杖道には、少々不思議な思想がある。
「杖」道と名が付いているにもかかわらず、相手にするのは「太刀」である。
そして、その関係性も興味深い。
型の上では、太刀は杖の者より上位、つまり力量が上という設定だ。上位の太刀が、下位の杖修行者の力量を引き出し、上手に練習できるように導く、という構造になっている。
もちろん、実際の稽古では高段者が杖を持ち、下位の者が太刀側になることもある。その場合、下位の太刀側は、ある意味「必死に」なって、高段者がより良い練習ができるように促す(お膳立てする)役割を担う。
私自身、杖の操作には興味深く取り組んできたものの、太刀の追求は正直なところ二の次になっていた。以前学んでいた太刀術とは全くと言っていいほど理合が異なるため、なかなか馴染めなかったのである。
しかし、そんな私も四段となり、今後は後輩の練習相手(太刀側)を務める機会も増えるだろう。それを見越してか、最近は高段者の先生方から太刀筋について指導をいただくことが多くなった。
先日も、90歳を超えられた先生が「これこれ、こうだ」と太刀の指導をしてくれた。
指導いただいた内容自体は、これまで他の先生方から受けたアドバイスに少し加筆された程度だったのだが、ひとつ、非常に特徴的なことがあった。いや、話というよりも、その「様子」である。
その先生が太刀を振る度、**「ピュッ、ピュッ」**と鋭い風切り音がするのだ。
横から拝見していると、それほど力が入っているようには見えず、ただスッと振っているだけ。それなのに、あの音が出る。「へえ、凄いものだな」と感心していた。
それから一週間。
自分なりに「ああでもない、こうでもない」と太刀を振って試行錯誤を続けていたら、驚いたことに、私も結構な確率で「ピュッ」と音が出るようになってきた。
そういえば、以前稽古していた古武術でも、太刀を振る度に音が出るものであった。
ああ、やはりある程度「練れてくる」と、自然と音が出るようになるのだな、と。
色々試す中で分かったことがある。
それは、「音を出すこと」自体を目的としてしまうと、肝心の型が大きく崩れてしまうということだ。
あくまで型を大切にし、その上で「ピュッ」と音が出たなら、それはOKのサイン。
そんなことを考えながら、自主練習に励んでいる。


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