『温病縦横』に基づき、湿熱病における「熱重於湿(熱が湿より重い)」「湿熱並重(湿と熱が同程度)」「湿重於熱(湿が熱より重い)」の3つの病態について、臓腑別・病機別に整理し、それぞれの適応方剤と配薬(構成生薬)を解説する。
1. 熱重於湿(熱が湿より重い病態)
主に熱邪が主体となり、高熱や口渇などが顕著に現れる証候である。治療においては「苦寒清熱燥湿」を基本とする。
- 【中焦:胃・脾】
- 病機: 胃熱挟有脾湿。陽明の胃熱が熾盛となり、太陰の脾湿を挟んだ状態である。高熱、汗出、激しい口渇とともに、脘部(みぞおち)の痞えや身体の重だるさが現れる。
- 適応方剤: 白虎加蒼朮湯
- 配薬: 知母、石膏、甘草、粳米、蒼朮
- 【三焦:上・中・下焦】
- 病機: 暑湿弥漫。暑熱の邪が湿を挟んで三焦全体に蔓延した状態である。身熱、顔面紅潮、大汗、口渇とともに、胸脘痞悶や悪心嘔吐、大便溏臭(泥状で悪臭のある便)などを伴う。
- 適応方剤: 三石湯
- 配薬: 飛滑石、生石膏、寒水石、杏仁、竹茹、銀花(花露)、金汁、白通草
- 【中焦〜肝胆】
- 病機: 湿熱黄疸。中焦脾胃の湿熱が不解のまま熱重於湿となり、肝胆に鬱して胆汁が溢れ、鮮明な陽黄(黄疸)を発した状態である。
- 適応方剤: 茵陳蒿湯
- 配薬: 茵陳蒿、梔子、生大黄
- 【下焦:膀胱】
- 病機: 膀胱湿熱。湿熱が下焦の膀胱に及び、熱の性質が強いため、頻尿、尿意切迫、排尿時の熱痛や血尿を引き起こす。
- 適応方剤: 八正散
- 配薬: 車前子、瞿麦、萹蓄、滑石、山梔子仁、甘草、木通、大黄
- 【下焦:胃腸(大腸)】
- 病機: 胃腸湿熱挟滞。湿熱と食滞が胃腸に内蘊し、激しい熱象とともに悪心嘔吐、腹部膨満、黄色い泥状で悪臭の強い下痢が現れる。
- 適応方剤: 枳実導滞湯
- 配薬: 小枳実、生錦紋(大黄)、山楂肉、尖檳榔、厚朴、黄連、神曲、連翹、老紫草、木通、生甘草
- 【下焦:大腸】
- 病機: 湿熱痢疾。湿熱が大腸に阻滞して痢疾(赤痢など)を発し、しぶり腹(里急後重)や膿血便を伴う状態である。
- 適応方剤: 加味白頭翁湯
- 配薬: 白頭翁、秦皮、黄連、黄柏、白芍、黄芩
2. 湿熱並重(湿と熱が同程度に重い病態)
湿郁熱蒸により、湿と熱が固く結びついて難解難分となった状態である。「燥湿」と「清熱」を同時に行うアプローチをとる。
- 【中焦:脾胃】
- 病機: 湿熱中阻。湿と熱が同程度に重く中焦に鬱阻し、脾胃の昇降が失調した状態である。身熱、心煩、胸脘痞悶、悪心嘔吐などが現れる。
- 適応方剤: 連朴飲
- 配薬: 制厚朴、黄連、石菖蒲、制半夏、香豉、焦梔、芦根
- 【中焦:心下・胃】
- 病機: 湿熱挟痰、痞阻心下。湿熱と痰濁が心下に凝聚し、口渇はあるが水を欲せず、みぞおちが痞え、嘔吐や便秘を伴う。
- 適応方剤: 半夏瀉心湯去人参干姜大棗甘草加枳実杏仁
- 配薬: 半夏、黄芩、黄連、枳実、杏仁
- 【三焦:上・中・下焦】
- 病機: 湿熱弥漫。脾胃を中心に湿熱が三焦全体に蔓延し、潮熱汗出、心煩口渇(熱の症状)と、胸脘痞悶、嘔悪便溏(湿の症状)が同時に現れる。
- 適応方剤: 杏仁滑石湯
- 配薬: 杏仁、滑石、黄芩、橘紅、黄連、鬱金、通草、厚朴、半夏
- 【中焦:脾胃】
- 病機: 湿熱膠着。湿熱が膠着し、汗が出ても熱が下がらず、渇しても多飲せず、泥状便がすっきり出ない状態である。
- 適応方剤: 黄芩滑石湯
- 配薬: 黄芩、滑石、茯苓皮、大腹皮、白豆蔻、通草、猪苓
- 【三焦:脾胃を中心】
- 病機: 湿熱穢濁、郁阻蘊蒸。湿熱と時疫の穢濁邪気が蘊蒸し、頭暈、四肢酸沈、胸悶腹脹、頻繁な吐瀉などを引き起こす。
- 適応方剤: 甘露消毒丹
- 配薬: 飛滑石、綿茵陳、淡黄芩、石菖蒲、川貝母、木通、藿香、射干、連翹、薄荷、白豆蔻
