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勝手に第二版「輔行訣を経方医学で読む」

漢方医学

 以前、私は『輔行訣』の方剤を経方医学の視点から解説するブログ記事を執筆した。不十分な点もあったが、経方図をすべて添付し、また、残念ながら解釈しきれなかった配薬についても記録した。

 あれから時が経ち、私自身も少し成長できたように感じている。そこで、改めてこの書をまとめ直そうと考えた。いわゆる「リライト」である。

 さて、前回ブログを執筆した際、私は五味理論を、単に道教の陶弘景が勝手に割り当てたものだと断じ、無視するべきだと書いた。何故なら陶云として、陶弘景の言葉として五味理論を湯液経の方剤に結び付けて記述されているのである。

例えば、最初の辨肝脏病证文并方では、

肝虚则恐,实则怒。

肝病者,必两胁下痛,痛引少腹。虚则䀮无所见,耳无所闻,心澹澹然如人将捕之。气逆则耳聋,颊肿。治之取厥阴、少阳血者。

邪在肝,则两胁中痛,寒中;恶血在内,则胻善瘛,节时肿。取之行间以引胁下,补三里以温胃中,取耳间青脉,以去其瘛。

と、解釈すれば読み下せるような内容である。ところが、ここで余計なお世話な解説を陶弘景が入れる。

陶云:肝德在散。故经云:以辛补之,以酸泻之。肝苦急,急食甘以缓之,适其性而衰之也。

それって、あなたの意見ですよね?と言いたくなる。

 軽く考えていたら、深く調べていくうちに、なんとこの五味理論が、『輔行訣』の真偽をめぐる論争の大きな原因となっていることも知った。

 放っておけば良いのに。いや、そうではない。輔行訣そのものに古典の価値を見いだそうとすればやむを得ない。陶弘景の五味理論が正当かどうかは確かに白黒つけるべきなんだろう。笑ってはいけない。勿論歴史的な検証や、偽書かどうかの議論は、非常に興味深いものだ。以下に論点真書の根拠、偽書の根拠を表にして挙げる。

論点 真書説の根拠 偽書説の根拠
文献の様式 敦煌蔵経洞で発見された、唐代以前の古い写本である。 後世の個人的な補訂や加筆が疑われる。
処方体系 失伝した『湯液経法』の一部を伝え、『傷寒論』の源流を明らかにした。 『傷寒論』を引用しており、陶弘景の時代より後の創作の可能性がある。
五味理論 『内経』とは異なる、古い医学思想を反映している。 内部矛盾があり、不完全な理解や編集が疑われる。

 

 もちろん、こうした学術的な議論は重要である(棒)。しかし、一通り『輔行訣』の全方剤を経方医学で読み解いた私にとっては、こんな真偽はもはや些細なことでしかない。

 たとえ仮に陶弘景の五味理論が正統なものであったとしても、その理論で臨床の場で適切に配薬するこなんかできるわけない。私にとって大切なのは、臨床医として『輔行訣』を読み解き、伊尹の湯液経を覗き見る。そうして目の前の患者さんに役立てることである。

 幸い、経方医学の視点から解釈することで、この書は臨床現場で大いに活用できるものとなる。たとえ『傷寒論』から逆輸入された内容であったとしても、経方理論で読み解けば、臨床の場で得る情報の価値が揺らぐことはない。

 ああ、そういえば秘匿された家伝として、もし非学術的な補訂が方剤の配薬にまで及んでいるとしたら、それは仕方ないことかもしれない。しかし、全ての方剤が根本的に間違っているわけではないと、そこは信じたい。

 今回もまた、悩みながら、少しずつ、そして何より楽しく進めていきたい。

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