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瀉肝湯類と芍薬枳実

漢方医学

 傷寒論、金匱要略で芍薬枳実がほぼシンプルに入る処方は枳実芍薬散。そして柴胡剤系統ならば四逆散である。勿論大柴胡湯などもあるが構成生薬数が多くなり、芍薬枳実の働きの本質が少しぼやける。

 枳実芍薬散は金匱要略の婦人産後病に掲載されている。

婦人産後病脈証治第二十一

(1)問曰:新産婦人有三病,一者病痙,二者病鬱冒,三者大便難,何謂也? 師曰:新産血虚,多汗出,喜中風,故令病痙;亡血復汗,寒多,故令鬱冒;亡津液,胃燥,故大便難。

(5)産後腹痛,煩満不得臥,枳実芍薬散主之。

枳実焼令黒勿太過 芍薬等

右二味、杵為散,服方寸七,日三服,併主癰膿,以麦粥下之。

(6)師曰,産婦腹痛,法当以枳実芍薬散,仮令不愈者,此為腹中有乾血著臍下,宜下瘀血湯主之;亦主経水不利。

 経方医学の解説(江部洋一郎経方医学5p103)を紐解く。枳実芍薬散の処方と薬効を見ると、枳実は炭になるまで焼いて血中を巡らすようにするという。枳実芍薬の組み合わせで絡の血を肝に戻すことで気血の滞りを治し、結果通絡となって腹痛が治る。

>以麦粥下之

 さらっと書かれていて興味が引かれるのは、この方剤が寫法だということだ。麦粥を食べる前提にしていてもだ。

 そうしてもう一つは四逆散である。傷寒論少陰病で登場する。柴胡(甘草も)が加わるものの瀉肝湯類との差が少しだけ垣間見られる。

(318) 少陰病,四逆,其人或欬,或悸,或小便不利,或腹中痛,或泄利下重者,四逆散主之。

 経方医学の解説を見てみよう。要するに四肢が厥冷してるのは衛気が膈を通って皮へ出にくい状態を治するために配薬されている。また枳実は芍薬と相まって「入り」と胸膈心下の「降」を行い、絡血を肝に帰すことで通絡すると解説している(江部洋一郎 経方医学4p190)。

 枳実芍薬散から、方意はともかく起こり得る生体反応としては瀉法になるのだということがわかる。輔行訣の条文には寫して治るとは言及されてない。しかし肝実の邪を瀉す方向は内側、具体的には心下、小腸方向となる。大小瀉肝湯を読んでいるとき、消化器系が健全であることが前提だなと思っていた。実際には、健全でもそうでなくても治癒するのなら、わざわざ「下之」とか「泻下,即瘥」と書く必要はないだろう。

 枳実芍薬の組み合わせは2つの役割に特筆すべきであろう。

1つは絡から肝に血を戻して気血の滞りを治す、誤解を恐れずに言うと化瘀の働き。そう。通絡して痛みが取れる。そしてもう一つは下法の可能性もある疎胆作用。

 そうなると、肝実に続発した腹痛(小腸痛)にはとても有効な処方となる可能性がある。あれ、それって大小瀉肝湯だな。

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