ここでいうカツラとは、頭にのせるアレである。
その女性は80歳台で1人暮らし。
田舎暮らしなのに足がない。
移動はもっぱらバスやタクシーであった。
実は毛髪が少ないのが悩みであった。
みかねて比較的近くに住む孝行な息子が、カツラの店に何度か連れて行った。
色々と悩んだ末にお気に入りのカツラを手に入れることができた。
それならばと、息子はお披露目会を催すことにした。
その女性はの快くそれを承諾した。
実はその息子、頻繁に母親と連絡をしていたとは言えなかった。
息子としては生存確認目的でたまに少ない言葉で母にメールする程度。
だからであろうか。母にメールすると、すぐに返信が来た。
明日はカツラのお披露目会だなと思った息子は、迎えに行く時間を母にメールした。疲れていた息子は返信を待たずに就寝した。
息子が何か違うなと思い始めたのは、翌朝になってからであった。メールの返信がないのだ。
珍しいなと思いつつ、勤務日であったた。たわから職場に着いてから電話することにした。
何度も電話した。携帯や固定電話を何度も。出ない。
これはおかしい。
母の身に何かあったのではないか。
セコムと契約していたので、家を訪ねてもらうことにした。
セコム曰く、内から施錠されてて開けられない。消防を呼ぶという。勿論息子は鍵は壊して良いと承諾した。
そして、運命の一報が消防士から来た。
「発熱して、倒れていました。」
そして今私は救急外来にいる。
まだ、検査は終わっていないものの、幸い意識はほぼ清明である。
息子は思うのだ。
あと、少し遅れていたら。
今日、カツラお披露目会が無かったら。
母の命はもしかしたら、今生にはいなかったかもしれないと。
息子は母の、貴重品入れカバンに入っていたキシリトール飴を舐めながら、今日何度目かの深いため息をもらすのであった。
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