毎日午前7時にブログ更新

経方方証縦横に学ぶ附子湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

『経方方証縦横』の附子湯について、「弁証要点」「仲景方論」「注家方論」「医案」をまとめる。

 

方剤組成と服用方法

  • 生薬構成: 附子 炮(二枚=10g)、茯苓 三両(9g)、人参 二両(6g)、白術 四両(12g)、芍薬 三両(9g)。

 

  • 服用方法: 水八升で煮て三升を取り、滓を取り除いて三回に分けて温服(一升)する。

 

1. 弁証要点(証の要点)

基本病機と治則:

脾腎の陽気が虚衰(里陽不振)し、体内に陰寒・寒湿の気が深く浸責した病態(里陽不振、陰寒外盛、水寒浸責)を治療する。治則は「温暖腎陽、駆逐寒湿」(腎陽を温め、寒湿を駆逐・散下する)である。

 

配合の意義(重用と大温大補):

 

  • 炮附子(二枚重用): 大辛大熱の性質で経絡を温めて陽気を強力に扶け、骨節の寒湿を散じて痛みを止める。

 

  • 人参・白術(四両重用): 人参は大補元気、白術は健脾燥湿・益気に働き、附子を助けて寒湿を力強く駆散する。

 

  • 茯苓: 淡滲利水・健脾に働き、寒湿の邪を排泄へ導く。

 

  • 芍薬: 和営血・通血痹に働き、附子の剛燥(熱すぎる性質)を制して「温陽益陰」の調和を保つ。

 

決定的な審証(臨床での使用目標):

 

  • 身体痛・骨節痛(身体や四肢の骨節が重く痛む)。

 

  • 手足寒・肢冷(四肢・手足が冷え切る)。

 

  • 背悪寒(背中が氷のようにぞくぞく冷える。ただし口中和で口渇なし)。

 

  • 脈沈・脈沈微。

 

他方との明快な鑑別:

 

  • 真武湯との鑑別: 生薬の大部分(附子・白術・茯苓・芍薬)が共通するが、真武湯は「生姜」を用いて水気を宣散・利水(動悸・めまい等)するのに対し、附子湯は生姜を除いて「人参」を配し、附子(二枚)と白術(四両)の量を倍加させている。附子湯は寒湿が肌肉・骨節に停滞する身体痛や著しい冷えに対し、純粋な「大温大補・温経鎮痛」として働く。

 

  • 甘草附子湯との鑑別: 甘草附子湯は風邪が勝る表裏両虚の風寒湿痹を治すのに対し、附子湯は裏陽の虚衰・陽気大虚を主体とする。

 

  • 白虎加人参湯との鑑別(「背悪寒」の鑑別): 白虎加人参湯の背悪寒は熱邪内盛(高熱・大渇引飲・脈洪大など)による「熱極似寒(実熱)」であるが、附子湯の背悪寒は無熱(口中和・脈沈微)で純粋な「陽虚失温(純虚)」である。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』少陰病篇第304条および第305条に本方の主治が規定されている。

 

『傷寒論』第304条: 「少陰病、得之一二日、口中和、其背悪寒者、当灸之、附子湯主之。」

『傷寒論』第305条: 「少陰病、身体痛、手足寒、骨節痛、脈沈者、附子湯主之。」

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、真武湯と一味(生姜と人参)を入れ替えて倍量投与する本方の大温大補の威力を以下のように解説している。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』): 附子の辛味で寒を散じ、茯苓・人参・白術の甘味で陽を補って和緩させ、芍薬の酸味で陰気を扶ける。偏陰偏陽の病態に対し、火(陽)を実にして寒水に打ち勝たせる構成である。

 

  • 王子接(『降雪園古方選注』): 少陰の固本御邪の要剤である。附子二枚を重用して少陰の重任を担わせ、太陰の白術、厥陰の白芍、少陰の茯苓を配し、人参で元気を固めて水中真陽を強力に鼓舞する。

 

  • 張璐(『傷寒缵論』): 真武湯(生姜+附子)は水飲を走散させるのに対し、附子湯(人参+倍量の附子・白術)は純粋に温補・大補元陽の力を振るう。分両の違いによって主治が大きく異なる点を見抜いている。

 

  • 柯琴(柯韻伯・『傷寒附翼』): 大温大補の正治薬である。麻黄附子細辛湯(表有熱・温散)とは異なり、附子湯は病が内から生じて表裏ともに寒く上虚であるため、大温大補をもって少陰の元陽を救う。真武湯との違いは「姜を去って参を配し、術・附を倍加した一味の転旋の妙」にある。

 

  • 尤在涇(『傷寒貫珠集』): 人参・白術・茯苓・附子によって大いに温補・散寒し、芍薬を「向導の兵(先導役)」として附子の薬力を陰分へ滑り込ませて寒邪を破る。

 

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、風邪の誤治療による長引く身体痛・精神不振から、難治性の下肢麻痺(痿痺・小便失禁)、さらには13年間続いた夜間の激しい腕の痛みまで、劇的な効果を上げている。

 

  • 俞長栄の医案(風邪のあとの精神萎靡・微悪寒・四肢腰背痛の完治例): 30歳の男性。風邪が治まった後も精神が萎靡し、食欲不振、微悪寒、四肢や腰背部の痛みが十数日続いて改善しなかった。脈は沈細、面色は蒼白、舌は滑で苔なし。脾腎虚寒・中陽衰萎と見立てて附子湯を投与したところ、わずか1剤で症状が減退し、計3剤で完治した。

 

  • 李培生の医案(1年以上続く下肢の麻痺・立ち上がれず小便失禁を伴う重症例): 52歳の男性。1年以上下肢が麻痺して立ち上がれず(下肢緩縦不随)、小便失禁を伴い、従来の滋陰・通絡薬(四妙・虎潜等)では全く効果がなかった。脈は虚、舌は淡。附子湯に虎骨、亀板、鹿角霜、杜仲、牛膝、大活絡丹などを加減した処方を投じたところ、3ヶ月で小便失禁が治まり、1年後には自力で杖をついて歩けるまでに奇跡的な回復を遂げた。

 

  • 張長慶の医案(13年前の産後大出血以来、夜半子丑の刻に激化する腕の痛みの解消例): 39歳の女性。13年前の産後大出血以来、右腕全体が痛み、特に夜半の子丑の刻になると激痛で眠れない状態が続いていた。他医たちの滋陰養血・通絡法は全く効かなかった。身汗、手足心熱、悪心、舌体淡胖で苔白厚膩、脈沈緩無力。「腎陽虚寒により寒湿が流注経絡した痛経・身体痛」と見抜き、附子湯原方(制附子30g(先煎)、茯苓18g、党参20g、焦白術12g、赤芍12g)を投与したところ、1剤で痛みが激減し、30剤連服して13年間の持病が完治した。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました