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経方方証縦横に学ぶ梔子柏皮湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

経方方証縦横に学ぶ梔子柏皮湯(ししはくひとう)の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案をまとめる。

 

本方は、山梔子、黄柏、炙甘草の三味からなる極めて精緻な処方であり、清熱利湿退黄の代表方剤である。

 

1. 証の要点(弁証要点)

  • 基本病機: 湿熱が三焦に鬱滞し、熱が湿よりも重い(湿熱鬱滞三焦、熱重於湿)ことによって、肝胆の疏泄(気の巡り)が失調し、胆汁が外に溢れることで生じる黄疸を治療する。

 

  • 臨床での使用目標: 以下の症状を決定的な要点とする。
    • 身目倶黄(白目全身が鮮やかなオレンジ・橘子色に染まる黄疸)
    • 小便短少、色如濃茶様(おしっこの量が少なく、濃いお茶のような色になる)
    • 身熱(熱っぽさ)、口渇(のどの渇き)、心煩(もやもやした焦燥感)
    • 舌苔黄、脈数(脈が速い)

他方との鑑別:

 

  • 茵陳蒿湯との鑑別: 茵陳蒿湯は「湿熱並重(湿と熱がどちらも極めて重い)」で、みぞおちのつかえ(脘痞)や、激しい吐き気(嘔悪)、苔黄膩(ねっとりした黄苔)が顕著である。それに対し、梔子柏皮湯は「熱重於湿(熱の勢いが湿より明らかに勝っている)」ときに適している。
  • 麻黄連翹赤小豆湯との鑑別: 麻黄連翹赤小豆湯は「湿熱に表邪(体表の邪気)を伴う証」に適しており、身体の黄疸に加えて、発熱、悪寒、無汗、全身の皮膚の痒みなどを伴う。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』第261条に記載されている以下の条文が主治となる。

 

『傷寒論』第261条:「傷寒、身黄、発熱する者は、梔子柏皮湯がこれを主る」

 

(※傷寒の経過中に全身が黄色くなり、発熱している熱重の黄疸に対して、本方が主治することを説いている。)

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、苦寒の薬で熱と湿を除きつつ、甘草で中焦(脾胃)を守るという絶妙な構成の妙味について以下のように解説している。

 

  • 許宏(『金鏡内台方議』): 身黄と発熱は、表裏に熱がありながらその熱がうまく外に発散(宣散)されていない状態であり、発汗させてはならない。苦寒の「梔子」を君薬として相火を瀉し胃熱を去って小便を利し、「黄柏」を臣薬として鬱滞した熱を除く。そして苦寒の薬が中焦を傷めないよう「甘草」を佐使薬として胃腸を和らげ、経中の熱を和らげて瀉す。

 

  • 舒馳遠(『傷寒論集注』): 「梔子」の苦寒な性質によって、滞っている湿熱を「屈曲下行(複雑に絡み合った湿熱を引き下げる)」させて小便から排泄させるため君薬とする。また、腎に働きかけて水の巡りの源(化源)を養い、除湿清熱する「黄柏」を臣薬とし、中を調和する「甘草」を佐使とする。

 

  • 銭潢(『傷寒溯源集』): 「黄柏」は五臓や胃腸に結ぼれた熱による黄疸を治し、膀胱の相火(熱邪)を瀉す役割を果たす。ただし、これらの苦寒の薬が胃腸を傷つけるのを防ぐため、甘温の「甘草」を配して脾胃を保護する点に調剤の深い妙味があると述べている。
  • 李中梓(『傷寒括要』): 湿熱による身黄を解消するには「膀胱(尿路)を清める」ことに勝る道はない。「黄柏」を少陰(腎・膀胱)へ直入させてその源をクリアにし、「梔子」で金水(肺・腎)を導いて下へ引き下げる。さらに「甘草」が中宮に入って昇降を調和させ、清濁を分別することで、黄疸の巣窟を直接クリアにする構成であると評している。
  • 柯琴(『傷寒附翼』): 傷寒によって皮膚が黄色くなるのは、寒邪は解けたものの熱邪が体外に逃げ道を得られず皮膚に鬱滞しているためであり、表裏の熱を両解する必要がある。「梔子」で内煩(胸のもやもや)を除き、「黄柏」で外熱(皮膚の熱)を散らし、「甘草」で調和させる。本方は、茵陳蒿湯に比べて作用が穏やかな「軽剤」である。

