引落打(ひきおとしうち)。型の様々な局面で現れる重要な技だ。
状況としては、太刀側が既に抜き放ち、切先をこちらの顔に向けている緊迫した場面。 対する杖側は、相手に真横になり、肩口を向け、杖を体側に斜めに隠すように構える。一見すると武器を持たない「素手」のように見せる、高度な対応だ。
それは、まるで居合のものすごく不利な条件を想起してしまうような、ギリギリの感覚だ。
私はこの引落打を練習する際、どうしても越えられない壁があった。 打ち込む寸前、フッと意識が飛ぶのだ。 気を失うわけではない。だが、ゆっくり動いて確認しても、どうしてもそこに「空白」が生まれてしまう。隙というか、動作に無責任な時間というか、思考が停止したような奇妙な感覚に困っていた。
前回の稽古で、この引落打について先生から指導が入った。 非常に面白いアドバイスだった。 「杖を上げた後、次の手順として、空いている空間に自分を入れるように前に出なさい」
この表現は直感的に、何かとても大切な核心を突いていると感じた。しかし、その場では頭でも体でも、そのイメージをなかなか受け入れられなかった。
道場を離れ、自主練を繰り返す中で、ようやくその意味が体に入ってきた。分かった気になった、と言うべきか。 その瞬間、長年悩まされていた引落打の「空白時間」が霧散した。 杖を操作することと、体がその場へ入っていくこと。その二つが繋がった確かな手応えがあった。


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