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耳鳴治療における脈診と水滞の再考

漢方医学

 これまでの私の耳鳴治療は、師匠の治験ノートにあるような「寸脈が浮いている」という所見に支えられていた。「寸脈が浮く」ということは、胃気や腎気が頭部へ突き上げている(上昇や上昇)証左である。このロジックに従い治療してきた。

 しかし最近、臨床の現場で壁に当たることが増えてきた。「寸脈が浮いていない」、あるいは「沈んでいる」にもかかわらず、頑固な耳鳴を訴える症例群である。

 腎虚(特に陰虚)に伴う虚熱や、ストレスによる鬱熱(肝火)は、熱の「炎上する」性質ゆえに脈を浮かせることが多い。つまり、脈が浮いていないということは、そこにあるのは熱ではなく、もっと重たく、沈降する性質の邪―すなわち「水滞」が主座を占めている可能性が高いのだ。実際水滞を除くことで寸脈が浮いてくることもしばしばである。

ここで、私の耳鳴治療の戦略を、初診時の「脈状」への条件反射的な依存から脱却し、より多角的な視点へと修正する必要があると感じた。

1. 「浮かない脈」に慌てない

 寸脈が浮いていれば「突き上げ(衝気)」の治療を行えばよい。これは変わらない。

問題は、脈が浮いていない時だ。ここで「師匠のパターンに当てはまらない」と慌てるのではなく、脈状以外の尺度に目を向けるべきである。

  • 耳鳴りの音質:低音か高音か、持続的か間欠的か。ざーざー、きーん、蝉の鳴き声
  • 随伴症状:めまい、頭重感、下肢の冷えや浮腫、胃内停水(振水音)。

 脈が沈んでいる、あるいは浮いてこない場合、これら周辺情報を羅針盤として病機を探る必要がある。

2. 水滞治療の解像度を上げる

 脈を浮かせないほどの「水」の停滞がある場合、単なる利水剤の投与では不十分かもしれない。水の在処(ありか)と性質(痰、飲、湿)を見極め、耳鳴の音質や随伴症状で水滞を除いた後の状態を想定する。実際に水滞を除き治療効果として寸脈が浮いてくるのを待つ。

結論:脈状以外の「声」を聴く

「腎虚・鬱熱は寸脈が浮くことが多い」。この事実を再認識したことで、逆説的に「浮かない脈」の正体が整理できた。それは熱によって浮き上がる力さえも抑え込むような、重篤な「水」の存在という姿である。

 これからの診療では、寸脈が浮いていない時こそ、水滞の病態を深く掘り下げていく。また脈だけに頼らず、患者の訴える音や身体の重さといった「脈以外のサイン」を統合し、水滞治療から耳鳴治療への精度を上げていきたいと思う。

 

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