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「内臓がおかしくなる」—今年最後の漢方外来に残された謎と予感

漢方医学

 今年最後の漢方外来に、何とも不思議な症例が舞い込んだ。

 患者は20歳代の女性。主訴は高血圧なのだが、その背景にある訴えが奇妙である。

彼女曰く、「降圧薬を飲むと内臓がおかしくなる」のだという。

詳しく問診を行えば、過去にARBやCa拮抗薬といった標準的な降圧薬を試みたものの、その度に身体の不調に見舞われたらしい。しかし、具体的に「どう」おかしくなるのかを問いただしても、返ってくる言葉はいずれも曖昧模糊としている。薬剤の添付文書に記載されているような、典型的な副作用の臨床像からは大きくかけ離れているのだ。

現在は服薬を中断しており、それに伴って「内臓のおかしさ」も消失しているという。

処方を行った前医にはその症状を伝えたのか。そう尋ねてみたが、彼女はしどろもどろになり、要領を得ない返答に終始した。そこに何らかの心理的な障壁があるのか、あるいは言語化できない感覚なのかは定かではない。

しかし、目の前の現実はシビアだ。

実際に診察室での血圧値は高く、家庭血圧の記録を見ても高値で推移している。

20代という若さを考慮すれば、本態性高血圧と決めつけるのは早計であり、二次性高血圧症である可能性も決して否定できない。それは内科医として、片時も忘れてはならない視点である。

だが、私の興味を惹きつけてやまないのは、やはりその「症状」の不可解さである。

結局、今回はARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)を処方することとした。同時に、高血圧に対する基本的な栄養指導を行い、年明けに再診の予定を組んだ。

もし、この新しい処方でも再び「内臓がおかしくなる」ようであれば、その時は迷わず循環器内科へ紹介することにしよう。

一見すると、漢方外来にはそぐわない症例かもしれない。不定愁訴とも、心身症とも、あるいは稀な副作用ともつかない。

しかし、私の臨床医としての直感が、そこに何か「落とし穴(Pitfall)」があるような警鐘を鳴らしている。

単なる薬剤過敏なのか、未発見の器質的疾患か、あるいは精神的な機序か。

この違和感を大切に見極めながら、慎重に経過を追っていきたいと思う。謎を抱えたまま年を越すことになったが、それもまた臨床の常である。

 

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