- 【骨節経絡】
- 病機: 湿熱痹痛。湿熱が骨節や経絡の間に鬱阻し、気血が停滞して関節の激しい痛みや腫れ、高熱を引き起こす。
- 適応方剤: 宣痹湯
- 配薬: 防己、杏仁、滑石、連翹、山梔、薏苡仁、半夏、晚蚕沙、赤小豆皮
3. 湿重於熱(湿が熱より重い病態)
湿濁が中心となり、脾を困阻して気機の昇降を妨げる証候である。辛温・苦温薬を用いた「燥湿・化湿」を主とする。
① 上焦の病変
- 湿邪困表: 外感した湿邪が肌表を困阻し、衛外の機能を失調させた状態である。
- 適応方剤: 藿香正気散
- 配薬: 大腹皮、白芷、紫蘇、茯苓、半夏曲、白朮、陳皮、厚朴、生姜、桔梗、藿香、甘草、(大棗)
- 寒湿困表、暑熱内蘊: 夏の暑熱を内蘊した状態で、冷えなどにより寒湿が体表を束縛した状態である。
- 適応方剤: 新加香薷飲
- 配薬: 香薷、銀花、鮮扁豆花、厚朴、連翹
- 湿熱郁阻、表裏同病: 湿熱が上焦に侵襲し、表裏上下を塞いで身熱不揚などを引き起こす。
- 適応方剤: 藿朴夏苓湯(または三仁湯)
- 配薬: 藿香、半夏、赤苓、杏仁、生薏仁、白蔻仁、猪苓、沢瀉、淡豆豉、厚朴
- 暑穢卒中(暑穢): 暑湿穢濁の気が口鼻から肺胃に卒中し、胸脘痞悶や嘔悪を引き起こす。
- 適応方剤: 雷氏芳香化濁法
- 配薬: 藿香葉、佩蘭葉、陳広皮、制半夏、大腹皮、厚朴、鮮荷葉
- 上焦湿熱吐衄(暑瘵): 湿熱が上焦に鬱して肺絡を損傷し、血が溢れて喀血や鼻血を生じる。
- 適応方剤: 清絡飲加杏仁薏仁滑石湯
- 配薬: 鮮荷葉辺、鮮銀花、西瓜翠衣、鮮扁豆花、糸瓜皮、鮮竹葉心、杏仁、滑石末、薏仁
- 湿熱醸痰、蒙蔽心包: 湿熱が鬱蒸して痰となり、意識の中枢である心包を蒙蔽して呆痴や谵語を引き起こす。
- 適応方剤: 菖蒲鬱金湯(+蘇合香丸または至宝丹)
- 配薬: 鮮石菖蒲、広鬱金、炒山梔、連翹、菊花、滑石、竹葉、丹皮、牛蒡子、竹瀝、姜汁、玉枢末
② 中焦の病変
- 湿挟食滞: 中焦の湿邪に食滞が挟まり、脾胃の昇降が失調した状態である。
- 適応方剤: 一加減正気散
- 配薬: 藿香梗、厚朴、杏仁、茯苓皮、広皮(陳皮)、神曲、麦芽、綿茵陳、大腹皮
- 湿郁表裏: 中焦の脾胃だけでなく、肌膚や経絡などの表にも湿邪が鬱阻した状態である。
- 適応方剤: 二加減正気散
- 配薬: 藿香梗、広皮(陳皮)、厚朴、茯苓皮、木防己、大豆黄巻、川通草、薏苡仁
- 湿郁醸熱: 中焦の湿が長期滞留して鬱熱を化生し始めた状態である。
- 適応方剤: 三加減正気散
- 配薬: 藿香(連梗葉)、茯苓皮、厚朴、広皮(陳皮)、杏仁、滑石
- 湿熱郁蒸、外発白㾦: 中焦の湿熱が鬱蒸し、体表に水泡状の白㾦(はくばい)を発した状態である。
- 適応方剤: 薏苡竹葉散
- 配薬: 薏苡仁、竹葉、飛滑石、白蔻仁、連翹、茯苓塊、白通草
- 湿熱動風: 湿熱が中焦に蘊蓄して筋脈や経絡を壅滞させ、痙攣や四肢のひきつり(動風)を引き起こす。
- 適応方剤: 勝湿息風方(薛氏)
- 配薬: 鮮地龍、秦艽、威霊仙、滑石、蒼耳子、糸瓜藤、海風藤、酒炒黄連
- 湿熱伏於募原(湿熱疫): 強烈な湿熱疫邪が、表裏の境界である募原に直接伏在した状態である。
- 適応方剤: 達原散(飲)
- 配薬: 檳榔、厚朴、草果仁、知母、芍薬、黄芩、甘草
③ 下焦の病変
- 湿阻膀胱: 湿重於熱の邪が下焦の膀胱を阻滞させ、気化不良により小便が通じなくなった状態である。
- 適応方剤: 茯苓皮湯(+蘇合香丸または至宝丹)
- 配薬: 茯苓皮、生薏仁、猪苓、大腹皮、白通草、淡竹葉
- 湿滞大腸: 湿重於熱の邪が下焦の大腸を阻滞させ、腑気が通じず下腹部が硬く張り、便秘を生じた状態である。
- 適応方剤: 宣清導濁湯
- 配薬: 猪苓、茯苓、寒水石、晚蚕沙、皂莢子


コメント