私はこれまで断食明けはまず、プロテインを飲んでから食事をしていた。タンパク質を食前に摂れば満腹感が得られることがその根拠となる。そのことそのものは正しい。しかしダイエットという観点から見て果たして正しいだろうか。
16時間の断食(インターミッテント・ファースティング)を終えた直後、体の中では何が起きているだろうか。空腹という最大のスパイスを前に、いきなり好物を口にしたい衝動に駆られるが、ここで何を、どの順番で、そしてどれほどの「時間差」で食べるかが、ダイエットの成否と体調を大きく左右する。
結論から言えば、断食明けの体は「インスリンの上昇をいかに緩やかに抑えるか」、そして「休んでいた胃腸と肝臓をいかに労わる(補肝)か」が最優先課題となる。その具体的な手順と、科学的な根拠について解説する。
なぜ断食明けにインスリンを抑える必要があるのか
断食明けの体は、長時間栄養が入ってこなかったことにより、「インスリン感受性」が極めて高まっている。これは、少量の糖質や刺激に対しても、膵臓が敏感に反応して大量のインスリンを分泌しやすい状態を意味する。
ここでインスリンが急上昇(インスリンスパイク)すると、以下のようなリスクが生じる。
- 血糖値の乱高下: 急激に上がった血糖値がインスリンによって急降下し、食後の強い眠気やだるさを引き起こす。
- 脂肪蓄積の促進: インスリンは「同化ホルモン」であり、血中の糖や栄養を脂肪細胞へ取り込む働きを強める。
- 食欲の暴走: 血糖値の急降下は脳に「エネルギー不足」と誤認させ、さらなる糖質への欲求(リバウンド)を招く。
「補肝」というもう一つの重要課題
断食中、肝臓は休んでいるわけではない。むしろ、体脂肪を燃焼させてエネルギーを作る「糖新生」や「ケトン体生成」のためにフル稼働している。
断食明けにいきなり高タンパク・高糖質な食事を摂ることは、出力モード(エネルギー産生)だった肝臓に対し、いきなり過酷な入力モード(代謝・貯蔵)を強いることになる。この急激なスイッチングは肝臓に大きなストレス(代謝熱の急増)を与え、結果として基礎代謝の低下や倦怠感を招く。
したがって、本格的な食事の前に肝臓の働きをサポートする「補肝(ほかん)」のプロセスを挟み、代謝をスムーズに移行させる必要がある。
インスリン抑制と補肝を両立する「黄金の4ステップ」
インスリンの暴走を抑え、肝機能を保護しながら効率的に栄養を吸収するための具体的な手順は以下の通りである。
ステップ1:準備と補肝(食事開始の15〜30分前)
【摂取するもの】椎茸出汁、ボーンブロス、またはしじみ汁(具なし)
まずは「プレ・ブレイク」として、温かいスープで胃腸と肝臓をアイドリングさせる。
- 補肝成分: しじみ汁のオルニチンやタウリン、ボーンブロスのグリシンが、疲弊した肝臓をサポートする。
- 目安時間: 本格的な食事の15〜30分前に摂取することで、消化管ホルモンが分泌され始め、脳が食事を受け入れる準備を完了する。
ステップ2:クッション(食事開始時:T+0分)
【摂取するもの】生野菜サラダ(キャベツ、レタスなど)
食事の開始時は、食物繊維を先に摂取する。これがその後に続く栄養の吸収スピードを物理的に遅らせ、インスリンの過剰分泌を防ぐ。
※ウィークデイの課題:
実際のところ、ビジネスパーソンが平日にはたらいている際、この「ステップ2」の実施が困難なケースは多い。会議の合間や移動中など、悠々とサラダを食べてからメインに移る時間を確保できないのが現実である。その場合は、ステップ1の「出汁」によるアイドリングをより確実に行い、ステップ3の食事自体の糖質量を徹底して抑えることで代替する。
ステップ3:本食事の開始(ステップ2の約10分後)
【摂取するもの】肉、魚、卵、低GIの主食(玄米など)
野菜を食べ始めてから約10分。食物繊維が十二指腸に到達した頃合いを見て、メインの栄養を投入する。高タンパク・低GIの食事を心がけることで、プロテインレバレッジ仮説に基づき、食欲を早期に満たし、リバウンドを防止する。
ステップ4:mTORの最適化(本食事の後半〜終了15分後)
【摂取するもの】ホエイプロテイン
吸収の速いホエイプロテインは、食事の後半、あるいは食後15分程度空けてから摂取するのが望ましい。このタイミングであれば、肝臓への急激なアミノ酸負荷を避けつつ、筋肉の合成スイッチ(mTOR)を適切にオンにできる。
結論
断食明けの「最初の一口」から「メインの食事」までには、最低でも15分から30分のバッファを設けるべきである。
- 15〜30分前に出汁で肝臓をアイドリングさせる
- (可能であれば)食事開始直後に野菜でフィルターを作る
- 10分以上の時間をかけて高品質なタンパク質へと繋ぐ
平日の勤務中など、ステップ2が物理的に難しい場合であっても、ステップ1の「補肝」とステップ3への「時間差」を意識するだけで、インスリンの暴走は十分に抑制可能である。この戦略的プロセスこそが、断食の効果を最大化するための唯一の正解である。


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