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経方方証縦横に学ぶ干姜黄芩黄連人参湯の弁証要点、仲景方論、注家方論、医案

漢方医学

経方方証縦横における干姜黄芩黄連人参湯の「弁証要点(証の要点)」「仲景方論」「注家方論」「医案」についての解説である。

 

1. 弁証要点(証の要点)

  • 基本病機と適応: 上熱下寒(上半身に熱があり、下半身・胃腸に冷えがある状態)、寒熱が上下で反発し合う病態(寒熱格拒)を治療する。治則は「苦寒清熱、甘温益陽」(苦寒で上の熱を清め、甘温で下の虚寒を温めて脾胃を補う)である。

 

  • 配合の意義:

 

  • 黄連・黄芩: 苦寒の性質により、胃・心下にこもった邪熱を強力に清瀉する。

 

  • 干姜: 辛温の性質により、中焦(脾)の寒冷を温めて散じる。

 

  • 人参: 甘温の性質により、弱った脾胃を補益し、胃が飲食物を受け入れ(受納)、脾がそれを全身に送り届ける(運化)力を回復させる。

 

  • 臨床での使用目標: 食入即吐(食べ物や水が口に入るとすぐに激しく吐き出す)、下利(下痢)、みぞおちの軽度の不快感などを決定的な審証(弁証)の要点とする。

 

  • 類似処方(瀉心湯類・梔子干姜湯)との重要な鑑別:

 

  • 半夏瀉心湯などの「瀉心湯類」との鑑別: いずれも「辛開苦降甘調」の法に属するが、瀉心湯証は「みぞおちのつかえ(心下痞)」が主であり、嘔吐や下痢はそれに伴うものである。それに対し、本証は「嘔吐(逆吐)」が主症状であり、みぞおちのつかえ(気痞)のレベルには達していない(そのため、瀉心湯の半分の薬味(4味)という極めてシンプルな構成になっている)。

 

  • 「梔子干姜湯」との鑑別: どちらも胃熱脾寒を主治するが、梔子干姜湯証の胃熱には「湿」がなく、脾寒にも「虚」はない(寒熱の勢いも均等である)。それに対し、本方証は胃熱に「湿」を伴い、脾寒に「虚」を伴っており、かつ「胃熱」の勢いが明らかに勝っている。

 

2. 仲景方論

張仲景の『傷寒論』第359条に記載されている以下の条文が、本方の主治となる。

 

『傷寒論』第359条:「傷寒、本自ら寒下するに、医復たこれを吐下し、寒格し、更に逆吐下す。若し食入口に即ち吐する者は、干姜黄芩黄連人参湯これが主る」

 

※元々胃腸が冷えて下痢しやすい体質の患者に対し、誤って吐法や下法を繰り返した結果、体内の寒邪が格拒して上の熱を激しく反発させ、水や食べ物が口に入った途端に即座に吐き出してしまう「食入即吐」の状態に陥ったものに本方が適していることを説いている。

 

3. 注家方論(歴代注釈家による考察)

歴代の医家たちは、このわずか4味のシンプルな構成が、上下の格拒をどのように切り開くのかを深く論じている。

 

  • 成無己(『注解傷寒論』): 「辛は以て散じ、甘は以て緩む」に基づき、干姜・人参の甘辛の性質によって中焦の正気を補い、補うことで中を温める。「苦は以て泄らす」に基づき、黄連・黄芩の苦味によって寒格(格拒する熱)を通じさせる。

 

  • 王子接(『絳雪園古方選粋』): 厥陰の寒格による吐逆は、体内の「陰寒」が内に格拒し、上の「陽熱」を外へ拒絶して吐き出させている病態である。そこで芩・連の大苦を用いて上の陽熱を瀉し、干姜を先導役(向導)として内の陰寒を切り開いて通じさせる。しかし、誤った吐下によってお腹の気(中州之気)はすっかり衰えきっている。そのため、必ず人参を配して胃の陽気(胃陽)を回復させ、干姜の辛烈な力が陰格を一気に打ち破って嘔吐を止めるのを助けさせるのである。

 

  • 許宏(『金鏡内台方議』): 干姜を君薬として逆気を散じて陽を調え、黄連を臣薬とし黄芩を佐薬として上焦の格拒する熱を泄らし、人参を使い薬(使薬)として胃を調和させ、真気を補益する構成である。

 

