『経方方証縦横』の芍薬甘草附子湯について、「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

方剤組成と服用方法
- 生薬構成:芍薬 三両(9g)、甘草(炙) 三両(9g)、附子(炮、去皮、破八片) 一両(3g)。
- 服用方法:上の3生薬を水五升で煮て一升五合を取り、滓を取り除いて三回に分けて温服(五合)する。
- 弁証要点(証の要点)
- 基本病機と治則:
- 病機:誤って発汗させた後などに、陰液と陽気の両方が損傷した病態(誤汗後陰陽両虚)。
- 治則:「扶陽益陰(ふようえきいん)」(陽気を扶け、陰液を補益する。陰陽双補)。
- 配合の意義(酸甘化陰+辛甘化陽=扶陽益陰):
- 芍薬・甘草:芍薬と甘草(各三両)の配伍は「酸甘化陰」として陰虚不足の諸痛を和らげ、引きつれを縮める(舒攣緩急)。
- 附子・甘草:附子と甘草の配伍は「辛甘化陽」として温経壮陽に働き、心陽を鼓舞して血行を促進し、優れた止痛効果を発揮する。
- 陰陽双補の妙:3味が合わさることで「扶陽益陰」の妙を奏し、陰液と陽気の双補を実現する。
- 決定的な審証目標:
- 陰陽両虚の病機を備えた各種疼痛・冷え症。
- 主要症状:腹痛、腿脚の引きつれ痛(腿脚拘攣痛)、骨節疼痛、足の冷え(足冷)、悪寒、脈沈微など。
- 四逆湯との明確な鑑別(陳修園による対比):
-
- 四逆湯:「気中の陽(気分の陽気)」が亡脱し、悪寒とともに手足の激しい冷え(厥逆)を伴う場合に適する。
- 芍薬甘草附子湯:「血中の陽(血分の陽気)」が亡脱し、厥逆(手足の冷え切った倒れ)には至らず、悪寒や身体・脚の引きつれ痛を呈する場合に適する。
- 仲景方論
張仲景の『傷寒論』第68条に、発汗後に陰陽両虚となって悪寒を起こす本方の適応が明記されている。
- 『傷寒論』第68条:「発汗、病不解、反悪寒者、虚故也。芍薬甘草附子湯主之。」
- (※発汗させたのに病が解けず、かえって悪寒がする者は、陰陽が虚したためである。芍薬甘草附子湯がこれを主治する。)
- 注家方論(歴代注釈家による考察)
歴代の医家たちは、誤汗による陽亡・陰傷に対し、芍薬で内を安んじ熟附で外を固め、甘草で両者を調和させる本方の薬理を以下のように解釈している。
- 成無己(『注解傷寒論』): 芍薬の酸味で津液を収斂して営血を益し、附子の辛温で陽気を固めて衛気を補い、甘草の甘味で辛酸を調和させて正気を安んじると説明している。
- 方有執(『傷寒論条辨』): 営は陰であり陰気が衰微するため芍薬の酸で収め、衛は陽であり陽気が疎慢(荒い)なため附子の辛で固める。甘草の甘平で営衛を調和・合一させる国老(甘草)の技であると論じている。
- 王子接(『絳雪園古方選注』): 本方は太陽と少陰の処方である。太陽の亡陽は本を正せば少陰が内に守らないことにあり、少陰の表悪寒は太陽が外を護らないことにある。芍薬で内を安んじ、熟附で外を排し、甘草の甘緩で中から両者を和らげて真陽を収斂・抑留させることで、附子が散失した陽を招き寄せ、芍薬が浮越した陰を収めるのだと絶賛している。
- 陳修園(『傷寒真方歌括』): 発汗後も表証があれば再汗すべきだが、発汗後にかえって悪寒するのは汗によって陽気が脱けたためである。「気中の陽」が亡脱して悪寒・厥逆を起こすものは四逆湯で救い、「血中の陽」が亡脱して寒(厥せず)を起こすものは本方で救うという分界線を明確に示している。
- 医案選録(名医の臨床カルテ)
本方は、前医の大量の温補人参薬が無効だった8年来の激しい腹痛・冷え・悪寒に対し、陰陽双補の力で一発逆転の奇跡的効果を上げている。
- 成友仁の医案(8年間続く激しい腹痛・冷汗・悪寒発作・大量の人参連用無効例に対する救治例): 西北監委会のとある幹部。8年余りにわたり、激しい腹痛の引きつれ(腹痛拘急)、全身の冷や汗、震えあがるほどの酷い悪寒(悪寒起栗)に苦しめられていた。 前医たちに半年以上治療され、人参・鹿茸・四君子湯などを与えられ、人参一味だけでも1斤(約500g)以上服用したものの全く効果がなかった。 成友仁が診察すると、脈は細渋、舌苔は白膩を呈していた。 成友仁は『傷寒論』の「発汗、病不解、反悪寒者、虚故也」の条文に完全に合致する陰陽両虚の病態であると看破し、芍薬甘草附子湯を与えた。 服薬後、間もなくお腹がゴゴゴと鳴り(腹中雷鳴)、黒い水様便を下し、激しく煩躁を起こした後、ひとしきり冷や汗をかいて諸症状が綺麗に消失した。その後さらに2剤を服用させて8年来の難病が完治した。



コメント