煩躁は確かに存在する。しかし患者さんの症状からそれが煩躁していると捕らえるのは、意外と難しい。胸がもやもやする症状から焦燥感に駆られる症状まで様々だ。実はなんでも煩躁と結びついてしまうので、本当にそうかと悩むのだ。
私の外来において外来における煩躁で最も多い証は梔子鼓湯類である。それ以外では柴胡剤、腎陰虚、胃熱(虚熱も含む)などである。たまたまなのか、それしか捕らえられないためかは分からない。
漢方の臨床を読んでいたら武漢熱(武漢で初めて確認された種類のコロナウィルス感染症)のワクチン接種後の後遺症に茯苓四逆湯を使用した治験が掲載されていた(COVID-19ワクチン接種後の遷延する全身倦怠感に茯苓四逆湯が奏効した2症例 吉永亮ほか漢方の臨床2024年12月号東亜医学協会p39)。
当該ワクチンの副反応はCOVID-19感染後遺症と同様に多彩である。茯苓四逆湯は傷寒論で太陽病に属す。
69条 發汗,若下之,病仍不解,煩躁者,茯苓四逆湯主之。
茯苓四逆湯方
茯苓四兩 人參二兩 附子一枚(生用,去皮,破八片) 甘草二兩(炙) 乾薑一兩半
右五味,以水五升,煮取三升,去滓。溫服七合,日三服。
その経方医学的な煩躁出現の方意は気陰両虚下で心、心包、胸の津液の喪失による虚熱による(経方医学1p205)。私ならばすぐに滋陰剤に飛びつくし、補気剤の黄耆を入れるだろう。しかし条文では誤発汗誤下で気陰両虚になりヘトヘトだ。滋陰剤入れてもそれを陰虚の臓腑まで運べない。補気しても胃気が少ないのでへたすれば格陽してしまう。じゃあ守胃して胃気を鼓舞する。守胃は人参と甘草だ。附子で腎気を高めて津液の流れをバックアップ。そして、心、心包、胸に至った津液を多量茯苓で「良い水」を巡らすようにするのだ(経方医学1p205)。
この病態になる人は今日あり得るだろうか。間違いなくあるだろう。しかし、うちの病院に来たらこの方もまた、CV挿入して高カロリー栄養をするだろう。しかし、煩躁という枠組みで心、心包、胸の陰虚化熱している(勿論気虚を伴う)方であれば、良い適応になることをこの文献で知った。私も意識的に漬かってみようと思う。
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