毎日午前7時にブログ更新

外気浴は日本発祥か?その起源と歴史を学ぶ

サウナ

「サウナ→水風呂→外気浴」。この黄金リレーの存在を、多くのサウナ好きはご存知であろう。しかし恥ずかしながら、筆者はその起源を全く知らなかった。

ただただサウナを愛し、その恩恵に浴する日々。しかしある時、ふと気づいたのである。

「この愛するサウナの『外気浴』という習慣は、一体どこから来たのだろうか?」

サウナ好きを公言するのに、そのルーツを知らない。これは、愛するものの”ご機嫌”を伺うように、その”起源”を知りたくなったのである。この素朴な好奇心が、壮大な探求の始まりであった。しかし、この問いに対する答えは、単にネット検索を繰り返すだけでは見つけられなかった。本稿で詳述する内容は、GeminiのDeep Research機能によって初めて系統的に明らかにされた調査結果に基づくものである。

筆者の探求心に火をつけたのは、ある海外の研究論文(1)である。それはサウナの健康効果に関する論文で、サウナの入り方として「サウナ室に短時間滞在し、その後クールダウン期間(水泳、シャワー、または常温の部屋での休憩)」と書かれていた。

外気浴がない…! しかもクールダウンは常温の部屋での休憩でもいいとは。

筆者の愛する「サウナ→水風呂→外気浴」の儀式が決して絶対的なものではないと知ってはいても、この記述は衝撃であった。この小さな違和感から、「外気浴」のルーツを探る長い旅が本格的に始まったのである。

ルーツは北欧にあり:フィンランドの「名もなき冷却」

 

外気浴の源流をたどると、やはりサウナの母国フィンランドに行き着く。しかし、そこにあったのは、私たちが知る「外気浴」とは少し違う、もっとおおらかで自然な習慣であった。

フィンランドでは、理想的なサウナは湖や海のほとりに建てられる 。サウナで火照った体を、すぐそばの湖に飛び込んで冷やすのが伝統的なスタイルである 。冬になれば、凍った湖に穴を開けて入る「アヴァント」や、新雪に体をうずめることもある 。

もちろん、いつも水辺にあるわけではない。そんな時は、サウナから出てポーチのベンチに座り、ただ新鮮な空気に当たることもある 。これこそが日本の「外気浴」に最も近い形であるが、決定的な違いがあった。

フィンランドの伝統において、冷却は「サウナ↔冷却」という

循環的で直感的なサイクルの一部であり、特定の名前で呼ばれる独立したステップではなかったのである 。それは、その時の気分や環境に応じて行う、自然との対話のような行為であった 。そもそもフィンランドのサウナは、何かを達成する「doing」ではなく、ただその場に身を委ねる「being」の精神に基づいている 。

特定の名前も、決められた手順もない。 これが、フィンランドにおける冷却の原型であった。

日本の革新:「外気浴」の誕生と「サ道」の確立 🇯🇵

 

では、フィンランドにはなかった「外気浴」という名のステップは、なぜ日本で生まれたのであろうか。その背景には、日本独自のサウナ文化の進化があった。

 

1. 高温ドライサウナという土壌

 

日本にサウナが本格的に広まったのは、1964年の東京オリンピックがきっかけであった 。しかし、当時広まったのは、フィンランドのじっくり蒸される湿式サウナとは異なる、**100℃を超える高温・低湿度の「ドライサウナ」**が主流となった 。ロウリュも、火傷などの事故が多発したことから多くの施設で禁止または省略された 。

この肌を刺すような強烈な熱は、フィンランドの穏やかなサウナよりも身体に大きな負荷をかける 。この生理学的な「衝撃」を効果的に緩和するためには、単なる休息以上の、より構造化された強力な冷却プロセス、すなわち**「水風呂」とそれに続く「特別な休憩」が必然的に求められた**のである 。

 

2. 『サ道』による儀式の完成

 

そして、この流れを決定づけたのが、マンガ家タナカカツキ氏の著作**『サ道』**である。

2016年に連載が始まり、2019年にドラマ化されると第三次サウナブームが巻き起こった 。『サ道』の最大の功績は、それまで個々人が漠然と行っていた行為に**「サウナ→水風呂→外気浴」という明確な型を与えた**ことにある 。

これまで単なる「休憩」だった行為に「外気浴」という名前が与えられ、サウナの至高の快感である「ととのう」ために不可欠な、儀式のクライマックスとして位置づけられたのである 。

「外気浴」という言葉と概念が広く定着したのは、まさにこの

2010年代後半から2019年頃のことであった 。

なぜ必要か:「ととのう」を生み出す魔法の時間 ✨

 

日本のサウナ儀式において、「外気浴」はなぜこれほど重要なのであろうか。その答えは、キーワード「ととのう」の生理学的なメカニズムに隠されている。


  1. 自律神経の強制リセット:サウナ(温)と水風呂(冷)の極端な刺激は、交感神経と副交感神経を強制的に揺さぶる。水風呂では生命の危機を察知し交感神経が最大レベルで活性化するが、外気浴で休息すると、今度は揺り戻しとして副交感神経が優位な状態へと急激にシフトする 。

  2. 脳内ホルモンの魔法:水風呂のストレスで放出されたアドレナリンなどの興奮物質は、すぐにはなくならない 。

  3. 奇跡の同居状態:外気浴中、体は深くリラックスしている(副交感神経優位)のに、脳は興奮の名残で覚醒している(アドレナリンが残留)という、極めて稀有な状態が生まれる 。

この「鎮静」と「覚醒」が同居する矛盾した状態こそが、「頭は冴えわたり、体は羽のように軽い」と表現される「ととのう」感覚の正体である 。

そして驚くべきことに、サウナの本場フィンランドには「ととのう」に直接対応する単語が存在しない 。特定のピーク体験に名前を付けたこと自体が、日本のサウナ文化が「ととのう」という目標を達成するために設計された、

結果指向の儀式であることを物語っている 。

結論:外気浴は、日本の文化が生んだイノベーションである

 

長年の謎を追った旅は、ついに終着点を迎えた。

  • いつから?
  • 「外気浴」という言葉と概念が確立・普及したのは
    2010年代後半からである 。
  • どこで?
  • フィンランドの伝統に源流を持ちつつも、現在私たちが実践する形式化された「外気浴」は、
    日本で生まれた文化的イノベーションである 。
  • なぜ?
  • 高温ドライサウナという日本独自の環境を土壌に 、『サ道』が**「ととのう」という明確な目的を持つ儀式**として体系化したことで確立された 。

「外気浴」は、フィンランドの伝統への敬意を内包しつつ、日本人の持つ「型」を重んじる精神性と、「ととのう」という特別な感覚を追求する探究心が生み出した、紛れもない

日本の創造物だったのである 。

この事実を知ると、いつもの外気浴が、先人たちの知恵と探求の結晶のように、より一層愛おしく感じられるのではないだろうか。

タナカカツキ氏の原著『サ道』を読みたくなった。

引用

(1) Laukkanen, J. A., Laukkanen, T., & Kunutsor, S. K. (2018). Cardiovascular and Other Health Benefits of Sauna Bathing: A Review of the Evidence. Mayo Clinic Proceedings, 93(8), 1111-1121.



コメント

タイトルとURLをコピーしました