本日は、内科外来で経験した興味深い症例についてご紹介する。
症例の概要と漢方的な着眼点
先日、内科外来に膀胱刺激症状で悩む患者が受診した。この患者は、以前から泌尿器科と連携し、西洋医学的な治療で症状は小康状態を保っていた。
しかし、詳しく聴取する中で、その複雑な全身症状が漢方医学でいう「大気下陥(だいきげかん)」、すなわち昇陥湯(しょうかんとう)**の証であることに気づいた。
症状の詳細:「大気下陥」の所見
問診では、一般的な膀胱刺激症状に加え、以下のような気虚を示す症状が印象的であった。
- 全身倦怠感
- 呼吸苦、特に「息が胸の奥まで入らない」と感じる感覚
- 日中の強い傾眠傾向と、それによる夜間の不眠
- 起立性低血圧様症状: 座位や立位でいると、周囲が緑色に見え、倒れそうになる
これらの症状は「大気下陥」の状態を如実に示しており、まさに昇陥湯の適応であると判断した。
脈診と漢方薬の処方
多忙な内科外来の限られた時間ではあったが、脈診を行うと沈あるいは微脈を確認できた。これは、気虚(エネルギー不足)の状態と一致する重要な所見である。
上記の所見から、私は以下の生薬を組み合わせた漢方薬を7日間処方した。
柴胡、升麻、桔梗、黄耆、知母、竜胆、木通、猪苓 分2間
これらの生薬は、気を持ち上げる(昇提)作用と、下焦湿熱を去り体内の水分バランスを整える(利水)作用を促す方意である。
漢方診療の現実と収穫
漢方医学は、患者一人ひとりの体質や症状に合わせた治療を提供できるのが強みであるが、その分、詳細な問診や切診に時間を要するのが欠点である。
しかし、今回の症例では、限られた内科外来の時間内で、コアとなる症状と脈の所見から「大気下陥」の病態を捉え、昇陥湯の構成生薬を基にした「ほぼコアの処方」を行うことができた。
短時間でも、分かる範囲で問診や切診を行い、最善の処方を導き出すことは可能であると体感できたのは大きな収穫であった。
今後の展望
患者は来週再診の予定である。今回の処方で症状がどのように変化したか、非常に楽しみにしている。
今後も、西洋医学と漢方医学のそれぞれの利点を活かし、臨床の制約の中でも最善を尽くす姿勢で、患者のQOL向上に貢献していきたい。


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