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未開封の生薬が教えてくれた「分かったつもり」の落とし穴

漢方医学

80歳台の女性。主訴は「のぼせ」。

初診時に漢方治療の適応と判断し、生薬(煎じ薬)を処方した。石膏が含まれるため先煎が必要となる内容だ。説明の際、患者さんは「はい、はい」と素直に頷いており、全く問題なく理解してくれていると私は記憶していた。

そして、一週間後の今日。

再診に訪れた彼女は「症状は変わらない」と言う。「え?」と不思議に思っていると、彼女はおもむろに懐から袋を取り出した。

中に入っていたのは、未開封の生薬だった。

彼女の話を聞くと、どうやら「生薬は小さい茶碗に入れて、お湯を注いで飲むもの(エキス剤やティーバッグのようなもの)」と勘違いしていたらしい。

「これからヤカンを買わなきゃいけないなんて……」とこぼし、さらに生薬の作り方が書かれた薬局のメモを取り出して、「頭がぼーっとしているとき、このようなややこしい説明は読む気もしない」と言うのだ。

のぼせが辛くて頭が回らない、と言いたいのだろうが、実際はのぼせは我慢すれば収まるものだ。おそらく、初めて「煎じる」という行為に直面し、その手間に高い心理的ハードルを感じてしまったための、彼女なりの言い訳なのだろう。

正直なところ、これまでこういったケースがなかったため、未開封の袋を見た瞬間はがっかりしてしまった。しかし同時に、ある考えが頭をよぎった。

これまで、二診目に来なくなってしまった患者さんが稀にいたが、もしかするとその中にも、彼女のように作り方が分からず戸惑い、そのまま諦めてドロップアウトしてしまった人がいたのではないか、と。

私は気を取り直し、時間をかけて作り方を再説明することにした。

マニュアル通りの説明ではなく、薬局のメモに直接ペンで上書きしながら、「煎じる時間はトータルで40分。先にこの石膏を入れて、10分後に本煎を入れるだけですよ」と、彼女の表情や反応を見ながら、伝わるまで言葉を変えて繰り返した。

「痛いとかならまだしも、のぼせは我慢すれば良くなるし……」と呟く彼女に、ちゃんと漢方を煎じて飲んでほしいと伝え、来週また予約を入れた。

今回の出来事は、私にとって今まで体験したことがないピットフォール(落とし穴)だった。「はい」という返事と、実際に家で行動できることは別物なのだ。

言葉や文字だけで「先煎が…」とややこしい説明をするのではなく、より詳細な煎じ薬のイメージを動画で自作し、初診時に診察室で見てもらうのが一番良いのではないか。

次回から、初回の処方時には視覚的なアプローチを取り入れてみようと思う。未開封の生薬は、私に「伝えること」と「伝わること」の大きな違いを教えてくれた。

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