  • 陳修園(『傷寒論浅注』『長沙方歌括』): もし熱の格拒が激しく、水や湯さえも全く喉を通らない(食入即吐)場合は、干姜を去って代わりに「生姜の絞り汁(生姜汁)」を少し加え、喉を潤すようにゆっくりと少しずつなめる(徐々に呷る)とよく、これは古法を少しアレンジしたもので臨床で非常に効果があると述べている。また、処方名において「干姜」が筆頭に置かれているのは、干姜の温める力が脾胃の冷えを除き、その辛烈な気風によって格拒している関門を開いて食べ物を受け入れさせる(開格納食)ことができる、という最も重要な薬効を象徴しているからである。
  • 章楠(『傷寒論本旨』): 中宮(胃腸)がもともと虚寒しているところへ誤った吐下を行ったことで、厥陰の相火(熱)が暴走し、寒気とお互いに反発し合って(格拒)激しい嘔吐・下痢を引き起こしている。人参・干姜で中を温めて気を助け、芩・連で三焦の相火を瀉して陰陽を調和させることで吐下は自然と止まる。中焦だけが傷ついているため、少陰の格陽(生死をさまよう重症)とは異なり、附子は用いない。

 

  • 梅国強(『傷寒論講義』): 上熱下寒の格拒において、上熱が比較的重いため、黄芩・黄連の苦寒を重用して上の熱を清めることで嘔吐を直接止める。干姜の辛温で下の寒を払い、人参で中気を補い温中健脾することで、寒薬と温薬の調和がスムーズに発揮されるようになる。

 

4. 医案選録(名医の臨床カルテ)

本方は、お酒による激しい吐血、冷たいものの食べ過ぎによる急性吐瀉、さらには長年の頑固な胃病に伴う嘔吐下痢に劇的な効果を上げている。

 

  • 劉渡舟の医案(夏の生冷物による激しい吐瀉・心煩・口苦): 29歳の男性。夏の酷暑に冷たいものを食べ過ぎたことで、突然激しい吐瀉(嘔吐と下痢)が始まった。嘔吐のほうが下痢よりも激しく、胸がもやもやして(心煩)、口が苦い(口苦)と訴えていた。脈は数で滑、舌苔は黄色く潤っていた。劉渡舟はこれを「上が火熱、下が寒湿の、中焦が虚した寒熱錯雑証」と診断した。そこで本方(黄連6g、黄芩6g、人参6g、干姜3g)を煎じ、そこに生姜の絞り汁1杯(生姜汁一盅)を薬液に混ぜて服用させたところ、一服で激しい嘔吐はピタリと止まり、速やかに完治した。

 

  • 俞長栄の医案(長引く胃病に伴う、食事を見ると悪心・即座に吐くゲップと下痢): 50歳の男性。長年胃病を患っており、最近になって嘔吐が頻発するようになった。胸が詰まって苦しく(胸間痞悶)、食べ物を見るだけで激しく吐き気を催し(悪心)、無理に少しでも食べると即座に吐き出した(食下即嘔)。口はやや乾燥し、大便は緩く1日に2〜3回下痢をしていた。脈は虚数。これを胃熱脾寒(中寒が本、上熱が標)の証と診断し、本方(党参15g、干姜9g、黄芩6g、黄連4.5g)を処方し、少し冷ましてから4回に分けてゆっくり服用させた。するとわずか1剤で嘔吐も下痢も劇的に治まった。その後、胃を根本から立て直すため、生姜500gと大棗500gを細かく刻んで混ぜ合わせ、ご飯を炊く(蒸す)時に茶碗1杯分ほど載せて蒸し、毎日3食のご飯の後に食べさせた(生姜の辛熱で胃を温め、大棗の甘温で中焦を補い、米の谷気で胃気を養う)。これを2箱(2斤分)食べ終えた頃には、あれほど長年悩んだ慢性胃病が完全に根治した。

 

  • 黄德厚の医案(酒毒による胃潰瘍からの大吐血、輸液無効からの救治): 37歳の男性。胃痛の持病があり、検査で「胃小弯に蚕豆大の潰瘍」を指摘されていた。お酒を大量に飲んで辛いものをたくさん食べた後、みぞおちが激しく痛み、大量の鮮血(一部黒い血の塊を含む)を吐き出した。病院で止血剤や輸液を投与されたが止血せず、顔面は蒼白、自汗が流れ、手足は冷え、呼吸は浅く、舌は赤、脈は沈細数。4日間大便が出ていなかった。これは「酒毒の辛熱が胃の血管を傷つけ、胃気の上逆によって出血が止まらない気随血脱(出血に伴って元気が抜ける)の重証」である。そこで、まず童便(子供の尿)1杯を飲ませて熱を下げて止血させ、胃を補いながら熱を清め、さらに宿便を下すために「干姜黄芩黄連人参湯に大黄を加えた処方」(紅参20g(別煎濃縮)、黄芩9g、黄連9g、干姜炭4g、大黄12g(後下))を投与した。服薬後、黒い便(多量の宿便と古い血液)が大量に排泄され、これと同時に出血はピタリと止まり、手足も温かくなった。その後、大黄を除いてさらに1剤服用させたところ、脈も落ち着いて平穏になり、胃の粘膜を保護する薬を半年間服用させたところ、再検査で潰瘍面は完全にきれいに治癒していた。

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