院長が循環器専門医ということもあり、最近動悸症状の紹介の方が多くなってきた。
そこで、動悸症状に対する方意を整理したい。
経方医学では動悸は3つのパターンがある。
1)胃気の心への過剰な上昇
2)腎気の心への上衝
3)脈の不整時に感じるもの
の3種がある(経方医学2p41)。
西洋医学の立場から見たら1)2)は分かり辛いかもしれない。一方3)は当たり前だというレベルであろう。
ところが意外かも知れないがこれが経方医学からみると逆になる。1)2)はよくあること。3)の人は漢方外来に来ずに、西洋医学で治すだろうなと思えてしまう。
3)にあたるパターンは炙甘草湯証ということになる。
条文を挙げる。
傷寒論
177条 傷寒,脈結代,心動悸,炙甘草湯主之。
金匱要略
血痹虚労病脈証并治第六
【附方】
『千金翼』炙甘草湯(一云復脈湯):治虚労不足,汗出而悶,脈結悸,行動如常,不出百日,危急者十一日死。
肺痿肺癰咳嗽上気病脈証并治第七
『外台』炙甘草湯:治肺痿涎唾多,心中温温液液者。(方見虚労中。)
動悸に症状を呈する患者に対する適応証としては上2つである(だから肺痿肺癰咳嗽上気病は省略)。端折っていうと実はこれ、狭心症、心筋梗塞あるいは重大な不整脈の症状なのである(経方医学2p42)。だからそんな患者さんは来ないだろうからあまり気にせずに放っておいた方剤である。
しかし、方意としては意外と使えるのではないかと思えるようになった。
つまり、滋陰して補陰、補津した胃気は桂皮で、胸膈心下肺を経て心、心包に注ぐのだ(肺痿の場合は肺へ)。
冠動脈疾患ではない、ホルター心電図などでも明らかな不整脈がない動悸を愁訴の患者さんで、胃気上昇、腎気上衝が否定された場合、炙甘草湯証を用いることを検討しても良いのかも知れない。
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