先日、東洋医学学会誌にて非常に興味深い症例報告を拝読した。 西洋医学的な薬物療法で改善しなかった「持続性チック(口や瞼が勝手に動く)」に対し、漢方のエキス製剤を駆使して著効を得たという報告である。
治療された先生の弁証(診断)と、エキス剤の組み合わせ(合方)の妙には感服した。今回は、この症例を題材に、「もしこの患者さんが、私の外来に訪れて『煎じ薬』で治療することになったら、どう組み立てるか?」というシミュレーションをしてみたい。私の方は妄想に過ぎず、実際に治したわけではない。だからむしろ症例をエキス剤で治療した先生には、遠く及ばない。私のただの自己満足的な覚え書きである。
症例の概要(学会誌報告より要約)
- 患者:50歳代女性。
- 主訴:口が勝手に動く、疲れると瞼も動く(チック症状)。
- 背景:不眠(中途覚醒)、便秘、暑がり、舌の震え、舌の色が暗紫色。
- 報告された治療: 当初の柴胡剤単独では効果薄。その後、「心熱・瘀血・肝陰血不足・肝陽化風」と病態を再定義し、『女神散』に『加味逍遙散』を合わせたところ、劇的に改善したとのことである。
私が考える「生薬処方」の構成案
この症例のポイントは、著者の先生も指摘されている通り、「肝の風(震え)」と「心の熱(興奮)」、そしてその背景にある「陰血の不足(潤い不足)」である。
エキス剤での「女神散+加味逍遙散」は、これらを網羅する素晴らしい組み合わせだ。ただ、既製品を合わせる形になるため、どうしても重複する生薬や、この患者さんには少し余計かもしれない生薬も含まれてしまう。
そこで、私がゼロから処方箋を書くなら、「滋水清肝」と「熄風」に特化した、以下の構成を提案する。
【方意】
- 熄風
- 釣藤鈎
- 天麻
- 石決明
- 牡蠣
- まずは主訴であるチックを風と捉え、これらで鎮める。
- 心熱を冷ます
- 黄連
- 山梔子
- 報告でも「女神散」に含まれる黄連が奏功したとあった。ここはその通り踏襲し、焦燥感や中途覚醒の原因となる胸の熱を取り除く。
- 滋陰
- 乾地黄
- 芍薬
- 当帰
- エキス剤に含まれる「地黄」は、蒸して加工した「熟地黄」であることが多く、温める力が強めである。しかし、この患者さんは「暑がりで舌が赤い」タイプのため、熱を冷ます「乾地黄」を選択する。また芍薬は、後述の甘草と協力して筋肉の攣急(チック)を和らげる。
- 巡らせ補血
- 柴胡
- 川芎
- 当帰
- 芍薬
- 気の巡りを整え、血の滞り(瘀血)を流す。
- 調和・守胃
- 甘草
- エキス剤の「女神散+加味逍遙散」には、「人参・白朮・蒼朮」などが含まれている。私の案では、人参の代わりに甘草を加え、朮は心下などに痰飲があった場合に導入を検討する(今回は保留とした)。
今回の症例はエキス剤でここまでの成果を出された主治医の先生の選球眼あってこその考察、いや妄想である。改めて、漢方治療の奥深さを感じさせる素晴らしい症例で思わず色々と勉強してしまった。こんな症例に出会いたいものだ。


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