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経方方証縦横に学ぶ梔子鼓湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

次のテーマは梔子鼓湯類である。

経方方証縦横における梔子鼓湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案について解説する。

 

1. 弁証要点(証の要点)

  • 基本病機と適応
  • 太陽病を誤って瀉下(下剤を投与)した後に、無形の邪熱が胸膈に留まり、かき乱している状態(無形邪熱留擾胸膈)を治療する。
  • 臨床での使用目標
  • 発汗、吐下した後の「虚煩不得眠」(頭や胸がもやもやして眠れない)、あるいはそれが重症化した「反覆顛倒、心中懊悩(おうのう)」(寝返りを何度も打ち、胸がもやもやして苦しみ悶える)を弁証の決定的な要点とする。
  • 生薬の調製
  • 本方で熱を漏らし、煩を除く目的で使用する場合、山梔子は「生用」(生山梔子)とするのが適しており、炒めて使うと効果が著しく低下する(炒黒して用いるのは止血の目的である)。
  • 禁忌
  • 脾胃が虚寒している者、あるいは下痢(瀉泄)をしている者には禁忌とされている。

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』に記載されている、以下の条文が主治となる。

 

  • 第76条:「発汗後、水薬入口を得ざるは逆と為す、若し更(さら)に発汗すれば、必ず吐下して止まざる。発汗吐下後、虚煩して眠ることを得ず、若し劇(はげ)しき者は、必ず反覆顛倒し、心中懊悩す、梔子豉湯これが主る」
  • 第77条:「発汗、若しこれを下して、煩熱し、胸中窒(ちつ:胸のつかえ)する者は、梔子豉湯これが主る」
  • 第78条:「傷寒五六日、大下(大いに下剤を用いる)の後、身熱去らず、心中結痛する者は、未だ解せんと欲せざるなり、梔子豉湯これが主る」
  • 第221条:陽明病の下後に客気が胸膈を動かして心中懊悩し、舌上に苔がある者。
  • 第228条:陽明病の下後に心中懊悩し、お腹が空くのに食べられず、頭部だけに汗をかく者。
  • 第375条:「下利(下痢)の後に更(さら)に煩し、これを按じて心下濡(じゅ)なる者は、虚煩と為すなり、梔子豉湯に宜し」

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、本方が熱を清めて胸のつかえを散らすメカニズムや、「吐剤(吐かせる薬)であるか否か」の議論について深く考察している。

 

  • 王子接(『絳雪園古方選注』)
  • 本方を「上焦の虚熱を吐き出させる軽剤」と位置づけている。山梔子自体は本来吐き薬(吐薬)ではないが、生山梔子(生は気が浮いて性質が湧く)と、発酵・蒸熟されて軽浮となった淡豆豉(性質が泄=降ろす)の二味を併用することで、「生升(しょうしょう)」と「熟降(じゅくこう)」の薬力が陽分で互いにせめぎ合い、結果として上焦の熱を宣越させて吐かせるのだと解説している。
  • 張志聡(『傷寒論集注』)
  • 山梔子は冬の厳しい寒さに耐える(冬令水陰の気を得る)生薬であり、色が赤く丸い形が心臓に似ているため、陰気を呼び起こして心臓を養い、心中の煩熱を導いて引き下げる(下行させる)。一方の淡豆豉は腎の穀物(黒豆)から作られ、発酵されて軽浮な性質となり、腎の精気を起こして心胃へと上昇させる。これによって水火が既済(交調)し、虚煩が自ずと解消されると解説している。
  • 陳修園(『長沙方歌括』)
  • 本方の古い写本には「得吐止後服(吐いたら後の服用を止める)」という文言があるため、古くから「湧吐の薬」と誤伝されてきたと指摘する。しかし、瓜蒂散は「吐之」と明記されているのに対し、本方の条文には「吐」の字がなく、すでに吐下を経た後の「虚煩」に対してさらに無理に吐かせるべきではないとし、張隠庵らの「吐剤ではない」とする説を支持している。
  • 自身が臨床で使用しても、ほとんどの患者は吐かずに治り(所過者化、雨露の用)、極めて稀に戦って勝つように吐いて治る(戦則必勝、雷霆の用)ことがあるが、これは方剤自体が吐剤なのではなく、薬力が病邪に勝ったために自然と生じる神妙な効果であると述べている。山梔子の苦寒(火を下げて下行させる)と淡豆豉の軽浮(水液を上昇させる)が和合し、水火が交わることで、煩熱、懊悩、結痛がすべて解消されるのだと絶賛している。

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は余熱が心神を乱す「虚煩」や、鬱屈した精神状態、寝苦しさなどに優れた効果を発揮する。

 

  • 葉天士の医案(木火犯土による胃気下行不能・喉のつかえ)
  • 患者(張五)は、脈が小弦、食べ物が喉につかえて詰まる(納谷喉中噎梗)という症状であった。自述として「平素から憂鬱(悒郁)としており、無理にお酒を飲むことが多かった」とのこと。これを「木火犯土(肝木の火が脾胃の土を侵し)、胃気が下行できなくなっている」状態と判断した。そこで、苦辛泄降の法を用い、山梔子、淡豆豉に、姜汁炒黄連、郁金、竹茹、半夏、丹皮を加えた処方を投与し、胃気を和らげ下行させることで完治させた。
  • 『湖北中医医案選集』の医案(傷寒後の余熱擾乱心神による不眠・心乱)
  • 24歳の男性。傷寒を患い、麻黄湯1剤で汗が出て一度は熱が下がったが、それから半日ほどして激しい心煩が始まり、徐々に悪化した。自言として「心中が万慮に糾纏(多くの心配事が頭にまとわりつく)されているようで、打ち消すことができず、時折悶乱し、神が主を失ったかのようにベッドで寝返りを打ち(輾転床褥)、全く眠れない」と訴えた。
  • 胸腹を按じても柔らかく異常はなく、身熱や悪寒もなかったが、神情は急躁(イライラ)、面容は怫鬱(ふさぎ込む)、脈は微浮でやや数、両寸が特に顕著で、舌尖が赤く苔は白であった。これを「表は解けたが、余熱が体内に留まり心神をかき乱している(余熱擾乱心神)虚煩懊悩」と診断した。梔子豉湯(生山梔子9g、淡豆豉9g)を1剤投与したところ、一服で心煩が和らぎ、二服で病が消え去るように完全に安眠できるようになった。
  • 江応宿の医案(傷寒後の懊悩怫鬱による不眠・嘆息)
  • 傷寒を患って十数日、身熱があって汗が出ず、心が塞がって横になることもできず(怫鬱不得臥)、ただ「激しくイライラするのでもなく、寒気もなく、痛みもないが、時折『ハァ』とため息をつくような声をあげる(時発一声、如嘆息之状)」という奇妙な状態であった。他医はこの病が分からず困り果てていた。
  • 江応宿はこれを見て「心中懊悩・怫鬱の証である」と診断し、まず梔子豉湯1剤(山梔子9g、淡豆豉9g)を投与したところ、病勢が10分の2〜3に激減した。その後、大柴胡湯を処方して硬い大便(燥屎)を下したところ、怫鬱が完全に除かれて安らかに眠れるようになり、数日の調理で全快した。

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