およそ半月前、杖道の稽古で「打ち込みの威力が弱い」と指摘された。
指摘を受けたのは、基本の打ち込みである以下の3つすべてである。
- 引落打(ひきおとしうち)
- 逆手打(ぎゃくてうち)
- 突外打(つきはずしうち)
打ち込みを形として上手にこなすだけでも相当な技術を要するため、これまではまず「綺麗に打つこと」が一つの到達目標であった。
しかし、そもそも威力がなければ武道とは言えない。これまではあまり「武術としての威力」を意識した稽古はしていなかったものの、先生にそう指摘されたからには意識せざるを得ない。これまで学んできた動きを今一度見直し、武術的な身体操作を復習しながら、稽古にいろいろと取り入れていきたいと思った。
肘を脇につけ、半身の入れ替えで足元まで打ち込む
まず、以前習った古武術や、これまで検討してきた「体の理(ことわり)」について思い出している。
以前、K先生から「打ち込む時は、肘を脇につけたまま下ろす」と習ったことがある。もちろん、そのまま真下に下ろすだけでは相手に届かないため、体の向きを変える必要がある。具体的には、左前の半身から右前の半身へと体を開く(入れ替える)のである。
そうなると、動作を主導するのは右手ではなく左手になる。左手で杖を持った状態で、脇に肘をつけたまま、相手の足元まで深く打ち込むように腕を伸ばしていく。
その際、K先生からは右手の扱いについて次のように厳しく言われた。
- 右手は使うな、ただ支えるだけである。
- 最後に打ち終える瞬間にカチッと持つ。
- 支える時に右手を使ってはならない。絶対に右手は使うな。
右手はあくまでも、振り下ろした杖が暴れてどこかへ行ってしまわないように、最後に軌道を抑えるガイドのような役割である。
つまり、様々な条件を考慮すると、実質的に「左手1本で打ち下ろす」ことになる。では、左手1本で威力のある打ち下ろしをするにはどうすればよいか。まずは左手をしっかり握ることが必要である。そして、しっかり握った上で、打ち下ろす瞬間に腕を伸ばす(肘を伸展させる)ことが求められる。
「力を入れてはいけない」の解剖学的な正体
ここで、腕の筋肉の働きについて考えてみる。
腕を伸ばす働きをするのは、主に上腕三頭筋である。一方、上腕二頭筋(いわゆる力こぶの筋肉)は、肘を曲げて腕を引っ込めるための筋肉である。
ここに人間の感覚の罠がある。人間は「力を入れよう」と意識すると、どうしても感覚の強い上腕二頭筋を無意識に働かせてしまう。腕を伸ばして打ち込みたいのに、腕を曲げる筋肉に力を入れてしまえば、当然ブレーキがかかることになる。
一方で、腕を伸ばす「上腕三頭筋」は、収縮しても「力が入った」とは感じにくい性質を持っている。主観的にはまるで力が入っていないような感覚の状態で、上腕三頭筋は強く収縮するのである。
これは、かつて古武術で学んだ「力を入れずに強い突きを打つ」のと全く同じ原理であることに思い至った。腕を伸ばす動作である以上、「力を入れてはいけない」という武術の教えは、解剖学的にも完全に正しいのである。強い突き、そして強い打ち込みを実現するには、この「力感のない上腕三頭筋の収縮」を活かすしかないのではないかと思えた。
次の課題:「逆手打(ぎゃくてうち)」をどう攻略するか
しかしそうなると、「逆手打」で打ち下ろす場合が少し難しくなる。
なぜなら、逆手打で打つ際は、すでに腕を伸ばした状態からスタートするからである。腕が伸びきった状態から威力をもって振り下ろすにはどうすればよいか、という新たな問題が生じる。
これについては、まだ自分の中でも完全には納得のできる答えが出ていない。ただ、腕の伸展が使えない以上、完全に「体捌き(たいさばき)」で打ち下ろす領域になることは間違いないだろう。
現時点では、「体をわずかに前へ進めること」、そして「肘が体から離れた状態から、脇に付けるまでの所作」の中に、威力を生み出す新しい発見があるような気がしている。これはまた、次の段階の探究テーマである。



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