ぼかして書くこととする。これは以前書いた記事のリライトである。
近畿地方で漢方の修行をしていた時のこと。
病院から車で1時間程度のところにある、とても大きなお屋敷の中に、代々その家を守る剣術を教える宗家がいた。
その宗家、私の漢方の師匠と仲がよく、さらに以前病院の用務員をしていたことから、時々ふらっと医局にこられていた。
そしてその宗家は定期的に私の勤めている病院に来られて、その流派をご教授頂いていた。
当時の私は東北のある兵法を納めていて、興味はあったものの、新たに別の流派を身につけるほどの情熱はなかった。はい。今ではとても残念に思う。
その宗家と二人気になったとき、私に語ったことが忘れられない。
「先生(Dr.おぐりん家)はE先生(漢方の師匠)が漢方得意になったのはどうしてだと思う?」
「師匠は漢方が得意なのが当たり前である前提であったので、まったく想定していない質問であった。
本を一杯読んで正しい理論を作ったからかな。老中医を一杯見学したことかな。批判的な読み方で古典を読みあさっていたからかな。これと言ってスカッとした答えが思い浮かばなかった。
少し逡巡したが諦めて答えた。
「分かりません。」
私を見据えていた宗家が、私がそう答えるであろうことを予測していたかのように、まったく同じ顔つきで、すぐに答えた。
「それはな、いっぱい患者を診ているからだ。」
この言葉で私は頭をはたかれた気になった。
そうだ。持っている知識をともかく使うことが上達の鍵だ。どんなに凄い理論を暗記しても、ちゃんと患者さんを見て処方していけなければ意味が無い。上達も遅れる。
当時、まだ経方医学の理論の構築中で知識と実際の処方との間に乖離があり、悩んでいた時期であった。だから少し、患者さんを診るのが怖い感じがしていた。
この話を聞いて、恐怖心を捨て、意識的にむしろ多くの患者さんを診るようになった。
その後、師匠からお前は漢方の習得のスピードが速いなとお褒めの言葉を頂いた。懐かしい想い出である。
コメント