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「血水同治」の二方剤加減の覚え書き

漢方医学

 婦人科領域のみならず「血」と「水」の病態において頻用される二大処方、桂枝茯苓丸と当帰芍薬散について掘り下げてみたい。

現代医学的に「駆瘀血剤」というカテゴリーで一括りにされがちな両処方だが、原典である『金匱要略』に立ち返れば、全く異なる「方意(処方の狙い)」を持って設計されていることが明確となる。

本稿では、経方医学的な視点から両者の決定的な違いを解説し、臨床の現場ですぐに運用できる「加減(合方・加味)」のバリエーションを整理する。

1. 経方医学で見る「方意」の決定的な違い

両者はいずれも「血」と「水」を扱う処方であるが、その治療における方向性は真逆といっても過言ではない。

① 桂枝茯苓丸:『奪うべきは(瘀)血、去るべきは水』

【原典】 『金匱要略』婦人妊娠病脈証並治 第二十

「婦人、宿(もと)癥病(ちょうびょう)有り、…桂枝茯苓丸これをつかさどる」

この処方のターゲットは「癥(ちょう)」、すなわち「形のある凝り固まった血の塊(瘀血)」である。

条文には、妊娠中に漏下(出血)があり、胎動のような塊がある場合、それは「癥」が害をなしているため、これを去るべしとある。

  • 病機: 「血不利則為水(血利ならざれば則ち水となる)」。血行障害(実質の塊)が主因となり、二次的に水の停滞を引き起こしている状態。
  • 方意(治療戦略): 「漸消(ぜんしょう)」。桃核承気湯のように下剤で一気に攻めるのではなく、本来は丸剤として穏やかに、しかし確実に「塊を砕き、水を去る」ことで血行を回復させる。桂枝・丹皮は行血、は帰血、桃仁は血の質的変化に働く。茯苓は,結果的に生じる水を捌く(経方医学5p100)
  • 本質: あくまで「実邪(邪魔なもの)」を攻めて排除する(瀉法)ための処方である。

② 当帰芍薬散:『血を養い、水を利して、痛みを止める』

【原典】 『金匱要略』婦人妊娠病脈証並治 第二十 / 婦人雑病脈証並治 第二十二

「婦人懐妊、腹中㽲痛(こうつう)するは、当帰芍薬散これをつかさどる」

「婦人、腹中諸疾痛あるは、当帰芍薬散これをつかさどる」

こちらのターゲットは「癥(塊)」ではなく、「痛(つう)」である。

原典では、妊娠中や日常の「腹痛」に対する処方として登場する。この痛みは、血が不足して筋肉が引きつり(血虚)、水が溜まって冷える(水毒・脾虚)ことで生じるものである。

  • 病機: 「血虚水滞」。栄養不足と水浸しの状態が、機能的な痛みを生んでいる状態。
  • 方意(治療戦略):

胃脾を立て直し、湿を去り、血中の水を捌くのに白求・沢潟・茯苓を用い、血の流れを改善するために、当帰・川芎・芍薬を使用する。これにより、気血の産生が可能となる(気経方医学p117)。

  • 茯苓・沢瀉・白朮で、脾を助け余分な水を血管内に引き戻して捨てる(利)。
  • 本質: 不足しているものを補い、バランスを整える「補法(養生)」を主体とした処方である。

2. 臨床で活きる「加減」と「合方」の覚え書き

上記の方意を踏まえた上で、実臨床で有用な加減(エキス製剤の併用など)を整理する。

A. 桂枝茯苓丸の加減(実証・瘀血ベース)

「塊を砕く」「滞りを通す」作用をどう強化・補完するかが鍵となる。また適応はこの限りではないが引用元がそう書いてあったので例として示す。

加減・合方 狙い・適応(例) 臨床メモ
+ 薏苡仁

(桂枝茯苓丸加薏苡仁)

【皮膚・粘膜の清熱排膿】

ニキビ、肌荒れ、イボ、シミ。

瘀血に「湿熱」が加わっている場合。

最もポピュラーな加減。

組織の間質浮腫や軽度の炎症を取り除く。

+ 大黄

(加大黄)

【強力な瀉下と浄化】

便秘傾向、のぼせが強い、瘀血が堅牢な場合。

通導散に近い意図を持つ。

「毒」を便として排出させ、骨盤内うっ血を強力に解除する。

+ 附子

(加附子)

【寒冷凝滞の解除】

冷えによる激痛、深部静脈血栓症(DVT)後の疼痛・浮腫。

「冷えて固まっている」瘀血に。

桂枝茯苓丸単独では温める力が強くないため、附子で熱エネルギーを加え、血流を強制駆動する。

+ 五苓散 【血水同治の強化】

瘀血と水毒が同レベルで存在する場合。

打撲後の腫れ、脳外科領域の慢性硬膜下血腫など。

桂枝茯苓丸の「利水」だけでは足りない全身性の水滞や、頭蓋内・組織内の水を動かす際に用いる。
+ 防已黄耆湯 【関節・下肢の実質浮腫】

変形性膝関節症で、関節液貯留(水)と夜間痛・骨変形(瘀血)がある場合。

いわゆる「水太り」傾向があるものの、静脈瘤や痛みが強く出ているタイプに。

B. 当帰芍薬散の加減(虚証・血虚水滞ベース)

「血を補う」「胃腸を守る」「温める」作用をどう補強するかが鍵となる。

加減・合方 狙い・適応(例) 臨床メモ
+ 人参

(加人参)

【気血双補・胃腸強化】

胃腸が弱く(食欲不振・軟便)、疲れが著しい場合。

脾胃(胃腸)の気を補う人参を加えることで、補血作用の底上げを行う。
+ 附子

(加附子)

【極度の冷え・鎮痛】

真夏でも寒がる、冷えると腹痛・腰痛が悪化する。

高齢者のフレイル、冷え性の極み。

当帰芍薬散は「血」の温度を保つが、熱産生(陽気)そのものは強くない。

陽気が足りない場合は附子が必須。

+ 四苓湯

(当帰芍薬散合五苓散)

【低気圧不調・目眩・浮腫】

雨の日の頭痛・めまい、立ちくらみ、顔や足の浮腫。

「血虚」ベースの「水毒」過多。

当帰芍薬散の利水力をブーストし、頭痛やめまい(水気凌心)を強力に抑える。但し当帰芍薬散の方意は桂皮のため崩れる。
+ 薏苡仁 【虚証の肌トラブル・浮腫】

色白で肌が弱い人のニキビ、イボ、むくみ。

恐らくこの証では桂枝茯苓丸加薏苡仁が強すぎて胃にきてしまうのだろう。

補血しながら肌の水をさばく。

まとめ

桂枝茯苓丸は、「実体のある敵(瘀血)」を想定し、それを砕くために設計されている。ゆえに加減も「いかに敵を追い出すか(大黄・薏苡仁)」や「攻めるエネルギーを足すか(附子)」という視点になる。

対して当帰芍薬散は、「機能の失調(虚・痛)」を想定し、環境を整えるために設計されている。加減は「弱った機能をどう支えるか(人参・附子)」や「乱れた環境(水)をどう正すか(五苓散)」という視点が主となる。

「血」と「水」の異常を見たとき、そこに「有餘な塊や滞り」があるのか、それとも「血虚と続発する冷えによる機能不全」があるのか。この原点を見極めることこそが、適切な方剤を選択する最短ルートと言えるだろう。

 

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