【漢方医学】秋の不調「秋燥」の病態と対策
うだるような暑さが少し和らぎ、夏の終わりである晩夏を迎えた。これからすぐに到来する本格的な秋は、過ごしやすい季節である一方、体が気候の変化に対応できず、不調を感じやすい時期でもある。
秋本番を前に、以下のような不調の”兆し”が現れることがある。
- 🍂 喉のイガイガ感と、痰の絡まない乾いた咳(空咳)
- 🍂 皮膚のカサつき、かゆみ
- 🍂 鼻腔や唇の乾燥
- 🍂 全身の倦怠感、気分の落ち込み
これらの不調は、漢方医学でいう「秋燥(しゅうそう)」が原因であると考えられる。本稿では、この「秋燥」の病態と、漢方における対策について解説する。
「秋燥」の病態
「秋燥」とは、端的に言えば「秋の乾燥した気候が、人体に影響を及ぼしている状態」である。
漢方では、自然界の気候が人体に影響を与えるものと考える。秋季の気候を特徴づけるのは「燥(そう)」、すなわち乾燥である。この「燥」が過剰になると、一種の邪気(燥邪)として体内に侵入し、人体の潤い、すなわち「津液(しんえき)」を消耗させるのである。
乾燥のダメージを最も受けやすい臓腑は「肺」である。肺は呼吸を通じて常に外気と接触するため、極めてデリケートな臓器とされる。いわば「身体の加湿器」ともいうべき役割を持つ肺が乾燥のダメージを受けると、その機能が失調し、連鎖的に様々な不調が出現する。
- 呼吸器症状: 肺自体の乾燥により、空咳や喉の痛みが生じる。
- 皮膚症状: 「肺は皮毛を主(つかさど)る」という理論に基づき、肺の潤い不足は、皮膚の乾燥やかゆみとして直接現れる。
- 消化器症状: 肺と大腸は表裏関係にあり、肺の乾燥は大腸の津液不足にもつながる。これにより便が硬化し、便秘傾向となることがある。
秋燥の病態分類
「秋燥」は、その時期と結合する邪気によって、いくつかの病態に分類される。
□ 温燥(おんそう)
残暑が厳しい初秋に多く見られる病態。「秋の燥邪」と「夏の熱邪」が結合したものである。喉の渇きや体のほてり、咽頭痛といった熱症状を伴うのが特徴である。
□ 涼燥(りょうそう)
寒さが感じられる晩秋に多い病態。「秋の燥邪」と「冬の寒邪」が結合したものである。悪寒、頭痛、鼻づまりといった風寒の症状を伴う。
□ 夏の消耗を背景に持つ病態(秋バテ)
現代において多く見られるのが、この複雑な病態である。夏季の冷たい飲食物の摂取や冷房環境は、消化器系である「脾」の機能を低下させ、エネルギーである「気」と潤いである「陰」を消耗させる。この脆弱な状態で秋の燥邪に侵されるため、咳や皮膚乾燥といった燥邪の症状に加え、倦怠感、食欲不振、意欲低下といった「気虚」の症状が併発する。
漢方医学における治療法
漢方治療の基本は、不足したものを補い、全体の平衡を回復させることにある。「秋燥」に対する治療の基本戦略は、体の内側から潤いを補充する「滋陰潤燥(じいんじゅんそう)」である。
臨床では、個々の体質や病態分類に基づき、エキス剤であれば以下のような方剤が選択される。
- 麦門冬湯(ばくもんどうとう)
肺を潤す代表方剤。激しく咳き込むような空咳や、咽頭の強い乾燥感を目標とする。
- 清肺湯(せいはいとう)
乾燥に「熱」が加わり、粘稠な黄色の痰が絡むような湿性の咳に用いられる。肺熱を鎮静しつつ、潤いを補給する方剤である。
- 当帰飲子(とうきいんし)
冷え体質者の、皮膚の乾燥とそれに伴う掻痒に用いられる。血(けつ)を補うことで皮膚に栄養を与え、かゆみを鎮める。
- 温清飲(うんせいいん)
皮膚の乾燥に、赤みや熱感といった炎症を伴う場合に適応となる。血を補うと同時に、熱を鎮める作用を持つ。
これらはあくまで一例である。漢方外来ではより詳細に経方医学で病機を詳らかにして、生薬にてオーダーメイドの治療をすることができる。
結語
秋は過ごしやすい季節であるが、人体にとっては気候変動による負担が大きい時期でもある。長引く不調を看過せず、お気軽に外来を受診して欲しい。
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