ、桃仁の破血作用を強力に後押しする。

 

  • 調胃承気湯(大黄・芒硝・甘草):苦寒瀉下によって熱を清め、瘀熱を下へと導いて排泄させる。なお、本方における芒硝の量は調胃承気湯の4分の1と少なく設定されており、下す力は比較的マイルドで「当に微利すべし(軽く下痢する程度)」とされている。

 

  • 臨床での使用目標(審証の要点)

  • 少腹急結(下腹部が引きつれるように張り、硬く詰まって痛む)。

 

  • 其人如狂(精神が著しく興奮し、狂躁状態になったり、感情が激しく錯乱したり、怒りっぽくなる)。

 

  • 小便自利(小便が正常に通じる:水毒による鬱滞ではなく、純粋な「血分」の病変であることを示す最も重要な鑑別点)。

 

  • 月経不順・経閉・激しい生理痛(婦人の月経障害や下腹部痛)。

 

  • 舌質紫暗・有瘀斑(舌の色が紫暗色で瘀斑がある)、脈沈実または沈弦・結。
  1. 仲景方論

 

張仲景の『傷寒論』第106条に、本方の主治と治療の絶対原則が以下のように示されている。

 

『傷寒論』第106条:「太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者愈。其外不解者、尚未可攻、当先解其外。外解已、但少腹急結者、乃可攻之。宜桃仁承気湯。」

 

(※太陽病が解けず、熱が下焦の膀胱・少腹に結ぼれて狂躁状態を呈する場合、血が自然と下へ排泄されれば治る。もし悪寒や発熱などの表証が残っている場合は、先に表邪を解散させねばならず、まだ攻めてはいけない。表証が完全に解け終わり、ただ「少腹急結」のみが残っていることを確認して初めて攻めることができる。これには桃仁承気湯が適している。)

 

  1. 注家方論(歴代注釈家による考察)

 

歴代の医家たちは、承気湯に桃仁と桂枝を組み合わせることで、気と血を同時にさばく本方の絶妙な妙味を以下のように解説している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』):「甘は以て緩め、辛は以て散ず」に基づき、少腹急結に対しては桃仁の甘味で急を緩め、下焦の蓄血に対しては桂枝の辛味で散じる。熱が激しく血と激しく結合しているため、調胃承気湯にこの二味を加えて熱と血を同時に瀉すのだと解説している。

 

  • 方有執(『傷寒論条辨』):五物からなる本方は、太陽の邪が経に随って府(下焦)に入った病態に対する「軽剤」である。食前に服用させることで、薬力を速やかに下焦へと到達させる。

 

  • 許宏(『金鏡内台方議』):桃仁を君薬として血結を破りその急を和らげ、桂枝を臣薬として辛熱の気で下焦の蓄血を温散する。これに調胃承気湯を佐使として合わせ、下す力を和らげながら下焦の結血を消散させる構成である。

 

  • 尤在涇(『傷寒貫珠集』):熱と血が強力に結ぶため、大黄の苦寒(君)で実熱を蕩滌し、芒硝の咸寒(臣)で血分に入って硬さを軟らかくし、桂枝の辛温と桃仁の辛潤(使)で血を逐って邪を散じ、甘草の甘(佐)で諸薬の激しい勢いを和らげて正気を傷つけずに攻め落とす完璧な配伍であると絶賛している。

 

  • 柯韻伯(『傷寒附翼』):気が留まって行かないため大黄で逆気を行らせ、甘草で正気を調え、芒硝で軟堅し、桂枝で散じ、桃仁で泄らす。気が巡り血が潤い収まれば少腹の張りも消え、神気も自ずから落ち着く。本方は特に「女子の月経不順、生理前の激痛、経閉(月経停止)」を治療する最良の処方であると論じている。

 

  • 陳修園(『長沙方歌括』):桃仁は行血の緩薬であり、大黄で古い血・熱を推し進めて新しくし(推陳致新)、芒硝で清熱消瘀し、甘草で中焦を護る。ここで桂枝を二両加えるのは、「辛能行気、気行則血行(辛味は気を行らせ、気が巡れば血もまた巡る)」という気血の根本法則に基づいているからだと説明している。

 

  1. 医案選録(名医の臨床カルテ)

 

本方は、外感後の怒目狂躁、驚愕による突発的な精神失常、産後の悪露停滞による激痛、さらには難治性の過敏性紫斑病(アレルギー性紫斑病)にまで劇的な効果を上げている。

 

  • 遁園の医案(外感誤治後の「如狂」と少腹満脹)
  • 20代の男性。外感にかかった後、さまざまな医師がデタラメな治療を重ねた結果こじれ、顔色は黄色く、下腹部がパンパンに張り(少腹満脹)、身に熱はなく、座ると目を怒らせて人を注視し、拳を固く握って人に襲いかかろうとする狂躁状態(如狂)を呈していた。脈は浮渋、舌苔は黄暗で底面は鮮赤色であった。これは「病が血に入った熱結膀胱(如狂)」であると診断し、桃核承気湯を1剤投与したところ著効が現れ、2剤で完全に完治した。

 

  • 喻嘉言の医案(傷寒壊証による両腰の激痛と歩行不能)

張令施の弟。傷寒のこじれ(壊証)で両腰が麻痺して立ち上がれなくなり(両腰寠廃)、一晩中刀で刺されるような激痛に叫び続けて百薬が無効であった。喻嘉言は「熱邪が両腰の血脈に深く侵入し、血脈が長期間閉塞して出られない状態」と見抜いた。しかし病が長引いて正気もすっかり虚しているため、桃仁承気湯に肉桂・附子を多量に加えた大剤を投与したところ、服用後すぐに自力で力強く立ち上がれるようになり、その後丸剤にして連用させたところ完全に全快した。

 

  • 曹穎甫の医案(激しい恐怖・驚愕による発狂と2ヶ月の経閉)

20歳未満の女性。外出中に突然激しい驚怖を受け、帰宅後に発狂して逢う人ごとに殴りかかる(逢人乱殴、力大無限)という凄まじい状態に陥った。受診時すでに発狂から7〜8日が経過しており、経水(生理)が2ヶ月不通、脈は沈緊、下腹部が張っていた。下焦の蓄血証と診断し、桃核承気湯(桃仁30g、生大黄15g、芒硝6g、炙甘草6g、桂枝6g、枳実9g)を与えたところ、大量の黒い血塊が排泄され、それとともに狂躁がピタリと治まり、食事も摂れるようになって全快した。

 

  • 劉渡舟の医案(驚怖による精神失常・少腹痛・月経遅延)

18歳の女性。驚怖を受けたことをきっかけに精神失常を来し、泣いたり笑ったりを繰り返し、下腹部が痛んで月経が遅れて届かなかった。舌質は紫暗、脈は弦滑。情志の損傷によって気機が逆行し、血が瘀して神気が乱れた病態であるため、桃核承気湯に柴胡、丹皮、赤芍、水蛭を加味した処方を2剤投与した。服薬後、経水(黒血)が下行するとともに少腹痛も消え去り、精神も完全に平穏を取り戻して完治した。

 

  • 鄧鉄濤の医案(産後の発熱・少腹脹満・悪露停止)

産後6〜7日の女性。午後に発熱し、下腹部が激しく張り、産後3〜4日で悪露がピタッと止まっていた。桃核承気湯を投与して夜間に服用させたところ、真夜中にお腹が激しく痛んだ後に大量の膿血が排泄され、翌朝には病気が嘘のように綺麗に完治した。

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