肩こりの治療には、葛根や葛根加朮附湯がよく用いられ、また鍼灸やマッサージも一般的である。実際、師匠も肩こりを訴える患者には葛根を配薬することが多く、修行時代には漢方単独での効果に疑問を抱くことがあった。
ところが、東北に戻ってから、例外的に**二陳湯(にちんとう)**が肩こりに奏効したケースを経験した。
二陳湯とは?
二陳湯は、小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)に陳皮(ちんぴ)と甘草(かんぞう)を加えた処方である。出典は『和剤局方』とされている。
二陳湯の基本的な作用は、体内の痰(たん)を乾かすことである。ただし、甘草が適度に潤いを補うことで、過剰に乾かしすぎることを防いでいる点が特徴的である。
二陳湯の源流:小半夏加茯苓湯
小半夏加茯苓湯は、『金匱要略』の痰飲咳嗽病脈証に記載されている処方である。
- (28条) 嘔吐する患者のうち、本来は喉が渇くはずなのに渇かない場合、心下に水が停滞しているためと考えられる。この場合、小半夏湯が適応となる。
- (30条) 急な嘔吐、心下のつかえ、みぞおちの水滞、めまいがある場合、小半夏加茯苓湯が適応となる。
- (41条) 先に口渇があり、その後に嘔吐する場合は、心下に水が滞っているためであり、小半夏加茯苓湯が適応となる。
これらの条文を踏まえると、小半夏加茯苓湯は心下(みぞおち)、胸、膈(かく)に水(痰飲)が停滞している状態を改善する処方と考えられる。
二陳湯の成分と作用
- 陳皮(ちんぴ):『経方薬論』では橘皮(きっぴ)として記載されており、行気・下気・消食・開胃・化痰の作用を持ち、主に胃や胸、心下で働く。
- 甘草(かんぞう):胃を保護し、他の薬との調和を図る。さらに、胃の陰を養い、生津作用を持つ。
二陳湯は肩こりに効くのか?
結論として、全ての肩こりに二陳湯が効くわけではない。 重要なのは、肩こりの原因が**痰飲(たんいん)**によるものであるかどうかを見極めることである。
痰飲による肩こりの特徴
- みぞおちのつかえ感がある
- 胃腸の不調を伴う
- めまいや頭重感がある
- 舌苔が厚く、湿っている
こうした症状が見られる場合、二陳湯が奏効する可能性がある。
診断のポイント
肩こりを訴える患者に対しては、腹診や脈診を行い、痰飲の有無を確認することが重要である。単に「肩がこる」という症状だけで二陳湯を使用するのではなく、全身の状態を把握する必要がある。
また、嘔吐や強い消化器症状がある場合は、二陳湯ではなく、他の処方を考えるべきである。
まとめ
二陳湯は、小半夏加茯苓湯を基礎とし、痰飲を除く処方である。肩こりに対しても、痰飲が関与している場合には有効となることがある。
ただし、全ての肩こりに適応するわけではなく、適切な診断が必要である。小半夏加茯苓湯 → 二陳湯 → さらに加減 という流れで応用することで、痰飲による様々な症状に対応できる。
肩こりの原因が痰飲かもしれないと感じたら、二陳湯加減の適応を考えてみるとよい。
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