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経方方証縦横に学ぶ炙甘草湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

経方方証縦横の炙甘草湯について、「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

方剤組成・煎じ方と服法・治則方解

  • 生薬構成:甘草(炙) 四両(12g)、生姜(切) 三両(9g)、人参 二両(6g)、生地黄 一斤(48g)、桂枝(去皮) 三両(9g)、阿膠 二両(6g)、麦門冬(去心) 半斤(24g)、麻仁 四両(12g)、大棗(擘) 三十枚。

 

  • 煎じ方・服法:清酒7升と水8升を合わせ、まず阿膠を除く8味を煎じて3升を取り、去滓した後に阿膠を入れて熱でしっかり溶かし込み(烊消)、1日3回、1升ずつ温服する。別名を「復脈湯」と呼ぶ。

 

  • 治則と方解:

  • 治則:「滋陰養血、温陽益気」。

 

  • 配合の力学:生地黄・阿膠・麦門冬・麻仁の重用により滋潤補血を図り、辛温の桂枝・生姜に乗せて奉心化赤(心に届けて血に化す)させる。炙甘草・大棗・人参・生姜で脾土を補い血の生化の源を養う。

 

  • 清酒の工夫:清酒(黄酒や米酒)とともに久煎することで百脈をスムーズに通暢させ、薬力を速やかに引き出す。

 

1. 弁証要点(証の要点)

  • 基本病機: 心の気血がともに不足し、陰陽両虚(陰液も陽気もともに虚損)となった病態(心陰陽両虚、気血不足)を治療する。

 

  • 決定的な審証目標:

  • 「脈結代」(脈が不規則に跳ぶ、結代脈・不整脈)。

 

  • 「心動悸」(胸がドキドキと激しく動悸する、胸悶・不安感)。

 

  • 臨床運用とポイント:

  • 心臓疾患(不整脈・心不全等)だけでなく、虚労、肺痿、眼科疾患(神光自現)など、気血不足・陰陽両虚の病機に合致すれば幅広く応用される。

 

  • 主薬である炙甘草の用量は大きく(18g以上)設定し、大剤で用いる際はむくみや腹満を防ぐために茯苓などを適宜配伍する。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』第177条において、本方の核心となる適応が示されている。

 

  • 『傷寒論』第177条:「傷寒脈結代、心動悸、炙甘草湯主之。」

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、潤燥生薬の多用と辛温生薬・清酒による昇達・通脈のメカニズムを以下のように解釈している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』):「補可去弱」に基づく。人参・甘草・大棗の甘味で気の不足を補い、桂枝・生姜の辛味で正気を益し、麻仁・阿膠・麦冬・地黄の甘潤で経脈を潤して血を益し、脈を復させて心を通じさせると説明している。

 

  • 方有執(『傷寒論条辨』):脈結代・心動悸は「虚多実少」の病態である。人参・甘草・麦冬で虚を益して結代の脈を復させ、地黄・阿膠・麻仁で生血して動悸を鎮め、桂枝で営衛を和らげ、清酒で血気を助ける名方と論じている。

 

  • 柯韻伯(『傷寒附翼』):厥陰傷寒で相火が内鬱し心血が生じず脈結代・心動悸を呈する。生地黄(君)・麦門冬(臣)・炙甘草(佐)などの大甘寒多液の品で大剤をもって真陰を峻補する。甘草を名に冠するのは薬を心に載せて離中(心)の虚を補うためであり、人参・桂枝で通脈し、清酒で薬力を上行させると絶賛している。

 

  • 王子接(『降雪園古方選注』):本方は仲景が心悸を治し、王燾が肺痿を治し、孫思邈が虚労を治した。母(脾土・肝木)を補うことで心肺を滋養する。重用の生地・麦冬を炙甘草の気厚さと桂枝の軽揚さで上承させ、清酒で血に入り心へ導く理を説いている。

 

  • 陳修園(『長沙方歌括』):柔潤の生薬群で養陰し、桂・姜の辛で陽気を行らせ、炙甘草で胃気を持して脈の本原を資し、清酒で脈道を速やかに走らせるのだと解説している。

 

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、前医の誤治で失量寸前となった傷寒後の脈結代・心動悸から、長年の難治性不整脈・気喘、さらには眼科の奇病まで、見事な効果を上げている。

 

  • 『衛生宝鑑』の医案(下剤と寒涼の梨の過用で脾胃を失調した傷寒後の脈結代・心動悸・四肢冷の救治例):傷寒8〜9日目、前医が寒涼薬で下し、さらに梨を食べさせたため脾胃を傷つけ、手足が冷え、心動悸・えづき(嘔逆)・脈動して中止(脈結代)を呈した。生地黄を減らさず(陽気を損なうと危ぶむ声を退け)、気味の濃い生薬で炙甘草湯を再煎して服させたところ、わずか数服で諸症状が綺麗に全快した。

 

  • 曹穎甫の医案(弁護士の10余至〜20至で一停する脈結代・心跳躍不寧の完治例):姚氏という弁護士。飲食や睡眠は正常なものの、脈を診ると10余至あるいは20〜30至ごとに一停する脈結代を呈し、心が跳躍して落ち着かない状態であった。炙甘草湯原方を投薬したところ、10余剤の服用で見事に完治した。

 

  • 張鳳郊の医案(1年続く気喘・夜不得臥・干咳・口干・心悸胸悶・脈沈遅結代の全快例):50歳男性。1年前から気喘が激化して夜間横になって眠れず、干咳・口干・心悸胸悶・脈沈遅結代・舌淡苔白質偏紅を呈していた。「痰飲が内伏して心陽不足・陰血虧損を起こした病態」と診断し、炙甘草湯加減(党参・生地・麦冬・阿膠に丹参・白芍・細辛・五味子・干姜・半夏・茯苓を加味)を投与したところ、数剤で気喘が減退し、1ヶ月の調理で不整脈(脈結代)も消退して完全に全快した。

 

  • 姚芳蔚の医案(陰精虧損・虚陽上潜による神光自現・目の中に赤白の光が飛舞する奇病の治癒例):57歳女性。右目失明後、左目も雲霧がかかったように昏蒙し、目の中に白光が電閃し紅光がヤンモモのように飛舞・視物眩惑し、頭目眩暈・眼痛・心煩不安・脈沈細・舌光绛を呈していた。「陰精虧損・虚陽上潜・心神不寧」と見抜き、炙甘草湯に龍骨・牡蠣を加えた処方を与えたところ、数服で赤白の飛光が消退して頭痛・心煩が落ち着き、見事に回復した。

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