平胃散(へいいさん)は、中国の宋代(960~1279年)に編纂された『太平恵民和剤局方』(たいへいけいみんわざいきょくほう)を出典とする漢方処方である。名前の由来は、定かではないが胃の機能を平らかにする(調える)という意味を持っているのだそうだ。
配薬は蒼朮、厚朴、陳皮、大棗、甘草、生姜で適応は湿困脾でよく使われる。胃腸の機能低下と一括りして良い。例えば食欲不振や胃もたれ、下痢まで適応がある。使いやすく結構なことだ。結構なのだけど、私にはどうも使うことがあまりない。
何故なら、腹部膨満が主要症状、適応条件にある。これは厚朴が配薬されているからだ。だから分かりやすい。しかし、実際胃腸の調子が落ちた人でどれだけ腹部膨満感があるのか。どうも、それがひっかかって平胃散が処方できないのだ。これまでは、あれ?お腹が張ってないのか、ふーん。って感じで別の処方を検討してしまっていた。
しかしどうだろう。改めて平胃散を見ると、ここから厚朴を去ってはどうなんだろう。ダメなのかな。むしろ厚朴を加える方が加減方で原法はなかったのではないかな。と、ふとそう思っていた。エキス剤の歴史的経緯についてはこれ以上無い「古典に生きるエキス漢方方剤学(小山誠次著 メディカルユーコン)」 の平胃散の項を読み耽った。すると朱丹渓の『局方発揮』には厚朴に関しては「腹満実急の者に非ざれば用いず。」とあるのだ(同上p1010)。つまり、腹部膨満が無ければ加え無くて良いということだ。さすが朱丹渓。
ここまで来ると少し整理出来た。厚朴の扱いをどうするか。この配薬は他の生薬と比較して具体的に消化管の蠕動を順方向に向けてやることを示しているのではないか。つまり、胃腸の機能低下があったとき、腹部膨満感があれば迷い無く厚朴を入れる。しかしそれがなくてもなくても、少量でも加えることで、食べ物の受容、第1、2分別ができるのではないか。そしてそれどころか病機に合わせて厚朴以外の、下方向のベクトルの生薬を配薬しても良い。そして、全く去っても良い。相変わらず漢方は自由だ。
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