 

  • 王子接(『絳雪園古方選注』): 梔子と黄柏は、寒をもって熱に勝ち、苦をもって湿を乾燥させる、まさに黄疸治療の要を得た組み合わせである。ここに「甘草」を配して中焦の脾土を安定(奠安)させることで、湿邪と熱邪が再び合わさってこじれるのを防ぎ、黄疸を根本から消失させる。発熱を伴う場合は邪が外へ向かう勢いがあるため、無理な発汗や瀉下(下す)は不要であり、ただ中焦を調和させれば治ると論じている。

 

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、急性黄疸性肝炎で茵陳蒿湯が無効だったケースや、肝硬変に伴う重度の黄疸などに対し、脾胃を守りながら安全に黄疸を退かせた臨床例が残されている。

 

  • 葉天士の医案(湿熱の鬱蒸による黄疸・嘔気):
  • 脈が沈、湿熱が里(体内)にこもって鬱蒸し、黄疸が生じ、みぞおちが詰まって吐き気(中痞悪心)を覚え、大便が詰まり尿が赤いという、三焦(全身)に及ぶ病態の患者。苦辛寒の法を用い、山梔子、黄柏に、杏仁、生石膏、法半夏、生姜汁、枳実を合わせた加味方を投与し、劇的に完治させた。

 

  • 劉渡舟の医案(黄疸性肝炎で茵陳蒿湯が無効だった10歳児の完治例):
  • 10歳の男児。黄疸性肝炎を患い、長期間治療しても血清ビリルビン値が非常に高いままであった。前医が茵陳蒿湯を何度も投与し、入院中も茵陳や大黄の注射液を多用したが、黄疸は一向に退かなかった。
  • 診察すると、皮膚や目が黄色く、イライラし(心煩)、大便が緩く(便溏)、両足の裏が熱くなって寝る時に布団から足を出す(五心煩熱・足熱)、舌苔は黄色という状態であった。
  • 劉渡舟は、「激しい湿熱発黄に対して苦寒の下剤(大黄や茵陳)を多用したことで、正気が消耗されて脾胃が傷ついて下痢(便溏)になり、一方で陰分に依然として熱が伏在している(足熱・五心煩熱など)」と分析した。この段階では大黄で下してはならず、中焦を守る必要がある。そこで梔子柏皮湯(生山梔、黄柏、甘草)を数剤処方したところ、消耗した脾胃を傷つけることなく速やかに黄疸が退き、諸症状が完全に治癒した。劉渡舟は「一部の医家は甘草を茵陳に替えるべきだと言うが、本方の真骨頂はまさに『甘草』を配して虚した正気を守る点にある」と、仲景の制方の素晴らしさを強調している。

 

  • 『傷寒論臨床実験録』の医案(早期肝硬変に伴う重度の黄疸・潮熱):
  • 42歳の男性。早期肝硬変を患い、白目と皮膚が黄色く染まり、午後になると決まって軽い熱(潮熱)が出て、胃のあたりが張り(胃脘満)、尿が出にくくなっていた。血清ビリルビン値は32 mg/dlと極めて高く、脈は弦数、舌苔は黄膩であった。
  • これを「肝中の鬱熱による発黄」と弁証し、梔子柏皮湯に、疎肝和胃・利湿・活血のために茵陳蒿と桃仁を加えた処方(生梔子10g、黄柏10g、甘草3g、茵陳蒿15g、桃仁15g)を投与した。服用後、わずか3剤で午後の潮熱がピタリと止まり、尿量が増えて黄疸が引き始めた。その後、計16剤を服用した段階でビリルビン値は3 mg/dl以下にまで劇的に低下し、白目や皮膚、舌苔の黄色もすっかり消失して、健脾和胃の薬で体力を回復させて全快した。

 

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