『傷寒論』や『金匱要略』に記された「経方」は、現代のメニエール病(内耳性眩暈)に対しても非常に高い臨床効果を発揮する。『経方化裁』から、めまいの治療の方剤を抽出し、病態に応じた加減法について解説する。
1. 沢瀉湯(たくしゃとう):水飲によるめまいの基本方
沢瀉湯は、脾を健やかにして体内の余分な水分(水飲)を除去する基本処方である。動くと悪化するめまい、吐き気、白い舌苔などが目安となる。
- 肝脾の風痰が原因の場合(舌が白く潤う、脈が波打つ):
半夏、天麻、釣藤を加える。胃の気を降ろして痰を除き、肝を和らげて風を鎮める。 - 熱を伴う場合(舌が赤く、乾燥傾向):
黄連、黄芩を加え、痰の熱を冷まして解消する。 - 肝風を伴うメニエール病:
石決明、真珠母、白菊花、白蒺藜を加える。上逆した肝の陽気を抑え、内風を平定する。 - 激しい吐き気がある場合:
温胆湯を合方するか、代赭石、旋覆花、生姜半夏を加える。これらは胃の逆気を強力に降ろす働きがある。 - ひどい耳鳴りを伴う場合:
霊磁石、紫貝歯を加える。重鎮安神(重い性質の生薬で精神を鎮める)の作用により、耳鳴りを抑える。 - 重症のケース:
沢瀉を50〜70g、白朮を20〜30gと用量を極めて大きくし、少量を頻回に服用する。利水作用を最大化させ、停滞した水飲を一気に処理するためである。
2. 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう):気逆と水毒を抑える
みぞおちの張りや動悸、気が胸に突き上げる感覚、体が揺れるようなめまいに用いる。中焦(胃腸)を温めて逆気を降ろすのが特徴である。
- 脾胃のエネルギー不足(気虚)を伴う場合:
党参を加え、水分を運搬・処理する力を補う。 - 内熱(相火)が上昇する場合:
白芍を加え、陰を養いつつ燃え上がる火を抑え込む。 - メニエール病における応用:
- めまいが激しい: 生龍骨、生牡蛎を加え、浮き上がった陽気を重石のように抑える。
- 吐き気が強い: 旋覆花、代赭石、炒枳殻を加え、胃の働きを正常な方向(下)へ戻す。
- 耳鳴り・難聴がある: 石菖蒲を加え、耳の通り(竅)を改善する。
- 高血圧を伴う: 懐牛膝、地竜を加え、気血を下へ導き経絡を疎通させる。
- 低血圧を伴うめまい:
真武湯を合方するか、法半夏、茶葉、生姜を加える。陽気を温め、水飲を化すことで諸症状を改善する。
3. 真武湯(しんぶとう):陽気不足による重症のめまい
極度の疲労、むくみ、冷え、小便の出にくさを伴う「脾腎陽虚」のめまいに適応する。
- メニエール病の基本加減:
釣藤、真珠母、代赭石、磁珠丸、遠志、菊花などを加える。脾腎の陽を温めて水を巡らせる一方で、重鎮安神・平肝熄風の生薬を組み合わせることで、荒ぶる肝陽を強力に鎮める。 - 湿気や痰の濁りが強い場合:
補益薬である党参を抜き、姜半夏、陳皮を加える。これにより湿の停滞を防ぎ、痰を化して気の巡りをスムーズにする。 - 嘔吐が激しい場合:
姜竹茹を加える。胃の逆気を降ろし、熱を清めて嘔吐を鎮める効果がある。
このように、同じ「めまい」であっても、原因が「水」にあるのか「風」にあるのか、あるいは「熱」や「冷え」を伴うのかによって、加減していく。


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