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漢方医とAI、二つの知性が拓く古典解釈の新境地

漢方医学

このブログでも度々取り上げている『輔行訣』は、中国医学史上非常に重要な文献だが、その解釈は多岐にわたる。そこで私は、Deep Researchを使って学術論文を網羅的に調査し、さらにGeminiに協力を仰ぎ、現代の研究動向やさまざまな解釈について議論し概観を深めることにした。

AIの力を借りることで、通常なら膨大な時間がかかる文献調査が飛躍的に効率化され、最新の研究成果や異なる見解を短時間で把握することができた。これは、従来のやり方では得られなかった大きなメリットであった。


 

AIとの「議論」で見えたこと

 

しかし、AIが生成した原稿を精査していく中で、ある重要な部分に明らかな誤りがあることに気づいた。

それは、『輔行訣』における五行・五味理論が、伊尹の湯液経条文の元々の内容だったのか、それとも陶弘景による独自の解釈なのか、という点である。私自身は後者だと考えていたが、Geminiは前者だと主張してきた。

私は、『輔行訣』の本文にある「陶云」という記述に注目した。この「陶云」の後には、陶弘景の主張と思われる意見が続き、時には五行・五味理論も記述されていたからだ。つまり私は、この記述を「陶弘景曰く」と解釈していた。この具体的な根拠をGeminiに指摘すると、驚くべきことに、Geminiはすぐに自身の主張を撤回し、私の見解が正しいと認めた。

もし、これが人間同士の議論だったらどうだろう? お互いの知識や経験をぶつけ合い、感情的な反論を交えながら、結論に至るまで時間がかかったかもしれない。しかし、AIは感情を持たないため、提示された具体的な証拠に基づいて、迅速かつ論理的に自身の「持論」を覆したのだ。

この経験は、私に議論の本来の目的を改めて教えてくれた。それは、いかに自分の主張を通すかではなく、いかにして真実に近づくかということである。AIは、この目的を達成するための優れた「対話相手」になり得ると心から実感した。


 

AIとの協働から得た3つの教訓

 

この一連の経験を通じて、私はAIとの効果的な関わり方について重要な教訓を得た。

  1. 最終的な判断は人間が行う AIは強力なアシスタントだが、その出力はあくまで「既存のデータに基づいた推論」に過ぎない。特に専門性の高い分野では、AIが生成した情報を鵜呑みにせず、必ず人間が最終的な検証を行う必要がある。また仮に、誤った情報や解釈を飲み込んだとしても、その後正しい情報を得ることができたら淡々と修正していく心構え、態度が大切である。
  2. 具体的なフィードバックが鍵 AIは、漠然とした指示ではなく、具体的な情報や修正点を指摘されることで、より質の高い結果を返す。例えば今回のケースのように、『輔行訣』の本文にある「陶云」という具体的な記述を根拠として示すことで、AIは自身の誤りを修正することができたからだ。
  3. AIは「代替」ではなく「補助」 AIは、情報の探索、整理、アイデア出しなど、人間が行う作業の多くを効率化できる。しかし、それは決して人間の代替ではなく、人間の創造性や判断力を補助するためのツールとして捉えるべきである。

 

漢方医学におけるAIの可能性

 

今回の経験を経て、私はAIツールを今後さらに積極的に活用していきたいと考えている。

  • 文献調査の効率化: 膨大な文献の中から必要な情報を素早く見つけ出す。
  • 多様な視点の獲得: AIに異なる視点からの情報や解釈を提示してもらうことで、自身の研究に深みと広がりを持たせる。
  • 表現のブラッシュアップ: 複雑な内容を、より分かりやすく、読みやすい文章に修正してもらう。

AIは、漢方医学という奥深い専門分野に新たな可能性をもたらす強力なツールである。しかし、その力を最大限に引き出すためには、AIの特性を理解し、人間が主体となって賢く利用していくことが何より重要だと感じている。

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