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情報以前を捕獲する:思考の厚みを生む「紙メモ術」の試み

情報管理

はじめに:数ヶ月のデジタルジャーナル実践で見えた「死角」

数ヶ月にわたり、AIを使ったデジタルでのジャーナリングを実践してきた。MacとiPad(Goodnotes)を駆使し、Zettelkastenのメソッドで情報をリンクさせ、壁打ちを通じて推敲していく。この圧倒的な効率と処理スピードは、私の知的生産においてすでに手放せないシステムとなっている。

しかし、このデジタル環境での思考が洗練されていくにつれ、ある一つの明確な「死角」に気づかされることになった。それは、新しく思い浮かんだ発想や、情報になる前の「何か(思考そのもの)」を、デジタルではうまく入力できていないという事実だ。

ボイスメモとキーボードの限界

最初は、ふと思いついたアイデアを「ボイスメモ」で録音しようと試みた。しかし、これは実用に耐えなかった。周囲の目を気にしてしまい、結局誰の目も気にならないトイレの中で、毎日の生理的な習慣を吹き込むくらいしか使い道がなかったのだ。

では、キーボード入力はどうか。引用や推敲には絶大な威力を発揮するが、「情報以前のモヤモヤした熱」を捕獲するには不向きだった。なぜなら、キーボードを叩くためには、脳内で直感を「整った言語」にフォーマットし直さなければならないからだ。そのわずかな変換プロセスの間に、一番大事な「思考の厚みの素」が揮発してしまう。

漢字を忘れる手と、遅さがもたらす「内省」

この失われた熱を捕獲するヒントは、週に一度の「紙カルテ」を使う外来診療の中に隠されていた。

普段の電子カルテでは、生薬名はカタカナだ。定石的な症状や証に対しては、セットの方剤として一瞬で入力を完了させることもある(実際の使用頻度としては全体の1割程度だが、極めて効率的だ)。しかし残りの9割で個別に細かく調整を行う場合、画面上に並ぶ「カタカナ」ではどうしても思考が上滑りする。

真っ白な紙カルテに、「桂皮」や「香附子」と一文字ずつ漢字を思い出しながら手書きする。その「遅さ」と、漢字という表意文字が持つ情報量が、私の脳に別のスイッチを入れる。記号としてではなく、生薬の意味や背景に立ち返り、臨床的な直感を呼び覚ますボトムアップの思考。これは、デジタルには絶対に代替できない「遅さと身体性」の価値だった。

トラベラーズノートの再定義と「構え」

そこで、以前使っていた細長いトラベラーズノートとペンを、再びシステムの中核に引き戻すことにした。

 

ポイントは、クリップで「常に開いた状態」にして机に置いておくことだ。

表紙を開くというコンマ数秒のフリクションすら排除し、ふとした瞬間に降りてくる直感や、言語化される前の熱を帯びた「書き殴り」を、そのままの温度で受け止めるキャッチャーミットとして機能させる(因みに殴り書きは電子デバイスに残しにくい)。まずはここから始める。

この開いたノートの上にiPad miniを重ねて置くというセットアップをしても面白いかもしれない。

  • 上層(iPad mini): 論理、構造化、To-Doといった「デジタルの処理」

  • 下層(紙のノート): 身体的な気づき、直感、言語化前の「アナログの熱量」

    手が伸びた方のデバイスが、その時の自分の思考モードを自動的に振り分けてくれる。iPadminiとメモ帳が上下逆に置いてもいい。ともかく試そう。

道場に持ち込める「ノイズレス」な堅牢性

また、紙のノートは物理的な堅牢性とノイズレスな環境において最強だ。

杖道の稽古の場に電子デバイスを持ち込むと「割れるかもしれない」「電池が切れるかもしれない」という懸念がノイズになる。張り詰めた空間で身体的な気づきを書き留めるには、バッテリーの概念すらなく、タフな「紙」が最も馴染む。

夜の時間は「過去のまとめ」から「明日への接続」へ

もちろん、紙に書き殴ったままでは情報は死蔵されてしまう。そこで、夜のデジタルジャーナリングと接続する。

  1. 日中、紙のノートに未加工の断片や直感を書き殴る。

  2. 夜、それを見返しながらジャーナルに書き出し、情報を収集・整理する。

  3. Zettelkastenの永久保存メモに「🚧(工事中)」マークを付けて放り込み、リンクだけ張っておく。

  4. そして、安心して忘れる。

これまでの夜の時間は、単なる一日の「まとめ(過去の記録)」だった。しかし、紙のノートで日中の熱を捕獲できるようになった今、夜のジャーナリングは「捕獲した種を土壌に植え替え、明日の思考へと繋ぐ」ための、極めて前向きで意味のある時間へと進化した。

おわりに:ハイブリッド・システムの始動

圧倒的なスピードで情報を繋ぎ合わせる「デジタルのエンジン」と、情報以前の熱を捕獲し、思考に厚みをもたらす「アナログの構え」。

この2つを組み合わせた新しいシステムが、日々の臨床や、古典医書の解釈、そして執筆活動にどのような化学反応をもたらすのか。まずは明日から、この「開かれたノート」と共に実践をスタートさせてみようと思う。

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