講演や学会発表、講義のためのスライド作成は、これまでは一人で黙々とキーボードを叩く作業がほとんどであった。もちろん、若手の頃には先輩医師がそばにいて指導してくれることもあったが、常に付きっきりでサポートしてくれるわけではない。結局のところ、多くのスライドは孤独な作業の中で生まれてきたのだ。
私自身、これまで数多くの講演を重ねてきた。決して「慣れきっている」とまでは言わないが、修羅場をくぐり抜けてきた自負はある。時には聴衆が全員敵意に満ちているような状況でも、笑いを引き出し、基本的な情報を提供することで、良好な関係を築いてきた。
私の講演準備の「極意」は、可能な限り早い段階でスライド作成に取りかかることである。まずは大まかに、たとえそのまま発表しても何とか乗り切れるレベルまで作成する。そこから、各スライドの原稿を練り上げ、質を高めていくのだ。目標は、発表の1ヶ月前には完成させておくこと。こうして、長い時間をかけて余裕を持って内容を熟成させてきた。
生成AIとの出会い:まるで有能なアシスタントがそばにいるよう
最近、生成AIを使えば、スライドを「手軽に」「手早く」「とても良いものが作れる」という話をよく耳にするようになった。Copilot ProやGoogleスライドといった名前がインターネット上で目につく。私の検索履歴の偏りもあるのだろうが、他にも様々な生成AIがスライド作成をサポートしているようだ。
「実際のところ、どんなものなのだろう?」以前からその効果には興味があった。そこで、すでに半分程度完成していた講演会のスライド作成に、Copilot Proを導入し、残りの部分を仕上げることにしたのである。同時に、生成AIの活用方法そのものも学んでみようと考えた。
結果は驚きの一言であった。まるでそばに有能なアシスタントがいるかのようだ。いや、ただの「お手伝いさん」という生易しいものではない。かつて私を指導してくれた先輩医師とも違う。私のスライドが完成することを心から願ってくれている、頼もしい存在だと言えるだろう。
だからだろうか、ついついAIに感謝してしまい、プロンプト入力画面に「~して頂けますか」などと丁寧語で入力している自分がいた。そして、あれもこれもと試しているうちに、長時間スライド作成に没頭していることに気づいた。頭の中では、天地真理さんの「一人じゃないってぇ~素敵なことね~」という歌が響いていた。
孤独なスライド作成の日々、そして生成AIがもたらす変化
スライド作成から一息つくと、これまでの講演にまつわる様々な思い出が蘇ってきた。パワーポイントがまだなかった時代、あるいは学会発表で映写機を使っていた頃のことである。先輩医師から何度もダメ出しされながら、地味で無骨な原稿を作ったものだ。医者になって間もない頃、10分間の発表で内容は自由と言われ、訳の分からない発表をして後輩に迷惑をかけたこともあった。
思えば、その恥ずかしい記憶の反動で、講演依頼を断らなくなったのかもしれない。注意深く準備するようになり、自分をより良い講演者として鍛え上げようとしたのだ。そうして、初めて講演が上手いと言われるようになり、もう何年も経つ。そして振り返ると、スライド作成はやはりどんな時も孤独な作業であった。
生成AIがスライド作成に組み込まれることの意味
では、スライド作成に生成AIが取り込まれることには、一体どんな意味があるのだろうか。
「初心者が手軽に早く良いものを仕上げるツール」としてCopilot Proに全てを委ねてしまうと、結局とんでもない内容が出来上がってしまうだろう。そして、信頼関係のある先輩ならば、その自信満々な原稿を徹底的にダメ出しするはずである。それはCopilot Proのせいではない。その時は落ち込まず、しっかりと生成AIを使いこなすことが重要だ。決して、「ああ間に合わないから何とかしなきゃ」という状態を安易に解決するためのツールではないのである。
Copilot Proをはじめとするスライド作成に組み込まれる生成AIは、私たちが今持っている知見をスライド化する際に、より早く、より良いものを作れるようにと願い、私たちを一人じゃないと助けてくれるツールなのだ。いや、それどころか、まだ私は活用しきれていないが、スライド以外のドキュメント作成も、おそらく同じような感覚でサポートしてくれることだろう。
生成AIを活用したスライド作成、皆さんもぜひ一度体験してみてはいかがだろうか? きっと、これまでのスライド作成の概念が変わるはずである。
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